災害と犯罪から「命を守る」ための共通事項。いざというときに“冷静でいられる自分”の訓練を
いつ起こるかわからないリスクに対して備えること、という点で共通する防犯と防災。リスクが高まっている現在、どんな心構えが必要なのでしょうか?国際災害レスキューナースの辻 直美さんと元埼玉県警捜査一課刑事の佐々木成三さんが、命を守るために大切なことを語り合いました。

意外と多い防犯と防災の共通項
佐々木:防犯と防災って、似ていると思うんです。たとえば、僕はレストランなどに入ると必ず非常口を探すのですが、辻さんはどうですか?
辻:もちろんですよ。初めて行く場所では、必ず非常口の場所を確認します。
佐々木:火事が発生すると入り口に人が殺到するので、将棋倒しになって危険です。でも、非常口の場所を知っていたら、生存確率は高まります。
辻:入り口にも行けるし、非常口にも行ける。選べますからね。選択肢が多い方がいいのは、防犯も防災も同じです。
佐々木:防犯も防災も“術(わざ)”があるかどうか。しかも、いざというときは、ほんの数秒で判断しなくてはならない。そのとき、冷静に行動するためには「知っておくこと」が大事。
辻:たしかに情報はとても大事ですが、実践が伴わないと難しくないですか?
佐々木:そうですね。そのためにも、じつは僕、アホみたいなんですけど、ときどき、目をつぶって息を止めながら家の玄関の鍵をあけるんです。
辻:なんのために?
佐々木:焦ると冷静な判断ができなくなるからです。人間は息が止まると気が焦る。だから、焦りそうなときでも、「冷静な自分」でいられるよう、日常生活で習慣づけているんです。
辻:おもしろい! 今度やってみます。でも、どうしてその訓練を始めたんですか?
佐々木:映画『タイタニック』ですよ。船内に浸水が始まってジャックとローズは逃げるのですが、途中、柵に鍵がかかっていて先に進めない。とおりかかった船員にあけてもらうよう頼むのですが、船員は鍵を水中に落としてしまうんです。
辻:たしかに、ありました。
佐々木:すると、ジャックはすぐさま潜って、鍵を拾うんです。そのシーンを見て、「果たして、僕はディカプリオのように冷静に行動できるだろうか?」って。
辻:それが「冷静でいられる自分」の訓練になったんですね。
佐々木:毎日ではなく、思い立ったときですけどね。
辻:わかる気がするのは、私は年4回、ライフラインをきって防災リュックの中身と備蓄品だけで数日間生活するんです。それは、今の自分のことを知るためです。3か月前に準備した備蓄品が、今の自分に合わないことがけっこうある。実践練習で自分の立ち位置を知り、備えを見直さないと助からないから。
「知っている」というバイアスこそが危険

佐々木:「ちゃんと知る」ことは重要。ただ「知っている」という自己認識って意外と怖い。知っているという先入観、バイアスはときにジャマになります。
辻:そう! 「知っている」で止まるとむしろ危険ですよね。
佐々木:特殊詐欺にだまされた人の多くが、特殊詐欺について「知っている」んです。でも、だまされる。なぜかというと、「オレオレ詐欺」で止まっているからです。今、「オレオレ」って言う犯罪者なんていませんよ。犯罪者は警察の動きや社会情勢を見ながら常にアップデートしている。手口はどんどん巧妙化していますから。
辻:私たちも常にレベルを上げていく必要があるわけですよね。だから、「自分は大丈夫」という思い込みの激しい人が危ない。あと、知識はあっても実証が伴わない人も怖い。「それ、緊急時に本当にできる?」という対策で大丈夫だと思っているケースもよくありますよね。
佐々木:加えて、終わりがないのも防災と防犯の共通点かな。
辻:そうですね。どれだけやっても「完璧」はないし、「これで大丈夫」はありません。
佐々木:だから、二手三手先を考えて備える。ただ一方で、過剰に恐れることはないと思うんです。常にアンテナを立てている必要はなく、いざ! というときに動ければいい。
辻:身構える必要はないですよね。生活になじんでいると、万が一のときにも動けます。私はよく「防災は日常の延長」と言うのですが、まさにそれです。
