知らないとヤバイ法律、知ったら知ったで悪用する人が出てきてしまう……それが法律です。弁護士をしながら、法律にまつわる4コマ漫画を日々、X(旧Twitter)で発信をしている【漫画】弁護士のたぬじろうさん(@B_Tanujiro)。意外と身近に存在する、法律にまつわる「ヤバイ」を漫画にすることで、法律を知ることの重要性を読者に投げかけています。

【漫画】「知るほどヤバイ知らないともっとヤバい法律の闇」本編を読む

今回は、「不倫」にまつわる怖くてヤバイ話。不倫されたのにお金を払わないといけない、そんな奇妙で恐ろしい状況が現実にはあり得るのです……!

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――この話を漫画にしようと思ったきっかけを教えてください。

たぬじろうさん(以下、たぬじろう):インターネット掲示板サイト「2ちゃんねる」に、通称「伝説の92」と呼ばれている有名な投稿があります。投稿内容としては、概ねこの漫画に記載されたような内容のものでした(気になる方は「伝説の92」と検索してみてください)。

「浮気した側がお金をもらえるわけがない」と笑い話にされているのですが、実際には……(以下略)……!!

一般的な感覚からすると、まさに「知るほどヤバイ、知らないともっとヤバイ」法律知識といえるのではないでしょうか。そのため、漫画の題材にしてみました。

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●「不貞行為」とは?

配偶者以外の人と自由な意思のもとに性的関係を結ぶことをいいます。典型例は性行為・肉体関係(つまりSEX)です。

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――日本では「不倫は犯罪行為ではない」とされています。めちゃくちゃ罰せられる海外の事例などがあれば教えてください。

たぬじろう:日本では、現在でこそ不貞行為は犯罪ではありませんが、昭和22年までは姦通罪という犯罪とされていました。

多くはないものの、現代でも、不貞行為を犯罪としている国は存在しています。

中には厳罰を規定している国もあり、たとえば、「イランでは婚外での性的関係は犯罪とみなされており、鞭打ち100回の刑に値し、場合によっては投石による死刑に処される。」とされています(法務省入国管理局による仮訳「国別方針及び指針 イラン:姦通者(2.0版)」(2016年11月)。

不貞行為はいけないことですが、それで死刑があり得るというのは、日本人の感覚からすると信じられませんね…。

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――不倫した側がお金をもらう、という一見奇妙な展開が恐ろしくもおもしろくもある話でした。より多くの財産を持っている側が不倫されたときの、最善手の一例を教えてください。

たぬじろう:財産分与は離婚に関する制度なので、離婚しなければお金を支払う必要はありません。そのため、不倫した相手を許し、離婚しないという選択肢がとれるのであれば、ある意味でそれが最善といえるかもしれません。

離婚する前提であれば……、うーん…、難しいです。

相手方が弁護士に相談したら、財産分与でお金がもらえる可能性があることも説明される可能性が高いです。そのため、ピョン吉郎の言うとおり「相手方が弁護士に相談する前にサッサと離婚する」というのも一つの選択肢かもしれません。あとは離婚から2年間、財産分与の請求がないことを祈る、と。

もしくは、離婚する際に、離婚協議書を作成するという選択肢もありえます。お互いに何も請求しないという内容を盛り込んだ離婚協議書を作成できればベストです(弁護士が条項を作成するのであれば、「●と●は、●と●の間には、本協議書に定めるものの他に何らの債権債務がないことを相互に確認する」等の文言を使います)。ただし、離婚協議書の作成を求めると、相手方が弁護士に相談する可能性も高まるかもしれないので、諸刃の剣ですね。

どうするのが最善手かは、悩ましいところです。

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【もっと教えて!たぬじろうさん】

慰謝料とは、精神的苦痛に対して支払われるお金のことです。

不貞行為の場合、多くのケースでは300万円の請求から始めて、100万円前後から200万円あたりで落ち着くケースが多いというのが私の印象です。100万円以下になるケースはそれなりに多いですが、200万円を超えるケースは少ないと思います。

一例として、東京地判平成24・12・25(平成24年(ワ)第2104号事件)のケースをご紹介したいと思います。

以下のようなケースで、裁判所は慰謝料をいくら認めたと思いますか?

・夫婦間の子として届出がされた子どもが、実は夫婦間の子どもではなく、不貞相手の間にできた子どもであったと判明した(子どもは2人)

・結婚後約1年6カ月経過してから、不貞行為が行われるようになった。

・不貞行為が行われた期間は約2年7カ月。

・不貞行為が原因で離婚した。

・不貞配偶者と不貞相手の双方に慰謝料を請求した。

上記のようなケースで、裁判所は、180万円の慰謝料を認めました。この金額は1人あたりではなく、2人まとめての金額(不貞配偶者と不貞相手が連帯して支払う金額)です。ただし、既に20万円が支払われていたため、実質的に180万円+20万円=200万円の慰謝料といえますね。

この裁判例は、特に何か法律雑誌に大きく取り上げられた事例でも、リーディングケースとして有名な事例でもありません。あくまで下級審である東京地方裁判所の一事例にしか過ぎません。しかし、「慰謝料ってそれだけしか認められないの?」という感覚を知っていただくためにはよいケースだと思い、ご紹介させていただきました。

一方、財産分与は財産の精算という側面が強い制度です。

夫婦で作ってきた財産だから、離婚する際には、夫婦で均等に分けましょうということですね。原則として不倫の事実は加味されません。

慰謝料とは異なり、財産分与は青天井です。財産の額が大きいほど、名義の偏りが大きいほど金額は大きくなります。

そのため、漫画のように、財産分与額が慰謝料額より大きいと、不倫をした側がお金をもらう、という事態が起こるのです。

なお、財産分与の対象は、現預金以外にも不動産、自動車、株式等のすべての財産が含まれます。金額が一目でわからない財産の場合は、その評価額が争いになることもあります。

一方で、特有財産といって、夫婦が協力して築いたものではない、一方固有の財産は財産分与の対象にはなりません。典型的には独身時代から持っていた財産(ただし変動がある普通預金の場合には、特有財産とは認定されにくい)や、相続により取得した財産です。