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80代の母親が亡くなって、60代の姉と50代の弟の3人で相続手続きをすることになった和男さん(50代男性)。母親は生前に遺言書を作成し、その内容も子どもたち3人に話しており、3人とも合意がとれていたので、準備万端、何の問題もないと思っていました。ところがまさかの事態発生。姉弟3人で三等分するはずだった母の預金を、姉が母からもらったと一点張り…。姉弟の関係を悪化させたくない和男さんは一体どうすれば? 本記事では、和男さんが取るべき対応方法について、相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が解説します。

母親が亡くなり、姉弟3人で相続手続きに

88歳の母親が亡くなって、65歳の姉と54歳の弟の3人で相続手続きをすることになった和男さん(59歳)から相談がありました。


母親はもともと自宅で美容院経営をしており、5年ほど前までは仕事についていたくらいずっと働いてきました。亡くなった父親は公務員で収入は安定しており、2人でお金を出し合って自宅を購入。他にも2か所の土地を買って、駐車場経営をしてきました。

父親も遺言書を残していたこともあり、同様に母親も公正証書遺言を残して、姉が執行者となっていました。

土地はひとつずつ、預金は3分の1ずつ

母親の遺言書は5年前のもので、ちょうど仕事を辞めた頃に作られています。自宅は同居する姉に、駐車場は和男さんと弟に一つずつとなっており、預金は3分の1ずつとされています。

母親は、生前にこの遺言書を作ってその内容を3人の子どもたちにも話しており、3人とも合意がとれていたので、準備は万端、何の問題もないと思っていました。ところが、そうではない事態が起こり、相談に来られたのです。

母親の預金はゼロだと、姉の一点張り…

和男さんと弟は仕事を機に家を離れて、結婚を機に自分で家を購入。妻子と住んでいますので、実家に戻って住むことはありません。

姉は一度結婚したものの、離婚して実家に戻り、その後はずっと両親と暮らしてきました。母親の介護もしてもらったこともあるので、姉が実家を相続し、そのまま住み続けることに異論はありません。


問題は、預金です。母親はずっとお店を経営してきて、その店は繁盛店となり、成功していると思われます。それなりの預金が残っているはずです。ところが姉いわく、介護費用もかかり、とにかくゼロだというのです。

和男さんがそんなはずはないというと、姉は母親からもらったと話したそうです。

税理士から「贈与」に引っかかるお金が多いという指摘を

和男さんは、介護をする過程で母が現金を下ろすようにに指示していたのかも知れないと思い、何も言わなかったのですが、税理士から「贈与」に引っ掛かるかもしれないお金が多いと指摘を受けたのです。


母親の預金は同居する姉が管理していて、離れている和男さんと弟は任せてきたのですが、姉は前の貯金通帳は捨てたと言いますし、母から「お金を下ろして」と言われ、下ろした後は母親が何に使ったかは知らないと言います。
 

母親はお店をやめてからは病気が見つかり、この5年間位は入退院を繰り返していて、病院と介護施設を出たり入ったり。他にお金を使うことは考えられません。

贈与は相続財産になる

姉は母親の二つの預金口座から少しずつ引き出し、2,000万円あった口座はゼロになっています。この他にも満期になった定期預金1,000万円も自分のものにしています。

いずれも母親からもらったと姉はいうのですが、申告を担当する税理士から、相続財産として加算しないといけないと指摘されました。


本来ならば、預金は3分の1とする遺言書により3人で分けるべきところですが、姉は自分がもらったというばかり。和男さんと弟はお金が欲しいわけではなく、姉に本当のことを言ってもらいたいという気持ちですが……。和男さんは、どのように対処すればいいか迷っていると言います。

他人なら犯罪でも身内には通用しない

亡くなる3年前の贈与は相続財産として加算しますから、まずは相続財産として申告、納税することが必須です。3人で分けることを姉に提案してみるべきですが、姉は母親からもらったので弟たちに分けるなんてとんでもないということでしょう。


まして母親の了解なしに自分のものにしたとすれば、他人なら犯罪ですが、身内の場合は判断が難しいため、家族の話し合いで解決することになります。姉が認めなければもらいきりで、一人勝ちという結果となります。

調停してもいいことはない

解決する手段として調停に持ち込み、事実を明らかにしていく方法もありますが、「母親の依頼で下ろして渡したのであとは知らない」と姉が言い張れば、それで済んでしまうこともあり、結果は変わらない可能性が高いと言えます。


姉に法律や理屈を突きつけても逆切れされて関係は悪化することは想像に難くありません。きょうだいよりもお金に頼るのは残念ですが、姉の選択で致し方ないと受け止めて切り替えていったほうが賢明だと言えます。

結局和男さんは、「弟とも相談してみます」と帰られました。後味が良いとは言えない結末になりましたが、「話して少し気持ちが楽になりました」と帰った和男さんの後ろ姿に少しホッとしました。

※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。

曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士

◆相続対策専門士とは?◆

公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。

「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。