『オクラ~迷宮入り事件捜査~』©︎フジテレビ

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「ヒットですよ!」

参考:武藤将吾×足立遼太朗Pに聞く、刑事ドラマの醍醐味 反町隆史×杉野遥亮のバディ誕生秘話も

 プロ野球日本シリーズ第3戦に続いて放送された『オクラ~迷宮入り事件捜査~』(フジテレビ系)第4話は、杉野遥亮演じる不破利己の過去、そして現在を描いた。

 過去の未解決事件を追う第4話で、千寿(反町隆史)たちが手がけたのは白金のホステス殺人事件。2年前、銀座の高級クラブで働く不知火美佳(樋井明日香)が自宅で殺された。当時、美佳は脅迫電話やストーカーの被害に遭っており、利己は同僚の志熊亨(有澤樟太郎)とともに美佳の身辺警護に当たっていた。ある時、何者かが部屋に侵入し、利己が襲われて気を失っている間に犯行が行われる。目を覚ましたとき、利己が目にしたのは血まみれの美佳と、母の名を呼ぶ息子の壮太(石塚陸翔)、美佳の元交際相手で壮太の父である新山博一(後藤剛範)が逃走する姿だった。

 警視庁捜査一課特命捜査情報管理室、通称「オクラ」の新入りが利己だ。クールな利己は合理的でタイパ重視と、いかにも今の若い世代らしさを備えている。けれども、それは彼の一面にすぎない。本当のところ利己はどんな人間なのか。限られた情報しかなかったせいか、不破利己のイメージは漠然としていて、鮮明な像を結んでいなかった。

 第4話で描かれた利己は情にあつい人物だった。元恋人の美佳を死なせてしまったことを引きずっており、残された壮太の面倒を見ている。一方で、犯人逮捕に執念を燃やし、事件の再捜査は利己のたっての希望だった。決定的な証拠、なかでも凶器が発見されなかったため、新山は逮捕されずに捜査は終了していた。利己は新山を挑発し、家宅捜索に踏み切る。あらかじめ用意した包丁を仕込んで、凶器を押収した。

 『オクラ』では、お蔵入りした事件を再捜査するために証拠のねつ造が行われるが、千寿と利己の場合では、その用い方が異なる。千寿は誰が犯人か確証を得た上で、捜査を再開するため証拠をねつ造しているのに対して、利己は犯人である決定的な証拠そのものをねつ造するという違いがある。白金の事件では、新山を犯人に仕立て上げるために凶器を作り出した。新山が犯人ではないことはこの時点で示唆されていたが、真相が小学3年生の少年の口から語られると、残酷な真実に胸が締めつけられた。

 利己は少し先走ってしまったようだ。美佳への思いが目を曇らせたのか、クールな利己らしさは後退し、タイパを無視して事件にのめりこんだ。いや、むしろこれが本当の利己なのだろうか。身近な誰かのために自分のことを度外視して情熱を傾ける。第4話ラスト間際で、鑑識の愁(観月ありさ)に千寿に協力する理由を尋ねられる場面があったが、美佳と壮太の事件に限らず、未解決事件の捜査そのものに、自分の生きる道を見出したようにも見えた。

 単独行動でバディの片割れが絶体絶命のピンチに陥り、相棒が助けに向かう王道パターンで幕を閉じた第4話。新山の名前が検索でヒットしなかったのは、別の犯人がいるからである。誰が、何のために犯行に及んだのか。さしあたっては、利己の後頭部にヒットした鉄パイプが急所を外れていることを願うばかりだ。

 10年前に殉職した、倫子(白石麻衣)の父で千寿のかつてのバディである結城(平山祐介)が口にした「ハイド・アンド・シーク」は何を意味しているのだろう? 脚本の武藤将吾は過去にも『ニッポンノワール-刑事Yの反乱-』(日本テレビ系)で、特定のフレーズが引き金になって相手に暗示をかけるギミックを用いていた。結城を撃ったのが千寿なら、結城の発した「ハイド・アンド・シーク」がそうさせたのか? 千寿がひた隠しにする秘密と塗り替えられた記憶にも注目したい。

(文=石河コウヘイ)