『嘘解きレトリック』©︎フジテレビ

写真拡大

 なぜかは説明できないが、どうしても目が離せない人がいる。そう、現在放送中の『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)に出演中で、鈴鹿央士と松本穂香がW主演を務める月9ドラマ『嘘解きレトリック』(フジテレビ系)へのゲスト出演を控えている片岡凜のことである。もちろん、表情がいい、演技が上手いといった個別具体的な要因はあれど、それを抜きにしても佇まいそのものに惹かれてしまうのだ。それを説明しようとすればするほど、陳腐なものになってしまうように思えてならない。

参考:片岡凜、渡邉美穂、川床明日香、池田朱那 『虎に翼』で活躍した若手女性キャストたち

 片岡は2022年に『石子と羽男―そんなコトで訴えます?―』(TBS系)で俳優としてのキャリアをスタート。『ボーイフレンド降臨!』(テレビ朝日系)で連続ドラマ初出演を果たすと、『ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と』(TBS系)での演技が注目を集めた。片岡が演じた佐藤小春はペンディングされた世界で共同生活を送る江口和真(日向亘)の彼女。女子高生にして妊娠するという展開は話題を呼んだが、筆者が驚かされたのはその多彩な表情である。小春はどこか世界を冷めた目で見ているような女性だったが、和真に妊娠を告白するシーンでは涙を流しながら不安を吐露する。被っていた仮面がボロボロと崩れ落ちていくように表情を濁す片岡の演技はいつ見ても素晴らしい。

 そんな片岡の名前が広く知れ渡ったのは、NHK連続テレビ小説『虎に翼』だろう。片岡は東京大学の法学部を志望する優等生の美佐江と、その娘の美雪を一人二役で演じてみせた。ヒロイン・寅子(伊藤沙莉)に美佐江が投げかけた「どうして人を殺しちゃいけないのか」という疑問は、本作においても重要な問いとしてまとわり続けることになる。片岡の演技はシンプルに言葉で表すのであれば狂気的と形容されるが、実際はより複雑。美佐江は自立しているように見えて、誰か自分の拠りどころを探している脆弱な人間であり、指で軽く弾けば全てが崩れ落ちてしまいそうなほど脆い。だが、その脆さこそが人間の美しさでもある。片岡は目線の動かし方、豊かな表情を通して美佐江の魅力を引き出していたように思う。

 『ギークス~警察署の変人たち~』(フジテレビ系)での演技も絶品だった。弁護士夫妻・伊賀剛(福井晶一)と洋子(阿南敦子)の娘・エイミを演じた片岡。声優学校への夢を口に出せないほど厳しすぎる教育環境で育てられたエイミは、声優学校の入学金に当てるために200万円の時計を盗んでいた。その事実が発覚すると、エイミはこれまで溜め込んでいた不満を爆発させる。『虎に翼』と同じ時期に放送されていた本作だが、『虎に翼』での静かな演技とは打って変わって、感情をむき出しにする演技で作品を盛り上げた。

 10月からは『海に眠るダイヤモンド』で日曜劇場デビューも果たしている。同作は1955年からの石炭産業で躍進した長崎県・端島(軍艦島)と、現代の東京を舞台にした70年にわたる愛と友情、家族の壮大な物語が描かれており、それぞれの時代で神木隆之介の一人二役が反響を呼んでいる。片岡が演じているのは鹿乃子と雅彦の一人娘で、医学部現役合格を果たした秀才の千景。第1話ではまだどう作品に関わってくるのかは分からないが、秀才という役は『虎に翼』で演じた美佐江とも近いものがある。

 さらに片岡は、『嘘解きレトリック』の第4話、第5話のゲストとして、月9ドラマ初出演も決定している。本作で片岡が演じるのは、綾尾家の一人娘・綾尾品子。片岡は「物心ついた頃から世間や人と切り離され、孤独で狭い空間の中で生きてきた品子の蓋をされて来た疑問と孤独を感じて頂きたいです」とコメントしている。どのような演技で魅せてくれるのか期待が高まるばかりだ。

 2024年の活躍だけでも、すでに大物の風格を漂わせている片岡。朝ドラ出演を筆頭に、日曜劇場、月9と新たな扉を開いていった今年は間違いなく片岡にとってターニングポイントとなっていきそうだ。(文=川崎龍也)