[10.27 J2第35節 栃木 0-1 清水 カンスタ]

 思わぬ形で“腕章”を託された副キャプテンが、数的不利のチームを救ってみせた。

 終盤に10人での戦いを強いられた清水エスパルスは1-0のまま迎えた後半アディショナルタイム3分、GK沖悠哉とDF住吉ジェラニレショーンが味方同士で接触し、浮き球を沖がファンブル。そこからDFラファエルに決定的なシュートを放たれ、絶体絶命のピンチを迎えた。だが、このボールはDF原輝綺が決死のブロック。結果的にこれがJ1昇格を決定づけるビッグプレーとなった。

「状況的に声も通りづらい状況だったし、沖も相当声を出していて、喉が潰れるくらいで声も出ていなかった。ジェラも責任感が強いので重なる形になるのが横から見ていてわかった。最悪の場合を考えて、カバーに入った。結果的にそれが正解でよかった」(原)

 清水は後半38分、途中出場でキャプテンマークを巻いていた主将のFW北川航也が相手選手に対する報復行為で一発退場処分を下され、副主将の原が代役でキャプテンマークを担当。「巻いても巻かなくても自分がやることは変わらない。巻いたからどうこうというのはなかった」と意識はしていなかったというが、結果的にはその腕章にふさわしい冷静さでチームを救った。

 試合後には悔しさから涙を流す北川とピッチ上で抱擁し、キャプテンマークを“返還”。北川からは「ありがとう」と感謝の言葉を伝えられたというが、一方の原も「今日の試合はそうなったけど、チームで攻撃を一番支えていたのは彼だし、今まで支えてもらっていたぶん、今日は自分たちDF陣が集中して戦い抜けた」と感謝を口にし、主将への敬意を強調した。

「最後に昇格が決まった瞬間、彼にはピッチに立っていてほしかった。でも彼は彼なりに僕たちがどうこういうまでもなく反省していると思う。僕たちにとってキャプテンは彼しかいないと思っている。昇格した年のキャプテンが彼で良かった」

「相当悔しかっただろうし、彼も申し訳ない気持ちもあって、選手の前でもそう言っていた。とにかく昇格が決まって良かった。(一発退場した試合でも昇格が決まったのは)不幸中の幸いというか、それも彼が持っているものだと思う」

 主将への思いだけでなく、この日は原自身にとっても重要な局面だった。昨年夏、スイスのグラスホッパーから清水に復帰したが、1年でのJ1復帰には貢献できず、2シーズン続けてJ2で戦うことになった負い目があった。

「去年半年の悔しさが今年ずっと心のどこかに残っていたし、それが自分の原動力になってくれていた。でもサポーターの皆さんを1年待たせてしまっていたので申し訳なく思っている」

 J1昇格決定にも複雑な思いをのぞかせた原は歓喜の瞬間にも浮かれることなく、来季のJ1カテゴリにも「来年のことは何も考えていない。シーズンも残り2試合あるし、他力ではなく、自分たちが残り2試合に勝てばタイトルに手が届くところまで来ている」ときっぱり。「今日明日はリラックスしてもいいけど、大事なタイトル争いが残っているのは忘れちゃいけない。チームとしても個人としてもそこを履き違えないように、しっかり切り替えて頑張りたい」と残り2試合でのJ2優勝に照準を合わせていた。

(取材・文 竹内達也)