「ヤフーニュース」のコメント欄に投稿する際、表示されるメッセージ(サイトから)

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 27日投開票の衆院選で、SNS上に候補者に関する偽情報や真偽不明な投稿が飛び交っている。

 総務省は今回選挙で初めて運営事業者などに対応を要請したが、偽情報を完全に排除することは難しく、各陣営が対応に苦慮している。投票日当日にも出回る可能性があり、専門家は注意を呼びかけている。(上万俊弥、喜多俊介)

拡散

 「時間も人手も足りない中、投稿一つ一つに反論するなんて、とてもできない」。関東地方の野党候補の陣営担当者はそう打ち明ける。

 公示前、X(旧ツイッター)上に、候補が子どもへの性的行為を容認する書き込みを過去にXにしていたとする画像が投稿された。候補は自身のXで否定し、実際候補がこの投稿をした形跡はない。何者かが捏造(ねつぞう)した可能性が高く、その後、画像は削除された。しかし、別の利用者が同じ画像を投稿し、拡散し続けている。

 担当者は「明らかなデマでも、信じる人が出る懸念がある」と困惑する。

 <日本人じゃないのに政治家?><本国に帰れ>

 関東地方の与党候補は、X上でこんな中傷を受けている。以前から自身の国籍に関する誤った情報が繰り返し投稿され、公示前の12日、自身のホームページで悪質な投稿には法的措置を検討すると表明した。それでも中傷は止まらない。

 陣営の担当者は「民主主義を脅かす行為だ。弁護士や警察に相談している」と話した。

各社の対策

 公職選挙法では、政党や候補だけでなく有権者も、公示日から投開票前日まで、SNSを使って特定の候補者を支持する投稿を行うことなどが認められている。

 しかし、SNSによる偽情報や誹謗(ひぼう)中傷が社会問題化する中、選挙でも同じ問題が起きている。

 公選法は、候補者に関する虚偽の情報を公表することを禁じ、罰則もある。総務省によると、SNSへの偽情報の投稿も該当する。しかし、摘発に至った事例はほとんどないとみられる。

 総務省は今月11日、SNS運営やAI(人工知能)開発を手がける企業計14社に、選挙に関する偽情報への対応を初めて要請した。

 X社によると、Xでは衆院選を含めた世界中の選挙に関する投稿を特別体制で監視している。「規約に反する投稿やアカウントは削除や停止などの対象になる」とし、誤解を招く投稿に、別の利用者が情報を補う「コミュニティノート」機能の利用を促している。

 グーグルもユーチューブ上で問題がある動画の削除を進め、LINEヤフーは、運営する「ヤフーニュース」で利用者が衆院選関連のニュースのコメント欄に投稿する際、注意を促すメッセージを表示している。

冷静に

 国際大の研究チームが2020年に1万5000人を対象にオンラインで実施した調査では、特定の政治家の印象をおとしめるデマを見せると、その政治家への支持者が減少する結果が出た。支持の度合いが弱い人ほど影響を受けやすかったという。

 チームの山口真一准教授は「健全な政策の議論や批判は望ましいが、SNSでは、同じ価値観の人とばかりつながり、考え方が偏る『エコーチェンバー』が起きる。選挙では特にリスクが高く、運営事業者は平時以上に偽情報対策を強化する必要があるが、完全に排除することは難しい」と指摘。その上で「投票日当日に偽情報が出回ると、対応が間に合わない可能性もある。有権者は冷静に情報に向き合うことが必要だ」と話している。