どんな仕事でもフットワーク軽く取り組める一流の人は何をしているか。心理学者の内藤誼人さんは「私たちはどんなに面白い作業でも、だれかに強制されたとたんに『カチン』ときて、つまらなくなり不思議なくらいやる気がうせてしまう。そのため上司に何かを命じられるよりも先に、面倒くさいことほど、先を読んでさっさと終わらせるといい」という――。

※本稿は、内藤誼人『考えすぎて動けない自分が、「すぐやる人」に変わる本』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

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■同じ嫉妬でも良い嫉妬ならいくら感じてもいい

ドイツにあるケルン大学のジェンス・ランゲによりますと、嫉妬には良い嫉妬と悪い嫉妬があるそうです。

良い嫉妬というのは、自分より高みにいる人に追いつこうというモチベーションにつながる嫉妬で、悪い嫉妬は、逆に高みにいる人を自分のいるレベルにまで引きずりおろそうというモチベーションにつながる嫉妬だとのことです。

嫉妬という感情は、ネガティブなものと思われがちですが、良い嫉妬ならいくら感じてもかまいません。

出所=『考えすぎて動けない自分が、「すぐやる人」に変わる本』

「いいなあ、私も先輩のようにならなきゃ!」
「羨ましいなあ、僕もあの人のようになりたい!」
「私もいつかは憧れの○○さんに追いつくぞ!」

そういう嫉妬心を持つことが大切です。高みにいる人に自分が追いついていこう、という方向に嫉妬の力を使うのです。

ランゲは、ハーフマラソンの大会の出場選手208名、フルマラソンに出場している162名を対象に、自分のライバルに対して良い嫉妬をするかどうかを聞く一方で、各選手の大会における平均スピード(km/h)と最終的なタイムを調べました。

その結果、良い嫉妬をしている選手ほど、スピードもタイムも良くなることがわかったそうです。

■雲の上の存在に憧れの気持ちを持つ

良い嫉妬をするコツは、自分にとっては雲の上の存在のような人を嫉妬の対象に選ぶことです。

自分と実力が伯仲しているような人ですと、「負けたくない」という気持ちのほうがどうしても強くなってしまって、悪い嫉妬になりがちだからです。

雲の上の存在であれば、そもそも張り合おうという気持ちになりません。どうせ勝てるわけがないので、憧れの気持ちのほうが強くなり、良いモチベーションを高めてくれるはずです。

「あの人を目指して自分も頑張ろう」という気持ちになるのかどうかを確認してみましょう。もしそういう気持ちになれるのでしたら、それは良い嫉妬ですので、どんどん嫉妬してかまいません。自分よりも数段上の人を目指すのがいいですね。

嫉妬の対象を決めたら、後はその相手を徹底的に真似てみることです。

髪型もその人に似せましょう。服装も似せてください。話し方や、その人の振る舞い方、趣味などもどんどん真似しましょう。

野球をやっている少年は、自分の好きなプロ野球選手のバッティングフォームを真似たりするものですが、そういう真似はどんどんやったほうがいいのです。

■力士は「出稽古」で張り合う

お相撲さんは、自分の部屋の力士とばかり練習していてもトレーニングにならないので、他の部屋の力士のところに出かけていくことがあります。「出稽古」ですね。

元横綱の千代の富士が、出稽古で強くなったという話は有名です。あちこちに出稽古に出かけるので「さすらいのウルフ」とも呼ばれました。

千代の富士は力士としては小柄だったので、巨漢の小錦のいる高砂部屋にはしょっちゅう出稽古に出かけていたそうです。

自分よりも弱い力士とばかり勝負していても、強くはなれません。実力が上の相手に胸を借りるからこそ、強くなれるのです。

トルコにあるイスタンブール・シェヒル大学のサミ・アブハムダーは、オンラインチェスに参加している、平均28年のチェス経験のある87名の男性(平均42.1歳)に、2週間分の記録をとってもらいました。2週間で、1人平均16.4回の勝負をしたのですが、勝負をするたびに、面白かったかどうかを聞いたのです。

写真=iStock.com/Farknot_Architect
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各参加者の腕前は、国際チェス連盟でも採用されているシステムで測定され、毎回の対戦で相対的な得点も出しました。たとえば自分の腕前のレーティングが1500で、対戦相手が1750だと、「−250」のような得点になります。

その結果、対戦相手が自分と同じか、あるいは上のときに、勝負の後で「面白かった」という答えが多く見られました。自分より弱い人とやっても面白くなかったのです。

■「井の中の蛙」になってはいけない

仕事も、できるだけ自分より優秀な人と張り合うようにしてください。

格上ですから勝てる見込みはあまり高くないでしょうが、それでもいいのです。相手の胸を借りて、どんどん勝負しましょう。そのほうが実力を伸ばすことができます。勝てなくとも、いろいろなことを学ぶことができます。

最近、日本人のアスリートたちは海外に出ることが多くなりました。

日本国内だけで練習していても、うまくはなれません。

サッカー選手にしろ、野球選手にしろ、ゴルフ選手にしろ、拠点が海外という人は珍しくありません。

自分よりも実力が上の選手たちが集まるところで練習していたほうが、自分の実力を高めることができるからでしょう。これも立派な出稽古ですし、良い傾向だと思います。

「井の中の蛙」になってはいけません。

もし自分の職場に自分よりも優秀な人がいないのであれば、お相撲さんの出稽古のように、ライバル社の人と張り合ったりするのもいいのではないでしょうか。

■「言われる前」に先回りでやってしまおう

私たちには天邪鬼なところがあって、だれかに何かをするように指図されると、かえって言われたことをやりたくなくなることが少なくありません。

親から、「早くお風呂に入っちゃいなさい」と言われるとカチンときてお風呂に入りたくなくなりますし、「勉強しなさい」と言われると、漫画を読みたくなるものです。

職場でもそうで、上司に何かを命じられると、私たちはそれをしたくなくなることが多いのではないかと思われます。

というわけで、フットワーク軽く仕事に取り組みたいのなら、だれかに命じられてしぶしぶやるのではなく、「言われる前」に自分でやってしまうといいでしょう。

命じられて動くのは癪に障りますので、自発的にやってしまうのです。そのほうが楽しく作業ができるかもしれません。

南ミズーリ州立大学のチャンテル・レベスクは、相手に強制、あるいは要求されてから動くのではなく、自発的に動いたほうが作業は面白くなるという研究報告をしています。

出所=『考えすぎて動けない自分が、「すぐやる人」に変わる本』

レベスクは参加者に自発的に、あるいは強制して15分間のクロスワードパズルをやらせてみました。その結果は上のようになりました。

どんなに面白い作業でも、だれかに強制されたとたんに、つまらなくなります。不思議なくらい、やる気が失せてしまうのです。

■自発的にやればモヤモヤが溜まらない

仕事でも、上司に何かを命じられるよりも先に、自分でやってしまいましょう。

内藤誼人『考えすぎて動けない自分が、「すぐやる人」に変わる本』(明日香出版社)

「おい、○○。倉庫の段ボールを片づけておいてくれ」
「はい、もうやっておきました」
「おっ、そうか、すまんな、ありがとう」

こんな感じで、先を読んで行動してしまうのです。

上司に命じられてから、「なんで俺が片づけなんて……」とぶつぶつ文句を言いながら作業をするより、「どうせそのうちにやらされるのなら、言われる前に終わらせておくか」と考えて、自発的にやってしまったほうが心にモヤモヤが溜まりません。

面倒くさいことほど、先を読んでさっさと終わらせてしまいましょう。

「どうせ資料を集めるように言われるだろうから、前もって調べておこう」
「プレゼンを頼まれそうだから、パワーポイントで簡単な企画書を作っておくか」

などと、上司に命じられる前に、自分に与えられそうな仕事はどんどんやってしまったほうが、気が重くならずにすみます。

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内藤 誼人(ないとう・よしひと)
心理学者
慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。立正大学客員教授。有限会社アンギルド代表。社会心理学の知見をベースに、心理学の応用に力を注ぎ、ビジネスを中心とした実践的なアドバイスに定評がある。『心理学BEST100』(総合法令出版)、『人も自分も操れる!暗示大全』(すばる舎)、『気にしない習慣』(明日香出版社)、『人に好かれる最強の心理学』(青春出版社)など、著書多数。
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(心理学者 内藤 誼人 イラストレーション=神林美生)