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水素を身近なエネルギーとして活用するには

10月15日から18日まで、千葉市の幕張メッセで開催されている『ジャパンモビリティショー・ビズウイーク2024』(以下、JMS)。スタートアップや事業会社の出展が目をひくが、自動車メーカーもさまざまな技術などを展示。その中で、ちょっと気になったのが、トヨタの『ポータブル水素カートリッジ』だ。

【画像】ジャパンモビリティショー・ビズウイーク2024でトヨタが展示したポータブル水素カートリッジ 全38枚

カーボンニュートラル社会の実現に向けて、各自動車メーカーはさまざまな研究、開発に取り組んでいる。中でもトヨタは、マルチパスウエイの考えに基づき、多様なエネルギーを選択肢としており、その中でも”水素”に着目している。水素は使用時にCO2(二酸化炭素)を排出しない。また、風力、太陽光などの再生可能エネルギーを活用すると、製造工程においてもCO2の排出を抑えることができる。


ジャパンモビリティショー・ビズウイーク2024でトヨタが展示中のポータブル水素カートリッジ。    平井大介

いわば、水素は”究極のクリーンエネルギー”といえるだろう。しかも、水素は燃料電池システムと組み合わせて発電するだけでなく、水素そのものを燃焼させることでもエネルギーを生み出すことができる。

トヨタでは、水素を燃料電池システムと組み合わせて発電した電気でモーターを駆動するFCEV(燃料電池電気自動車)を早くから開発し、世界初の市販FCEV『MIRAI』(ミライ)を2014年に発表。2020年には現行型の2代目へと進化した。またFCEVのバスやフォークリフトも実用化されている。

さらに、水素そのもの(最初は気体、現在は液体水素)を燃料とした水素エンジンを搭載したGRカローラで国内外の耐久レースに参戦するなど、まずはモビリティから水素社会の実現に向けた取り組みを進めている。

車両のエネルギーとしてポジションを確立した感のある水素だが、身近なエネルギーとして使うには難点があった。それは、これまでの水素タンクは大型で持ち運びが困難だったこと。これを小型、軽量化すれば、水素が身近なエネルギーになる。そうして開発されたのが、このポータブル水素カートリッジだ。

水素で調理すると、バーベキューもひと味違う?

今回、JMSでトヨタが発表したポータブル水素カートリッジのサイズは、直径200mm×長さ580mmの円筒形。一般的な消火器くらいのサイズだ。重量は8.5kg。片手で持つには少し重いが、両手で抱えればさほど苦ではない重さ。それでも背負って運べるように専用のバッグも用意されている。

カーボンや樹脂で覆われたカートリッジは鮮やかな赤に塗られ、”水素”、”燃”と白い文字で大きく書かれている。これは日本の法規で、この水素カートリッジのような高圧ガスの容器は色や文字が決められているため。ちなみに同時に展示されていた欧州仕様は地味なグレーで、なかなかオシャレなのだが……。


匂いにつられて来場者が向かった先は、水素を燃料としたバーベキューのデモ。炭で焼くよりもおいしい?    平井大介

充填できる水素の容量は3.3kWh。その重量は約200gだから、充填してもカートリッジの重さはほとんど変わらない。これをカートリッジモジュールにセットして(脱着はきわめて簡単)、FCモジュールにつなげば発電することができる。3本あれば約10kWhを供給することができ、これは一般家庭の1日分の電力量に相当する。

また、リンナイと共同開発した水素コンロにつなげば、水素をそのまま燃料として燃やすことで調理などに使える。前述のように水素は燃やしてもCO2を発生せず水(水蒸気)を発生するだけだから、肉や野菜を焼くとバーベキューのように炭っぽくならず、また水蒸気によりしっとりと焼き上がり、炭で焼くよりかなりおいしくなるそうだ。しかも煙も少ない。

水素コンロでのバーベキュー、ぜひ試してみたいものだ。なお、カートリッジ1本で3時間のバーベキューが可能となる。

行政や法的な問題など、ハードルはまだ高い

トヨタでは、この水素カートリッジをユーザーが水素ステーションまで持って行って水素を充填するのではなく、家庭用のLPG(プロパンガス)のボンベを業者が家庭まで配達して交換しているように、カートリッジを配達して交換できるシステムまで考えている。つまり、カートリッジそのものに所有権はないというわけだ。

また、このカートリッジをクルマなどのモビリティに直接装着することで、エネルギー源とすることも検討している。水素ステーションで水素を充填するより短時間で済むわけだが、モビリティ搭載用にサイズを小型化すれば容量が減るから航続距離も減る。乾電池の単一や単二のように、サイズを何種類か企画することも検討されているが、サイズの選定は、なかなか微妙なところだ。


トヨタはカートリッジを配達して交換できるシステムまで考えている。    平井大介

また、カートリッジモジュールやFCモジュールも、サイズ的にも重量的にも一般家庭で使うには改良の余地がある。実用化のためには、コストも重要なポイントとなるだろう。

それでも一般家庭の新たなエネルギー源として、水素の可能性は高い。このポータブル水素カートリッジの実用化を早く望みたいところだが、行政による法的な問題もあり、そう簡単にはいかないらしい。

とはいえ、”究極のクリーンエネルギー”である水素が、石油に代わる新たなエネルギー源の第一人者であることは間違いない。そんな水素を、より身近で安全なエネルギーとしてさまざまな生活シーンで活用できそうなポータブル水素カートリッジ。これを使用した水素関連機器の開発やサービス提供などが、今後に期待されるところだ。