(写真撮影/片山貴博)

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UR都市機構と無印良品(株式会社MUJI HOUSE)がタッグを組み、団地の住戸をリノベーションする「MUJI×UR団地リノベーションプロジェクト」。現代的にアップデートして住みやすくなった住戸の様子は、SNSや各メディアで見たことがある人も多いことでしょう。これまでは住戸内のリノベでしたが、団地外観、屋外広場、商店街区といった共用部分にも対象を広げた「MUJI×UR団地まるごとリノベーション」という取り組みが行われたのは、千葉市花見川区の花見川団地。誕生から50年を超え、建物と住民の高齢化が進んでいた団地商店街、空き店舗にテナントが入り、大人たちも談笑を交わす姿があちこちで見られるようになりました。何が起きたのか、その結果をご紹介します。

アーケードの撤去で、空が広く、大きく。椅子で人の居場所をつくる

花見川団地は東京から電車で約50分、最寄りの八千代台駅からバスで10分ほどの場所にある大規模団地です。竣工は1968年、賃貸と分譲あわせて約7200世帯、約1万1000人が暮らしています。団地内には店舗数60の商店街や図書館分館、2つの保育所があり、小・中学校にも隣接、大規模な公園や森も近くにあり、さながら小さな自治体です。ただ、誕生から50年以上が経過し、建物と住民の高齢化という、2つの「老い」に直面してきました。これは花見川団地に限らず、日本各地の団地で起きている現象です。

リノベ前の花見川団地。時を重ねた、独特の味わいがあります(写真提供/UR都市機構)

こちらもリノベ前の様子。シャッターが下りています(写真提供/UR都市機構)

日本全国に団地を保有するUR都市機構では、こうした団地の問題を解決しようと、2012年から株式会社MUJI HOUSEとタッグを組み、現代の暮らしにあうよう団地住戸をリノベーションしてきました。コンパクト&ミニマムなMUJIのデザインと団地の空間はとても相性がよく、たちまち全国で人気の住戸となっていきます。

そしてMUJI×URによるリノベ住戸が1000戸を超えた2021年、この取り組みを団地住戸だけでなく、外観や屋外広場、商店街区画まで広げる取り組みがはじまりました。その名も「MUJI×UR団地まるごとリノベーション」。花見川団地では、2021年から計画がはじまり、2024年3月に完成、お披露目となりました。

空が広く、シンボルとなる給水塔が見える。商店街のメインストリート(写真撮影/片山貴博)

リノベーションの主な内容はというと、商店街にかかっていたアーケードの撤去、外壁塗装、芝生の整備、共用部への高木とストリートファーニチャ(机と椅子)の設置です。こうしてみるとよくある大規模修繕にも見えますが、見違えるように人が戻ってきたといいます。では、その理由はどこにあるのでしょうか。UR都市機構の千葉エリア経営部ストック活用企画課の濱口貴裕(はまぐち・たかひろ)さんに伺いました。

商店街の意見を反映、同時に住民や学生を巻き込む「ソフト」の仕掛け

「まず、屋外のリノベについては、商店街の方に要望をお聞きしました。座る場所がほしい、芝生があるといい、遊べる場所がほしいという声がありました。特に住民にご高齢の方が増えたので、お買い物の合間に座る場所がほしい、おしゃべりできる場所があったらという要望が多かったですね」(濱口さん)

UR都市機構は施主であり事業主体ではありますが、実施設計、プランニングにおいては株式会社MUJI HOUSE(良品計画の子会社、住空間事業を担う一級建築士事務所)に一任し、現場の意見を尊重するというスタンスをとっています。このあたり、10年以上、団地を再生させてきた信頼感があるからこそなのでしょう。

「座る場所がある」リノベプランとしてMUJI HOUSEから提案されたのは、ただ「椅子がある座る空間」ではなく、テレワークをしたり、おしゃべりしたり、カフェのように「滞在できるような場所」です。同時に商店街に設置されていたアーケードを撤去し、空が見えるようデザインし直し、日差し対策としてオーニングを取り付けるなどし雨の日も気軽に歩ける便利さは残しました。これにより花見川団地のシンボルでもある給水塔がはっきりと見えるようになったほか、明るい色に塗り直した団地外観が映えています。大きな変化はないのに、団地そのもののよさが際立つデザインとなっているのは、さすがといえるでしょう。

真夏以外はテレワークもできる机と椅子(現在、電源はイベント時の利用に限定)。老若男女の憩いの場です(写真撮影/片山貴博)

案内板も読みやすく、リニューアル。細かいけれど、わかりやすい(写真撮影/片山貴博)

建物は再塗装で雰囲気を一新。こちらはURの設計・塗装によるものです(写真撮影/片山貴博)

階段室の入口。入口上部に書かれた部屋番号もおしゃれ(写真撮影/片山貴博)

人が戻ってくるカギになったのはMUJI HOUSEに所属する傍ら、商店街で「ミトーリ工房」を営む、見通真次(みとおり・しんじ)さんの存在です。リノベーションプランというハード面だけでなく、住む人たちのコミュニティをまとめていく「ソフト面」で中心的な役割を果たしました。

「花見川団地に初めて来たのは2021年。人がロードサイドの店舗に流れてしまい、商店街にシャッターが下りている、そんな印象でした。元気なお店はあるんですが、4割近くが空き店舗になっているとどうしてもシャッターが目立ってしまう。ただ、実際に商店街の方と話してみると、みなさんここで50年ほど商いをなさっていて、地元への思いが強いんです。だからこのままではよくない、何かやらないといけない、みたいなマインドがありました。だから自分やMUJI HOUSEが独断で進めるのではなくて、今あるこの商店街のものを生かしながら、『編集』という視点で集客をしようと考えていました」と見通さん。

見通さんは当初、ここに通勤してプロジェクトに携わっていましたが、2022年7月から花見川団地にご家族とともに転居してきました。住まいになっているのは、いわゆる店舗付き住宅。1階が商店、2階が住居という住まいで、自身でDIYしてお店をつくっていきました。

「DIYで作業をしていると、フルーツやドリンク、パンの差し入れをもらって。がんばっているね、という声をかけてもらいました。あわせて月1回のワークショップ、3カ月に一度のイベントを行って、みなさんに必要な空間とはどんなものか、ソフト面では何ができるのかを探っていきました」(見通さん)

ミトーリ工房。この日はお祭りでくじ引き屋さんをしていました(写真撮影/片山貴博)

学生たちの力で蘇った「お休み処えがお」は、多世代交流の場に

見通さんは、MUJI HOUSEの業務としてワークショップやイベントを行い、自分ひとりががんばるのではなく、商店街の人や花見川団地が気になっている近隣住民、学生を巻き込んでいき、「花団もりあげ隊」という有志のグループを結成しました、当初は、商店街店主や自治会、団地居住者、学生、千葉市、UR、MUJI HOUSEの10名程度でしたが、回を重ねるごとに参加者は30名程度まで増えていきました。

「商店街には『何かしたいな』という人を引き付ける魅力があるんです。『イベント運営をしたい』『出店してみたい』という前提があるので、話が進めやすい。また、縁日イベントをやったら100人も集客するので、ポテンシャルは高いし、メンバーのモチベーションも高いなと思いました。花団もりあげ隊で意見を出し合うなかで、(1)商店街の専門店をまわってオリジナルのハンバーガーをつくる『商店街バーガー』、(2)『お休み処えがお』のリノベと駄菓子屋兼フリースペースとしての運営というアイデアが生まれ、実施することになりました」(見通さん)

花見川団地の商店街の店舗をまわってつくる「商店街バーガー」(写真提供/MUJI HOUSE)

スタンプラリーのように店舗をまわって具材を集め、バーガーを完成させる「商店街バーガー」(写真提供/MUJI HOUSE)

特に課題だったのは、「お休み処えがお」。空き店舗となっていた場所を利用した休憩場所として運用していたのですが、ゴミの放置や飲酒・仮眠など問題行動が起きてしまい、商店街の人の悩みのタネだったそう。

そこで無印良品の店舗でアルバイトをしていた大学生たちに声をかけ、「お休み処えがお」のリニューアルに取り組みました。ちょうど建築を学ぶ学生、経営を学ぶ学生がいたのでチームを組んでもらい、千葉市にプレゼンをして助成金を申請。補助金を利用してDIYし、現在も運営を行っています。

お休み処「えがお」。休憩所、駄菓子屋、イベント場所として活用されている(写真提供/MUJI HOUSE)

「この『えがお』に駄菓子屋さんをつくったら、子どもたちの姿が見えるようになったんです。今までどこにいたんだってくらい、毎日20〜30人が必ず来ているんです。子どもの居場所をつくったら、さらに高齢者も商店街にやってきて『子どもが元気でいいねえ』となって、もちろんそのお母さんたちも増えて。人の居場所をつくるってこんなにも大事なんだっていうのを、今回、『えがお』のリノベーションで痛感しましたね」(見通さん)

団地の子どもたちはとても元気。机と椅子のある休憩ができる場所、駄菓子屋といった居場所があることの大切さがわかります(写真撮影/片山貴博)

単なる空き店舗に椅子を置いただけだと乱雑に使われてしまいますが、きれいにデザイン、管理されていると、人はちゃんと使うようになる。当たり前のようですが、建築の不思議な力といえるでしょう。こうして、学生、子ども、高齢者と多世代が集まれる地域のコミュニティスペース「えがお」ができたことが、花見川団地にさらなる人を呼び込む結果となり、空き店舗に徐々に新しいテナントが入るようになりました。

そのうちのひとつ、コンテナがそのままテナントスペースに置かれた「THEコンテナ」というお店では、古着&ドーナツを商っています。この「THEコンテナ」は、子どものころ花見川団地で育ち、現在は花見川団地の近くに住んでいる人が立ち上げたお店で、花見川団地のために何かしたい、という思いから出店したのだそう。コンテナが丸ごと入っているなんて、斬新すぎる……。また、団地を「シェアハウス」として活用するグループもいて、こちらも計画が進行中だとか。クリエイティブな活動がはじまると、またひとつ、またひとつと人を呼んでくるのは本当に不思議ですね。

商店街の北エリア、そして持続可能なまちづくりへ

2024年3月、「花見川団地商店街リノベーション」のお披露目会では、「商店街バーガー」をはじめ、「お休み処えがお」や蘇った建物、広場がお目見えしました。3年をかけたまるごとリノベ計画は大成功といっていいでしょう。では、今後の展望はあるのでしょうか。

「商店街が元気になることで、住民の方に喜んでもらい、周辺の方にも喜んでもらえるのが、我々としてはいちばん望ましい形かなと思っています。今は月1回のワークショップやイベント時に盛り上がりますが、これが2週に1回、毎日というように、日常化していくのが望ましいかな、と。あとは商店街のテナントにまだ空き店舗があるので、ここに新しく入ってもらえたら」とURの濱口貴裕さん。

商店街の北側。こちらはまだ空き店舗も多め。滞留できる、おしゃべりできる場所がのぞまれています(写真撮影/片山貴博)

見通さんも同じ見解です。
「『えがお』がある商店街の南側は、もう大丈夫だなと思っています。ビアガーデンのようなイベントも開催しているし、日々のにぎわいもうまれ、活用の場としてまわりはじめている。一方で北側はまだ空き店舗も多いし、建物のリノベもまだ。ここを改善していけたらいいですね。住んでいる方、URの職員さん、千葉市の職員さんとも話すんですが、飲食店のようなゆっくりできる場所がね、花見川団地にはないんですよ。どんなお店になるかわからないですけど、実現できたらなあと思います」

今回の「MUJI×UR団地まるごとリノベーション」、建物のリノベだけでなく、ソフトでコミュニティをつくる仕掛けをしたこと、問題意識を共有し周りを巻き込んで解決していったこと、何より時間をかけて合意形成をしたことが成功の要因だったように思います。日本全国には同じような築50年、60年の建物がたくさんあることでしょう。それらは活用次第で、価値ある不動産として蘇るのだなと実感しました。不動産を「負動産」にするかどうか、まだまだ挑戦ははじまったばかり。地道なことからコツコツと、できることはまだまだたくさんあるのではないか、そんな取材となりました。

●取材協力
花見川団地(UR都市機構ホームページ)
MUJI×UR団地まるごとリノベーション


(嘉屋 恭子)