トレカショップ「大量閉店」の裏でTSUTAYAが参入する理由…商材が「カード」から「場所」に変わっていた

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地方の駅前に行くと、必ず現れるのがシャッター商店街。

こんなに人がいない空間ってあるのだろうか……と寂しい気持ちになる。筆者は香川県・丸亀市と東京での二拠点生活をしているのだが、丸亀駅前も「ザ・シャッター商店街」。

そんな商店街に、休日だけものすごい賑わいを見せる場所がある。化粧品屋の「スミレヤ」だ。実はここ、「ポケモンカードジム」になっている。「ポケモンカードジム」とは人気トレーディングカード・ポケモンカードの対戦ができるスペース。スミレヤは、ふだんは化粧品屋なのだが、休日にはポケモンカードの対戦用スペースが開かれるのだ。どこにいたのだろう、と思ってしまうぐらい、そこには多くの人が集っている。

そこから車で10分ほど走らせた場所に、もう一つのポケモンカードジムがある。スミレヤは個人商店だが、こちらは「TSUTAYA 宇多津店」に併設されている。こちらも休日には多くの人が集っている。

人口減少、少子高齢化で疲弊する地方都市の中で、「トレカショップ」が異様なにぎわいを見せているのだ。もしかすると「コミュニティ」としての価値をトレカショップは持っているのではないか?

トレカ市場が大好調

こうした地方でのトレカショップの躍進の背景には、日本全国でトレカショップが爆増していることがある。

日本玩具協会が発表した2023年度の玩具市場規模は、はじめて1兆円を超えた(日本玩具協会の発表による)。そのうち27%の売り上げを閉めるのが、トレーディングカード、通称トレカ。同協会の発表によれば、トレカ市場は前年より425億円も規模を拡大した2,774億円の規模で、玩具業界全体の27%を占めている。

こうした市場の活況に支えられて、店舗数も増加。一例に過ぎないが、関西のオタク文化の中心地でもある大阪・日本橋では、トレカ専門店が60店舗以上ある。しかも、トレカショップとコンカフェ(コンセプトカフェ)の出店だけで、2023年の新規出店店舗の3分の2を占めている(日本橋タブロイド「ぽんタブ」による)。

さらに、大手企業のトレカ市場への参入も相次いでいる。

2024年には、レコード・CDショップとして知られるHMVが本格的にトレカ商材の取り扱いをはじめることを発表。「HMVトレカショップ」として専門業態をスタートさせた。また、リユース大手のブックオフはかなり古くからトレカを扱っていたが、2021年には初のトレカ専門店をオープン、トレカの大会も開催するなどかなり力を入れている。

また、TSUTAYAや蔦屋書店で知られるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)は、TSUTAYAのフランチャイズ店舗を全国に展開するカルチュア・エクスペリエンスの主導の下、「TSUTAYA Trading Card」を展開。対戦スペースの強化や、大会数を増加させると共に、トレカ商材に力を入れている。

トレカの価値は「空間価値」へ?

こうしたトレカショップの多くに併設されているのが「対戦スペース」。店内に机と椅子が置いてあって、そこでカードゲームを楽しむことができる。多くの場合、ショップでカードを購入した人が、無料か、安めの席料を払って使うことができる。

冒頭で紹介した2つも、この対戦スペースに人がたくさん集っているというわけだ。

とはいえ、多くのカードショップにとって、この対戦スペースは「オマケ」的なものでしかない。

だが、今後のトレカ市場を見ていく際には、この「オマケ」の存在こそ、重要なものなのではないか、と筆者は考えている。

というのも、「カード」単体の価値は最近、かなり安定してきているからである。

実は2024年に入ってから、「トレカショップ閉店ラッシュ」という報道が出ている。

RealSoundで掲載された「「人気じゃないの?」カードゲーム市場に異変? 有名カードゲームショップが突如閉店……価格下落も一因か」では、「今年に入ってから、カードゲームショップの閉店が相次いでいる」とされ、その原因として、トレカの中古価格の値崩れや真贋鑑定の難しさ、投機目的でのカード売買の数が減少したことが指摘されている。

そもそもトレカショップがここまで成長したのは、中古価格の高騰化にも影響がある。一枚のカードがほとんど投機対象としても扱われるようになり、ポケモンカードの中でも有名な「がんばリーリエ」の価格は、一時期、1枚1050万円までになった。

しかし、メーカーによる安定供給や、そもそもの真贋判定の難しさから、最近ではこの価格が下落。「がんばリーリエ」は186万円にまで値下がりした。減少率でいえば、恐ろしいほどの値崩れだ。

もちろん、カードの商材としての価値が全くなくなるわけではないし、市場規模は伸び続けているから、すべてのカードショップの経営が厳しくなるわけではない。それでも1枚の紙にすぎない「カード」商材の危うさが露呈している。

そのとき、一つの方向性として、トレカをトレカ単体で商材として見るよりも、むしろ「トレカを通じた場やコミュニティの形成」をビジネスとして捉えたほうが、より持続的な経営が可能になるのではないか、と筆者は考えている。

このように筆者が思うのは、都市ジャーナリストとして各地の都市や商業施設を歩くときに、やはりトレカの対戦スペースのにぎわいを目の当たりにしているからである。トレカが持つコミュニティを作る力は侮れないと考えているのだ。

CCCが生み出す「トレカコミュニティ」

実際、トレカビジネスを「コミュニティ」ビジネスとして捉えている企業がある。

先ほども紹介した、CCCだ。同社ではトレカビジネスで「コミュニティ活性化」を掲げている。

CCCとカルチュア・エクスペリエンスは、2014年から対戦席併設のTSUTAYAを中心にトレカ商材の扱いを増やしていき、2024年8月末ではその数は182店舗に及ぶ。

カルチュア・エクスペリエンス 商品本部 ゲーム・トレカ部 二村高寛さんはトレカについて「お子さまから大人まで、トレカを通じて同じテーブルで楽しく対戦されている姿は他のアイテムには無い特徴だと思います」と言い、「トレカの対戦を通じて、共通の趣味を持つ仲間との交流が生まれる場をご提供しています」とその狙いを話す。

CCCのトレカ売り場のメインユーザーは10代〜30代が多いという。また、家族連れや女性比率も多く、特に女性比率は全体の30%に及び、他のトレカ専門店よりも多い。比較的広い年代・性別に楽しまれているのだ。

また、利用時間で言えば、土日の利用者の方が多い傾向だが、平日の18:00以降に仕事や学校帰りで利用する人も一定数いる。休日に特別感を持って行くだけでなく、日常的にも使用されていることがわかる。

二村さんは「TSUTAYAでは書籍や雑貨などのアイテムも扱っているということや、「安心・安全」というイメージがあるため、お子さまや女性ユーザーが入りやすく、年齢性別を超える「好き」を通じたコミュニティが生まれています」と言う。TSUTAYAの事例ではあるが、トレカは人々が集う一つのコミュニティになるかもしれない。

「空間ビジネス」としての「対戦用スペース」

しかし、気になるのは「ビジネス」としての側面。現状、対戦スペースは無料で使用することができるため、利益を生むものではない。

この点、CCCが「対戦空間」そのものをビジネスにしようとした例がある。4月、渋谷にリニューアルオープンしたSHIBUYA TSUTAYAの5階にある「POKÉMON CARD LOUNGE」というポケモンカードの対戦用スペースだ。ここは1時間あたり税込1650円で料金を取るシステム。当初、社内では有料化には不安の声が上がっていたが、当初の予想を上回ってリピーターも多いという。

その裏には、「POKÉMON CARD LOUNGE」が、CCCの展開する「SHARE LOUNGE」とのコラボであり、より「空間」にこだわる店舗だということもあるだろう。場内全体はシックな雰囲気で、ゆったりとした席でカードバトルを楽しめる。また、二村さんは、「イベント開催によって、共通の「好き」でつながるきっかけづくりもしています。

例えば、8月に開催されたポケモン世界大会のパブリックビューイングでは、自分たちでポケモンカードの対戦を楽しみながら、世界大会を観戦するイベントを開催し、満席となりました。ほか、ティーチングイベントや対戦イベントを7月以降50回以上開催し、初心者のお客様も安心して遊んでいただけるイベントも実施しています」と述べる。

人とつながる「場所」としての価値を押し出す空間設計やイベントで、こうした「場所にお金を払う」仕組みを取っていく戦略である。これまでは「オマケ」にすぎなかったこうした空間に積極的に価値を与え、そこをビジネスにしていく方向は、アリな道筋なのかもしれない。

トレカ市場が成熟し、岐路に立っていることは間違いがない。そのときに、トレカ市場はどのように「コミュニティ」の側面に注力できるのか、今後もその動向を注視していきたい。

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