(イラスト:高橋ポルチーナ)

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務省統計局が発表した「令和2年国勢調査」によると、配偶者と死別して独身の人は、男性が179万5,000人(15歳以上の男性の3.3%)、女性が827万2,000人(15歳以上の女性の14.4%)と、女性の割合が高いことが分かりました。寂しさもある中、自分に合ったおひとり様のいいところを見つけることで、人生を楽しく過ごせるかもしれません。特に、時間を自由気ままに使えるのがおひとり様のいいところ。森好子さん(仮名・愛知県・無職・80歳)は、夫が遺した衣類でぬいぐるみを作ることを思いつき、気づいたら夢中になっていたそうで――。

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「もったいない」からひらめいた

高校の教師だった夫が脳梗塞で倒れたのは、12月のことでした。そのまま入院して6ヵ月と短い間に逝ってしまい、私はおひとり様となってしまったのです。

子どもは独立しているので、もう母でも妻でもない。そう思うとすこんと気が抜けました。

倒れた日のままの部屋に残されたのは、夫が机代わりにしていた炬燵に、愛用のワープロ、ノート、資料、カバンの数々。葬儀の後、親戚を自宅に招かなくてはならなかったので、さみしさに向き合う暇もなく部屋を片付けました。

四十九日を済ませると、ようやく気持ちも落ち着き、じっくり遺品の整理に取り掛かることに。

悩んだのが夫のスーツです。毎日着ていたのでかなりの数がありました。綺麗なものは寄付するとしても、まだたくさん残ってしまいます。

さてどうしたものかと思案にくれていた時、近所の友達が言っていたことを思い出しました。「私はね、もったいないから旦那のトランクスを穿いてるよ。人に見せるもんじゃないし、穿き心地もまあまあだよ」

試しにズボンを穿いてみたら、なんとぴったり。身長が約15センチも違う夫が穿いていたモノなのに、まるであつらえたみたいでした。上質の毛織物は色も渋くていい感じ。

イギリスの貴族がキツネ狩りをしている図柄のセーターも、乗馬が趣味の私にはおあつらえ向きでした。

私は3人きょうだいの末っ子として生まれたものですから、お下がりには慣れています。何より夫が着ていたと思うと愛着がわいて、捨てられませんでした。

そうはいっても箪笥の肥やしになってしまうのもなぁ……と、夫の冬用のもこもこシャツを未練がましく触っていた時にひらめいたのです。これでクマさんのぬいぐるみを作ったら、可愛いのができるかもしれない。

翌日、さっそく『初めてのぬいぐるみ』という本を買い、制作に取りかかりました。作り方とにらめっこしてああでもない、こうでもないと格闘した末に、やっとの思いで誕生したクマちゃん! つぶらな瞳を見つめていると、今にも「あのね、ぼくちゃんね……」と話し始めそうです。

愛犬が天寿をまっとうしてすでに20年近く、その愛犬の瞳を思い出してしまいました。そんなひとり暮らしの心の隙間をクマちゃんは優しくほんわか温め、癒やしてくれたのです。

愛しのクマちゃんにも家族を作ってあげよう! さっそく夫の洋服を使って次の制作に取りかかることに。あっという間に父さん、母さん、兄さん、弟、妹を作ると、クマちゃん一家が勢ぞろい。「母ちゃーん、兄ちゃんが意地悪する!」「おまえ、何言ってんだ! ずるいぞ!」

そんな声が聞こえてきそうです。独居老人の家がにわかににぎやかになり、私のぬいぐるみ作りに火が付きました。

派手なトランクスがブランドのスカーフのようで

独居老人の時間はたっぷりありますから、机の上に裁縫セットを並べて、暇さえあれば縫っていました。時には深夜1時までやっていたこともあります。

そうして、パンダ、ウサギ、タヌキ、犬など、『初めてのぬいぐるみ』に載っている動物キャラクターを2年ほどかけて全部制覇しました。

この勢いに乗って、今度は私の好きな馬に挑戦。インターネットで「馬のぬいぐるみセット」を買うことにしました。布や型紙のほかに、たてがみなど馬特有のパーツが揃っています。今まで作ったものより難易度は上がりましたが、でき上がった馬は可愛らしい!

ご機嫌になり、もう一頭、もう一頭と、私の創作意欲はとどまることを知りません。

今度は箪笥の肥やしだった夫や私の古着を使って制作し、次々と愛らしいぬいぐるみに様変わり。10頭ほど並べてひとりで悦に入っている時、乗馬仲間にあげようと思い立ちました。

宅配便で送るとすぐに馬友は電話をくれ、「乗馬クラブのインストラクターに見せたら、私もほしいって! 作って」と弾んだ声で言うのです。馬を知り尽くしているインストラクターに気に入ってもらえるなんて腕が上がったわと、嬉しくなります。

作るだけでなく、ぬいぐるみを人にあげると、見るなり可愛いと相好を崩して喜んでくれることが何より楽しく、夢中になりました。暇さえあればちくちくと針を動かし、何かと理由をつけて人にプレゼントしています。

いつしか衣類の整理は材料探しに変わってしまいましたが、これは何に使えるだろうと考える時間が楽しいのです。

例えば、ネクタイはデザイナーによって色も模様も吟味されているので、不思議で芸術品のような馬ができ上がります。ひげはショルダーバッグの肩ひもをほどくと毛糸よりも見栄えがしますし、ブラウスのしゃれたボタンを、馬の(馬の頭部に着ける馬具)に着けると可愛くなるのです。

いちばんのヒットは、夫の派手なトランクス。まるでブランドのスカーフで作ったみたいになりましたが、人様に材料はとても言えません。(笑)

数えてみれば、120個以上作っています。材料には事欠きません。今がいちばん楽しいわと感じる日々です。

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遺品整理サービスでのトラブルに注意

森さんは、夫の遺品整理をする中で思いついたぬいぐるみ作りで、衣類の再利用に加えて、人との交流も生まれて、一石二鳥なおひとり様の楽しみを見つけることができました。

一方で、現在は核家族化や独居世帯の増加もあり、親族だけでは対応しきれない遺品の整理・処分を事業者に依頼する「遺品整理サービス」も普及しています。利用者が増える一方、全国の消費生活センターには、「高額な追加料金が発生した」「処分しない予定の遺品が処分された」などの相談が寄せられているそう。

「こんなはずじゃなかった!遺品整理サービスでの契約トラブル」
https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20180719_1.html

被害に遭わないためにも、複数社から見積もりを取る、キャンセル料や具体的な作業内容について事前に確認するなど、事前の対策が大切です。

事業者とトラブルになった場合には、消費生活センターに相談してみましょう。

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