人気観光スポットの一つである「東京駅」だが…

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東京駅結婚式の前撮りスポットに?

 3連休の初日にあたる9月21日。東京駅から皇居に向かって延びる行幸通りに、ウェディングドレスをまとった花嫁と、白いスーツやタキシードを着た花婿がぞろぞろと姿を現した。筆者がこの日に見たのは最大3組だったが、丸の内に事務所を置く企業に勤務するサラリーマンによると、「多い時には6〜7組はザラで、順番待ちの列になることもある」という。

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 彼らはいわゆる、結婚式の前撮りのためにカメラマン同伴で訪れている。そして、新1万円札の裏面にもデザインされた東京駅の赤レンガ駅舎を背景に、満面の笑顔で写真に納まる。東京駅を背景に“映える”写真が撮れるスポットとして以前から人気が高かったが、コロナ禍以降、フォトウェディングの需要の高まりとともに急速に広まったといわれている。前出のサラリーマンはこう話す。

人気観光スポットの一つである「東京駅」だが…

「丸の内界隈は三菱一号館や明治生命館などの歴史的建造物が多いこともあって、ファッション雑誌などのモデル撮影スポットとしてもともと人気なんです。なかでも東京駅の人気は別格。夕暮れ時は特に美しい写真が撮れるということもあり、撮影の順番待ちで混雑しています」

 行幸通りは広々としているものの、丸の内一帯の歩道は狭く、長時間にわたって占拠すると明らかに通行人の邪魔である。そのためトラブルも少なくないようで、なかには皇居周辺を走るランナーと衝突しそうになったケースもあるという。

なぜか多い中国系のカップル

 様子を見ていると、明らかに目立つのが“中国系のカップル”である。カメラマンも中国語で話しており、どうやら中国人専門に請け負っている業者も存在するようだ。しかし、なぜ東京駅がこんなに人気なのだろうか。そもそも、東京駅自体が中国の文化と何も縁がないように思える。

 いや、むしろ東京駅は、日清戦争、日露戦争で勝利して西欧列強の仲間入りを果たしたとアピールすべく世界に誇る駅舎として造られたものだ。当初は小規模な駅舎が計画されていたが、日露戦争の戦勝ムードの高まりから巨大化し、現在見られる壮麗な建築となったのである。しかも、行幸通りから撮影した場合、遠くに望めるのは皇室専用の出入口である。

 つまり、東京駅には日本の帝国主義的かつ国粋主義的な風潮も少なからず投影されているわけで、一部の中国人にとっては、決して好ましい存在ではないと思ってしまうのだが……。そう思って、1組の中国人カップルに話を聞いてみたところ、日本語で「キレイな建物」「東京のシンボル」と答えてくれた。

 結局、建築の歴史や由来などはどうでもよく、映える写真が撮れるならそれで構わないようである。中国の情報誌などに、東京駅がウェディングフォトの撮影に最適なスポットとして掲載されているのか、それとも業者が勧めているのか。実態は明らかにできなかったが、とにかく赤レンガの歴史的建造物で東京のシンボル、そして何より映える点が、撮影スポットとして支持される大きな要因と考えられる。

無許可撮影が横行する背景とは

 さて、東京駅前で撮影してもらうにあたり、業者にはいくら払えばいいのだろうか。ネットを検索してみると、ある業者では10万円前後で撮影可能という。スマホを使った撮影プランを設けている業者もあり、数万円と激安である。ただ、いずれにせよこれらのプランには、大きな問題がある。基本的に無許可で撮影を行っているとみられる点だ。

 この日、写真を撮影している男性カメラマンに道路使用許可書など、何らかの許可書をもっているのかと聞いたところ、「許可ですか? 僕はただ依頼を受けて撮りに来ているだけなので、詳しいことはわかりません」と言われてしまった。

 いったいなぜ、無許可の撮影が横行しているのか。それはひとえに、「許可を取るのが面倒くさい」からだ。シンプルにその一言に尽きる。屋外で撮影を行う場合、天候に左右されることが多い。手間をかけて書類を書き、警察署に道路使用許可の申請をしても、その日が雨にでもなるとすべての計画が流れてしまうためである。

 したがって、ゲリラ的な撮影になってしまうのだ。ただ、無許可の撮影はそれなりにリスクを伴う。撮影中に警察官がやってきて職質を受けたり、なかにはウェディングドレスのまま連行されてしまったりする花嫁もいるそうだ。いくら映える写真が撮影できても、これではせっかくの思い出が台無しになってしまうではないか。

公式の撮影プランもあるが、高い

 さて、東京駅の中には「東京ステーションホテル」というラグジュアリーなホテルがあることをご存じだろうか。東京駅開業の翌年、1915年にオープンして以来、川端康成、内田百輭、江戸川乱歩、松本清張など著名人も多く宿泊した歴史を誇る。このホテルにも当然のようにウェディングプランがあるが、なんと東京駅の真正面で、“公式”に撮影ができるのだ。

 東京駅の正面に立っている関係者に話を聞いてみたところ、駅舎の間近でもし撮影をしていたら、それは東京ステーションホテルで結婚式を挙げたカップルなのだという。つまり、公式である。そして、行幸通りで撮影している業者はほぼ無許可なのだという。万が一こちらのエリアまで撮影にやって来たら、排除しなければいけないと語っていた。

 ちなみに、結婚式の情報サイト「Wedding Park」によると、東京ステーションホテルで結婚式を挙げた場合、60名で401〜463万円が相場という。もちろん、招待人数や規模によって変動すると思われるが、なかなか庶民には手が届かない価格帯である。公式を選ぶか、ゲリラ撮影を選ぶか。悔いのない選択をしたうえで、結婚式の思い出を残してほしいものである。

ライター・山内貴範

デイリー新潮編集部