地方の借金を減らせ!中国の「大規模インフラ建設」時代が終了か

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インフラは経済効果の他に「副作用」も

中国政府は景気刺激策としてインフラ建設を進めてきた。中国は発展がアンバランスのため、インフラ格差が存在し、政府は内陸部でのインフラ整備を目指し、一定の経済効果が得られ、中国経済のけん引役となった。

景気刺激策としてのインフラ整備で有名なのは、2008年の世界金融危機の影響を受けた不況から脱するための4兆元の大規模公共投資だ。経済悪化を受け、当時の胡錦濤指導部は景気刺激にかじを切ることを表明し、農村インフラの建設や低所得者向け住宅の整備、鉄道や道路などの重要インフラの整備といった政策を打ち出した。

09年3月の全人代で発表された「政府活動報告」は、「政府支出を大幅に増加させる。これは内需を拡大するための最も能動的で、最も直接的かつ最も効果的な措置だ」と述べ、政府が景気対策に注力するという姿勢を示した。

また、「報告」は「成長の保持と(産業の)高度化の促進」を同時並行的に進め、「自動車や鉄鋼、造船、石油化学、軽工業、紡績、非鉄金属、プラント製造、電子情報および現代物流などの重点産業において、調整・振興計画を真剣に実施する」と述べ、構造調整を前提とした振興策が取られた。

当時のインフラ整備はその後の中国の経済発展の基盤となっており、批判されるものではないが、副産物として過剰生産能力問題や環境問題などを引き起こした。

周知のように、景気刺激策としてのインフラ整備は一定の段階では経済効果があったが、インフラが整備されてくると、経済効果をさほどもたらさなくなる。それだけでなく、重複投資や地方のリーダーが実績のために着手する「実績工程」や「面子工程」も出てきた。

12年以降、中国政府は「実効性」のあるプロジェクトを重視し、やみくもなインフラ投資を行うのを戒め、過剰生産能力の廃棄を重視し、イノベーションによって新たな成長エンジンの育成に努めている。旧来の「投資依存型」経済からの脱却を目指している。

「やみくもな投資」はやめよ!中国の新たなインフラ建設規制

インフラ投資について、9月に新たな動きがあった。

財政部や住建部など6省庁は9月初めに「市政インフラ資産管理弁法」(以下、「弁法」と略)を共同で発表した。

「弁法」は、「収益を生まない、または収益が不足している市政インフラ資産のために法律・規定違反の起債を行うことを厳禁し、隠れ債務を増やしてはならない」と明確に述べた。

市政インフラというのは、地下鉄や路面電車などの大型交通だけでなく、都市道路、橋、トンネル、バス停、広場、公園、清掃・排水・給水・電力供給・ガス供給・熱供給・汚水処理などの施設、ごみ処理施設などのことを指す。

これらの市政プロジェクトを完全に禁止したわけではない。余剰財政資金で賄っていれば問題ない。だが、お金を借りたいなら、そのプロジェクトは収益を生まなければならない。もし収益で債務の元利を返済できないのであれば、建設してはならないし、こっそり借金して建設してはならないとされている。

ただ、経済的に効果がさほど見られないが、社会的には必要なインフラもある。この「社会的効果」をどのように測るかは課題の一つだ。

ここで重要なのは、地方政府がインフラ建設の名目でどんどん起債して借金が累積されるのを防ぐことだ。

地方の債務解消に向けた対策とは?

中国政府が「大規模インフラ建設時代」を終わらせようとしている背景には、中国各地に重複したインフラ建設、無効なインフラ建設、過度なインフラ建設が大量に存在していることが挙げられる。中国の経済メディアは以下のような例を挙げている。

一つ目の例は貴州省六盤水市だ。同市の指導者がやみくもに起債して文化観光景勝地をつくり、3年間で1500億元(約3兆円)を借りた。23の観光プロジェクトのうち16のプロジェクトは非効率な遊休プロジェクトで、収益率は利息の返済も難しいほど低い。

二つ目の例は甘粛省天水市だ。現地の実情を顧みず、路面電車プロジェクトに着手し、投資額90億元(約1800億円)、年間運営コスト4000万元(約8億円)を計画していたが、運行開始以降の1年当たりの収入はわずか160万元(約3200万円)にとどまり、財政赤字は深刻だった。

三つ目の例は湖南省湘潭市だ。同市の元市委員会書記が規則に大いに違反して融資して起債したため、湘潭市の新たな債務は435億元(約8700億円)となり、33のプロジェクトが未完成のまま放置されることになった。

この三つのプロジェクトには共通点がある。それは、科学的根拠が不足しており、すべて指導者が政治的業績を追求するためにやみくもに決め、収益の問題をほとんど考慮していないということだ。この手のインフラ建設プロジェクトは批判の的になり、現地の幹部も摘発の対象となり得るものだ。

第18回党大会以降、中央政府は「実のある仕事」を行うことを政策文書で強調し、人事考課を念頭に入れたプロジェクトで資金を浪費するという風潮を徹底的に止めようとした。そのために次のことに取り組んだ。

第一に、地方の「最高責任者(一把手)」への要求を厳しくすることだ。中国共産党は党建設に関する文書の中で、「最高責任者」が下の幹部・党員に手本を示すために、仕事や生活面で厳しい要求を課してきた。

地方のインフラ整備の関連でいうと、共産党中央は前後して「中国共産党中央の『最高責任者』と指導グループに対する監督強化に関する意見」、「中国共産党規律処分条例」などの文書を発表・改訂し、地方の最高責任者に対する監督・監察をさらに強化し、制度的に偽りの政治的業績を作ろうとするのを阻止し、問責・責任追及の仕組みを確立した。

第二に、「GDP主義」から「質の高い発展」への転換だ。中国はこれまでGDPの規模を重視し、地域のGDPの増減は地方の指導者の人事考課の指標の一つだった。そのため、地方ではインフラなどの大型プロジェクトが行われた。こうしたプロジェクトは一時的に経済効果があるが、持続的な経済発展にはつながりにくい。このことから、現在、共産党中央はGDPの良し悪しを評価する「GDP英雄主義」から脱し、地方が課題とする問題の処理など多様な事柄を評価の対象とした。

第三に、中央の審査・認可を厳しくすることだ。例えば、地下鉄、軽便鉄道、高速鉄道などのプロジェクトは簡単に認可されなくなった。地下鉄について言えば、現在、ある市が地下鉄を建設するには、国内総生産(GDP)が3000億元(約6兆円)を超え、財政収入が300億元(約6200億円)を超え、市街地の人口が300万人を超えなければならないため、ハルビンや包頭(パオトウ)などの申告は却下されている。

第四に、9月に発表された「弁法」は、財政部など六つの部・委員会が発表した文書であり、地方財政に「ハードな制約」課すものといえる。2014年ごろから、全人代で発表される「財政報告」には、「切り詰め意識」「ハードな予算制約」という言葉がよく見られるようになり、政府が率先して身を削る姿勢を示している。「弁法」も「財政報告」の方針を体現したものといえる。

「新ルール」の真の意義

「切り詰め意識」を強調するだけで、地方の「やみくもな投資」によるインフラ投資を抑えることができるかといえば、そうではなく、まだ問題がある。

地下鉄・高速鉄道のようなプロジェクトの審査・許可権は中央にあるため、このような大規模インフラ建設の拡大は抑えることができる。ただ、地方で都市広場やテーマパークを建設するという場合、中央には審査・許可権がなく、地方に裁量権がある。そのため、以前のような「やみくもな投資」が発生する可能性をはらんでいる。

このことから、9月に財政部、住宅・都市農村建設部など六つの省庁・委員会が発表した「弁法」の中心的な意味だ。それはつまり、地方はなおも市政インフラプロジェクトに乗り出すことができるが、債務の元利を返済できるような収益を上げることができるという「制約」があり、収益が見込まれなければ建設できない。また、規則に違反して建設に乗り出した場合は、推進役の幹部は中央の問責の対象になる。

現段階の地方政府の中心的課題は、GDPの最大化ではなく債務の最小化だ。一部の地方は長期にわたって「債務の中での繁栄」を追求し、債務拡大によって投資をけん引して経済発展を促進し、短期的にはGDP成長をけん引した。だが、債務拡大による景気刺激はその後の財政健全化を前提にしたものでなければならず、そうでなければ債務が拡大し、経済に大きなリスクをもたらすことになる。

その意味で、9月に発表された「市政インフラ資産管理弁法」は中国のインフラ建設の大転換であり、7月に開かれた第20期三中全会でも提起された地方債務の解消に一歩踏み出したことを示すものだ。

政府の投資による「大規模インフラ建設」の時代が終わり、今後は今年前半に打ち出された「新たな質の生産力」の構築を支える「新インフラ」の建設に動くのではないかと筆者は考える。