観光に、リモートワークに!多拠点生活で地方を活性化 社会課題にも挑む“アドレス”:読んで分かる「カンブリア宮殿」

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観光に、出張に、仮住まいに…〜安さが魅力の住まいのサブスク



観光地として復活を遂げた山梨・北杜市の清里。水上散策に出かけたのは東京から来た峯川さん一家だ。自然を満喫した後、日暮れとともに始まったのは、長期上演されている日本で唯一の野外バレエ「清里フィールドバレエ」。かつて「高原の原宿」と呼ばれた清里は以前とは違った魅力を発信している。

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丸一日遊ぶと、一家は一軒家のような建物に到着した。中には共用のリビングが広がり、その奥にいくつか個室が。ダブルサイズのマットレスが置かれたシンプルな部屋だ。ここはアドレスという会社が運営している会員制の施設。アドレスは空き家などをリノベーションした施設を利用し、1日単位で貸し出している。施設の中には会員同士が語り合う場所が用意され、交流を楽しめるのも特徴となっている。


使いたくなる最大の理由が圧倒的な安さ。峯川さん一家の場合、家族3人で1日4000円ほどだという。

アドレスの料金は定額制のサブスクリプション。一番お手軽なプランは月に2日利用で9800円。峯川さん一家が利用しているのは月に5日利用で1万9800円のプラン。これだと1日4000円を切る。

ホテルの宿泊料はインバウンドの増加や物価の上昇から高騰し続けている。総務省によると2023年度の宿泊料は前の年に比べ25.5%上昇した。それだけにアドレスの安さは貴重と、観光地でも利用する人が増えているのだ。

翌朝は共用キッチンで朝食の準備。これなら滞在費はほとんどかからない。そこへ「家守(やもり)」の宮下真歩さんが訪ねてきた。

アドレスは地元の人に、家を守る「家守」として報酬を払い施設を管理してもらっている。ただしいわゆる管理人とは違う。会員に付近の施設などの情報を伝えたり、滞在中の相談に乗ったりするのも「家守」の役割だ。


アドレスの拠点があるのは観光地だけではない。京王線の新宿駅から特急でおよそ30分の東京・多摩市にある施設の場合、ビジネスホテル代わりに利用する人が多いという。

今、都内のビジネスホテルの宿泊料も跳ね上がっている。2024年7月の平均は約1万4300円と、前年と比べ1500円上がっているのだ(※情報:メトロエンジン)。

現在、都内にあるアドレスの施設は15カ所。1泊5000円以下だからビジネスマンにとっても魅力的だ。

アドレスには月単位で利用できる施設もある。古都の風情が残る神奈川・北鎌倉駅から歩いて5分の場所にある古民家もその一つ。

この施設を利用して2年になるという山口礼さんが利用する定住プランは、女性専用の部屋(ドミトリータイプ)を独り占め状態で1カ月4万9500円。周囲のワンルームの家賃相場は8万円近いから、破格だ。料金には水道代や光熱費も含まれていて、無料Wi-Fiの設備も整っている。しかも、敷金・礼金は不要なのでお試し移住にも最適だ。


この北鎌倉も含め、アドレスの施設の多くは空き家だった物件をリノベーションしたもの。リノベーションはアドレスがデザインなどを受け持つが、費用は物件のオーナーが負担する。アドレスは会員からサブスク料金を集め、稼働率に沿った家賃をオーナーに支払うという仕組みだ。

施設のリノベーションを担当するアドレスの坪山励は一級建築士の資格を持っている。仕事で大事にしているのは、極力、改修にお金をかけないことだという。

ダイニングテーブルやキッチンカウンターなども本棚など使わなくなった家具を再利用し、材料費を浮かせるのは常とう手段。


部屋に5面ある壁や床のうち改修するのは基本1面だけ。アドレスの「改修20%ルール」で、例えば床だけでも印象はガラリと変わる。

「やはり思い切ってやめる箇所を決めないとコストカットは難しいので」(坪山)

徹底した節約リノベーションで、1部屋あたりの初期費用を約5万円に抑えている。1部屋あたりの平均家賃収入は2万5000円ほどなので、オーナーは2カ月で元が取れる計算だ。

空き家を資源にして課題解決〜全国300カ所に展開



創業社長の佐別當隆志(47)は、アドレスを立ち上げた狙いの一つをこう語る。

「空き家は地方に5軒、10軒どころか、100軒、1000軒とどんどん増えています。東京が主役ではなく地方が主役で、地方に都心の人が行く。地方には空き家が多くあるから供給も増え、ビジネスとしても拡大するのではないかと」

日本が抱える社会の大きな課題の解決につながるビジネスをと、アドレスを立ち上げたのだ。

〇アドレスが目指す課題解決1〜空き家を資源として有効活用

北海道北部の稚内と旭川の間に位置する中川町。人口減少から移住者を呼び込もうと、住宅新改築の補助、就農者支援など、さまざまな優遇制度を導入している自治体だ。


町には一般住宅にとどまらず、町営住宅も借り手が減り、空き家となって放置されている建物が目立つ。

そこで動いたのが地域振興課の高橋直樹さん。町営住宅をリノベーションしアドレスに貸し出して、人を呼び込もうとしているのだ。

「中川町はすごくいい町だと思っているので、何か関わりを持って過ごすなど、観光に来ていただければ」(高橋さん)

リノベーションの工事に関して、アドレスでは、工事はその地元の業者に頼むようにしている。


空き家のオーナーだけではなく、地域にもお金が落ちる流れを作っているのだ。

「僕らでやらせてもらえるのはありがたいと思います」(「三和電機」・三和寿樹さん)

〇アドレスが目指す課題解決2〜人を呼びこみ、地域を活性化

工事と並行して、アドレスはオーナーを探す説明会を北海道の中川町で開催していた。説明を聞きにきた反中祐介さんは1年前、中川町に移住、アウトドアの観光ガイドを営む。移住にあたり築50年の空き家のオーナーにもなった。

この地に移住を決めた大きな理由が、近くにある里山などの豊かな自然環境。そこで今回、アウトドア観光の拠点となるアドレスの施設を作ろうと思い立った。

「より面白い観光資源をつくるきっかけづくりとしても、アドレスの施設が使えるかなと思っています」(反中さん)

空き家問題に悩む個人や自治体は多く、アドレスへの問い合わせは増える一方だという。アドレスの施設は北海道から沖縄まで、今や全国300カ所に迫る。

他拠点生活で地方を活性化〜社会課題に挑むアドレス



多拠点生活を送る佐別當は、現在は静岡・三島市と札幌を中心に全国のアドレスの拠点を回って暮らしている。

この日は佐別當の歓迎会に、アドレスに期待を寄せる地元の人たちが集まっていた。

「佐別當さんが来てくれて大きな変化が生まれた」(夫がゲストハウスを経営する山森さん)

「いろいろな人を連れてきてくれて世界が広がった」(三島市教育委員会・山本さん)

佐別當は1977年、大阪・八尾市に生まれる。外務省か国連に入って世の中を変えたいと思い立命館大学国際関係学部に進学。そこで1人に1台配られたのが、当時はまだ珍しかったアップル製のノートパソコンだった。これが佐別當の進路を変える。

「個人が情報発信したりコミュニケーションを取ったりできる。社会を変え得るのはインターネットではないかと思い始めた」(佐別當)

大学卒業後、普及し始めたばかりのインターネットサービスを行うITベンチャーに就職。そこでシェアリングエコノミーと呼ばれる新しいビジネス分野と出会った。個人同士で行う物や場所、スキルなどのやり取りを、インターネットを使って仲介するサービスだ。

例えば「メルカリ」はモノを、「ココナラ」はスキルをやり取り。自宅の空き部屋を貸し出す「Airbnb」もシェアリングエコノミーの代表例だ。このサービスこそ自分の目指すべき領域だと感じた佐別當は、行動に出る。

2016年、シェアリングエコノミー協会という業界団体を立ち上げ、普及活動に乗り出す。すると、「人口減少が進む自治体からのシェアリングエコノミーを活用したいという相談が非常に多かったんです。そこで都会に住んでいる人と地域の空き家をマッチングできれば、新しいビジネスができるのではないかと」(佐別當)。

都会で暮らす人を地方に導く取り組みはこうして始まった。

佐別當がまず目をつけた場所は、復活した観光地の熱海。若者やファミリー層向けの「気軽にお試し移住を」という企画を、熱海市と連携して立ち上げた。市の駐車場にキャンピングカーを並べ、試しに住んでもらう、というアイデアだった。

ところが周辺住民への説明会は、反対の怒号が飛び交う事態となってしまった。実は市の所有する駐車場は飲み屋や風俗店が密集する歓楽街のど真ん中。そんな場所に都会からファミリー層が来たら商売がやりにくくなると、住民は反対したのだ。

「夜の活性化はいいが、昼間の家族連れが来るエリアではないから、違うと」(佐別當)
住民たちの反対の声は高まり、結局、計画は頓挫した。

「地域のルール、言語、歴史が全然違う。いろいろなタイプの熱海の人たちがいることを分かっていなかったと思います」(佐別當)

佐別當はこの経験で、地域の人が主体的に動く形にしなければうまくいかないと痛感。そこで会員と地域の繋ぎ役となる「家守」というポジションを作り、地元の人に任せることにしたのだ。

アドレスは2018年に創業。今、佐別當が思い描く「家守」の理想形を実践するのが小田原市の平井丈夫さん。喫茶店を営みながら、「家守」を務めている。

平井さんは、アドレスの会員がやってくると周辺の観光案内も買って出る。また、小田原の施設を利用した会員と地元住民の交流イベントも定期的に開催。


参加者の中にはこうしたイベントを気に入り、再度、小田原にやってくる人もいる。こうして小田原に関わるようになる人を増やし、平井さんがきっかけで小田原に移住した人は6人もいると言う。

被災地でボランティアの拠点開発〜二地域居住を推進するためには



7月下旬、石川・金沢市に佐別當の姿があった。2024年の元日、マグニチュード7.6という巨大地震に見まわれた能登半島を視察するためだ。


「継続的にボランティアが訪れる中で、住む場所、泊まる場所が被災地の近くにないとか、交通費、宿泊費が高いという問題が出ているという話を聞いたので」(佐別當)

輪島市内に入ると、倒壊した家屋があちこちでそのままになっていた。理由の一つが人手不足。自治体が解体にあたる公費解体は作業員の手が足りず、まだ全体の10.5%(8月31日時点)しか進んでいない。

金沢から輪島方面に向かうには県道「のと里山海道」(一部区間は能越自動車道)が頼り。何かあれば簡単に陸の孤島と化してしまう。能登半島の奥に進めば進むほど、作業員やボランティアの拠点となる場所も少なくなっている。

そこで佐別當は、能登半島に新たなアドレスの施設を作ろうとしている。候補地は金沢と輪島の中間に位置する羽咋市周辺。いくつかの物件を所有するオーナーを訪ね、建物の下見を行うことになった。

まず作ろうとしているのはボランティアのための施設だが、佐別當はその先の展開も考えている。羽咋市には日本で唯一、車で浜辺を走れる千里浜という観光名所がある。能登の復興が進んだら、今度は観光客を呼び込める施設にしようというのだ。

「ここに来るきっかけがアドレスを通して何十人、何百人とできると、その人たちがまた周りの人に伝えてくれるので、来る機会が増やせる場を作りたいと思っています」(佐別當)

スタジオで多拠点生活の魅力を説いた佐別當は、石川県に対して「二拠点生活を送る人に住民票をもう一つ石川県が配布してくれないか」という話をしていると明かす。

佐別當が提案する第二住民票とは、二拠点生活を送る人が両方の自治体に税金を納める代わりに、両方で公共サービスを受けられるようにするというものだ。

二拠点で通える学校の仕組みを、ひと足先に始めた自治体もある。

秋田・五城目町にやってきたアドレスの拠点開発部長・後藤伸啓とその家族。夏休みも終わった9月の6日間、アドレスの施設に滞在する。ふだんは都内の小学校に通う3年生の長女・結仁ちゃんは、五城目小学校で4日間、授業を受けることにした。


利用したのは地域の教育留学制度。1日〜2週間、全国の小中学生の受け入れを指定の学校で行っている。その間の出席日数は、もともといる学校の出席にカウントされる。

「違う暮らしを体験することで、多様な価値観を学ぶ機会になればいいと思います」(後藤)

結仁ちゃんは「番楽」という秋田の伝統芸能の体験や、名産品の枝豆の収穫など、この地域ならではの授業に夢中になっていた。

「秋田の教育の良さに触れてほしいという願いで始めています」(五城目小学校・島粼徳之校長)

町内にアドレスの施設があるから気軽に滞在できる。

「『番楽』とかは東京になく、難しかったけど楽しかった」(結仁ちゃん)

※価格は放送時の金額です。

〜村上龍の編集後記〜
新卒で大阪から上京したとき、機械的な街だなという印象が。ただ会社の寮は楽しかったらしい。仲間とにぎやかにご飯を食べたり、銭湯に行ったりした体験が、シェアして暮らすサービスのベースにある。あるとき、職業も国籍もさまざまな人が暮らすシェアハウスに遊びに行った。みんな趣味などを活かしながらパーティーみたいに過ごしていた。当時住んでいた寮から恵比寿のシェアハウスに移動した。以来、多拠点生活を基本としている。中心には「家守・やもり」がいる。家、近隣に暮らし、地域との橋渡し役を担ってくれる。

<出演者略歴>
佐別當隆志(さべっとう・たかし)1977年、大阪府生まれ。1996年、立命館大学国際関係学部入学。2000年、ガイアックス入社、広報、事業開発を手掛ける。2018年、アドレスを創業。

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