新体操のイオン・カップ世界クラブ選手権に招待されたアンドレア・バオティッチさん(中央)=9月28日、東京体育館

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 9月下旬に東京体育館で開催された新体操のイオン・カップ世界クラブ選手権は、ロシアによる侵攻が続くウクライナを含む15カ国のクラブチームが出場。

 個人総合3位と健闘したタイシア・オノフリチュク(ウクライナ)は「日本では落ちついて過ごせた」と笑みを浮かべた。

 今年で30周年を迎えた大会は、ジュニア世代の選手も参加し、スポーツを通じた平和や連帯の意義を示してきた。その象徴が、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争の真っただ中に行われた1994年の第1回大会。敵対するボスニアとセルビアの両選手が出場し、交流した。

 ボスニアの元選手らは今年の大会に招待され、競技を見守った。10歳で来日した30年前、式典でセルビア選手と握手したのがアンドレア・バオティッチさん。「まだ幼かったし、握手に抵抗は感じなかった」と懐かしそうに振り返る。

 当時のボスニアは「誰もが思い出したくないほどつらい状況だった」という。毎日のように爆撃音が響き、市民は次々に殺された。電気やガスは止まり、食べ物や水は常に不足した。

 地獄のような日々を抜け出して訪れた日本は、全てが輝いて見えた。「トイレには温水洗浄機能まで付いていた。夢のような国だった」。チームメートだったレイラ・セビッチさんは「心の傷を癒やせた」と今でも感謝している。

 世界各地の争いは、今もスポーツ界に暗い影を落としている。バオティッチさんは「最も苦しむのは、いつでも何の罪もない人々やアスリート。世界中に平和が訪れることを願っている」と祈るように語った。