早期は自覚症状がなく、本人が気づかないことが多い緑内障。早期に発見するにはどうすればいいのでしょうか(写真:zon/PIXTA)

40歳以上の20人に1人、60歳以上の10人に1人が発症している緑内障(「日本緑内障学会多治見緑内障疫学調査」報告)。視野が狭くなる病気だが、早期は自覚症状がなく、本人が気づかないことが多い。

どのような人が緑内障になりやすいのか、早期に発見するにはどうすればいいのか。東京大学医学部眼科学教室教授で、日本緑内障学会の理事を務める相原一医師に聞いた。

緑内障とは、眼圧(眼球の内側から外側に向かってかかる圧力)によって視神経が障害される病気のこと。

緑内障で視野が欠けるしくみ

モノを見るために必要な視神経とつながっている眼底のくぼみ「視神経乳頭」は圧に弱いため、眼圧が高くなると視神経乳頭の構造が変化して、視神経を傷つけてしまう。その結果、視野が欠けるというわけだ。


緑内障で視野が欠けるしくみ(イラスト:koti/PIXTA)

眼圧を決めているのが、眼球にある「房水(ぼうすい)」という液体だ。つねに目の中を循環していて、その量と排出のバランスによって一定の圧を保っている。

ただ、低くても一定の圧がかかるため、視神経乳頭は常にその圧にさらされ、少しずつ傷んでいく。緑内障が加齢によって増えていくのは、そのためだ。もちろん、眼圧が高いほどより早く視神経乳頭が障害されることになる。

では、眼圧はどの程度高くなると、視神経乳頭を激しく傷めることになるのか。相原医師はこう説明する。

「眼圧の正常な範囲は10〜20mmHgといわれていますが、その範囲内でも視神経乳頭が傷む人はいますし、反対に眼圧が21mmHg以上でも傷まない人もいます。つまり、個人差が大きいのです」

若くても近視が強い人は注意

相原医師によると、近年は「正常眼圧緑内障」と呼ばれる、“眼圧は正常な範囲なのに視野が欠ける人”が多くなっているとのこと。その理由として考えられるのが、近視の増加だ。

近視の人は眼軸長(眼球の前後の長さ)が正視(近視や遠視などがない状態)の人よりも長く、近視の程度が強いほど長くなる。

「近視の進行によって眼軸長が伸びると、視神経乳頭に向かっている神経線維が眼球の中心に向かって引っ張られます。その結果、視神経乳頭が傷み、とくに中心に近い視野が欠けるのではないかと考えられています」

と相原医師。比較的若い年代で緑内障を発症する人は、これに当てはまる傾向があるが、一般的な緑内障と同じような経過をたどるかどうかは、まだ明らかになっていないという。

また、近視でコンタクトレンズを使用する際には、眼科の受診が必要になる。そこで検査を受けたら緑内障だったということもあるそうだ。

「近視人口の増加に伴って、自覚症状がない早期の緑内障が見つかっているという状況があります」(相原医師)

進行すると失明にいたることもある緑内障。早期に見つけて対応したいところだ。では、早期発見のためには、どのような検査が必要なのだろうか。相原医師は「検査を受ける施設によりますが、最も有効なのは『眼底検査』」と話す。

■眼底検査

眼底検査とは、まばたきを我慢して緑色の点滅を見てフラッシュがたかれて撮影される、あの検査のこと。このように専用のカメラで眼底を撮影したり、眼科医が直接、眼底鏡で観察したりして視神経や網膜、血管に異常がないかを調べる。

この眼底検査によって、視神経乳頭の異常がわかる。

■眼圧検査

目の検査にはほかに、眼圧を調べる「眼圧検査」もあるが、緑内障の早期発見には眼底検査のほうが勧められる。それはなぜか。相原医師はこう答える。

「眼圧検査ももちろん大事ですが、先ほどお話ししたように、眼圧が正常値でも視神経乳頭が傷んでいる人がいる。そう考えると、眼圧検査だけでは緑内障は見逃されてしまうのです」

むしろ、眼底検査に加えて「視野検査」を受けることが、より望ましい。

■視野検査

視野検査は機器の前に座って、視線を動かさずに、あちこちに出てくる光が見えるか、見えないかをチェックする。これにより、視野が欠けているかどうかがわかる。ただ、計測に時間がかかるといった難点があり、人間ドックや健診施設では広くは普及していない。

ちなみに、コンタクトレンズを購入するときの検査は、一般的に視力検査のほか、屈折状態を調べる検査、眼圧検査が行われることが多く、眼底検査をするかどうかは眼科によって異なる。コンタクトレンズの処方のたびに眼科を受診しているから安心、とは言い切れないのだ。

相原医師は「緑内障が増え始める40歳を過ぎたら、一度は眼底検査を受けてほしい」と強調する。

人間ドックや健診でも目の検査が行われている。そこで「緑内障予備軍」と指摘された人もいるだろう。“眼圧は高いが、視神経乳頭は傷んでいない”、あるいは、“視神経乳頭に異常は見られるが、視野障害はまったくない”といったケースだ。

「緑内障予備軍の場合、すぐに治療する必要はありませんが、1年に1回は眼科で検査を受けてください。たとえ緑内障が見つかっても、早期から治療を開始することで進行を遅らせることができます」(相原医師)

「視野が欠ける=黒くなる」は間違い

緑内障になると視野が欠ける症状が出てくるが、初期に自覚するのは難しい。その理由を相原医師はこう説明する。

「視野が欠けるというと、一部が黒くなるようなイメージを持つ人が多いのですが、それは間違いです。視野の一部が“霧がかかったようにかすむだけ”なのです」

さらに鼻側の視野から欠けることが多いため、両目で見るとそれぞれの視野で欠けている部分を補ってしまう。高齢者の場合は、視野がかすむのを白内障だと思い込んでしまうこともある。

緑内障が進行すると、欠けた範囲が広がっていく。その結果、文章を読んでいるときに文字を読み飛ばしてしまったり、運転中に突然、横から人が飛び出してくることに気づかないでヒヤッとしたりするようになる。

こうして視野が欠けていることを自覚するそうだ。

ただ、自覚症状が出てからの治療は厳しいのが現状だ。今の医学では傷んだ視神経を治療で元に戻すことはできず、進行を遅らせることが目的となる。したがって、治療が遅れるほど失明するリスクが高くなる。

一方、自覚症状がない初期の段階で緑内障が見つかれば、治療によってその状態を維持でき、視野が欠けて見えにくくなるといったことや、失明するリスクは低くなる。

緑内障は「点眼薬」で治す

では、緑内障の治療ではどんな治療が行われるのか。

まずは、眼圧を下げる点眼薬が基本となる。目指すのは症状を悪化させないことで、2〜3カ月に1回、定期的に受診して治療を継続していく。

点眼薬で眼圧が十分に下がらず、症状が進行していく場合は、手術をすることもある。ただ、手術は房水の流出をよくして眼圧を下げることが目的なので、緑内障による神経の障害を根本的に治せるわけではなく、術後も通院が必要となる。


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頻度は少ないが、点眼薬が効かない緑内障のタイプ(閉塞隅角緑内障)もあり、この場合は最初から手術が必要になる。

一般的にみて「緑内障は恐ろしい病気」と思われているが、正しく理解して、治療を受ければ、決して怖くはない。実際に緑内障になって失明する人は、1%もいない。

「緑内障と診断されただけで仕事を辞めてしまったり、うつ病になってしまったりする方もいます。そもそも、健診などで指摘されたのに怖がって受診しないという方もいます。適切な治療を受ければ、生涯普通に日常生活を送れる可能性が高い。自覚症状がないうちに診断されたらラッキーだと思って、治療を受けてほしいと思います」(相原医師)

(取材・文/中寺暁子)


東京大学医学部眼科学教室教授
相原一医師

1989年、東京大学医学部卒、98年、東京大学大学院生化学細胞情報部門卒業。カリフォルニア大学サンディエゴ校緑内障センター主任研究員、四谷しらと眼科副院長などを経て、2015年から現職。日本眼科学会指導医・専門医、日本緑内障学会理事。

(東洋経済オンライン医療取材チーム : 記者・ライター)