ここにたどり着くまでどれほどの苦しみがあったろう。「不良な子孫の出生防止」を掲げた旧優生保護法の下、障害を理由に不妊手術を強いられた人を救済する仕組みがようやく整いそうだ。

 超党派の議員連盟が新たな補償法の素案をまとめた。不妊手術を受けた人に1500万円、配偶者に500万円の補償金を支払う。遺族も受け取れる。人工妊娠中絶手術を強いられた人には200万円を支給する。

 被害者は高齢の人が多く、一刻の猶予もない。補償法案を早期に成立させるべきだ。

 旧法は1948年に議員立法で制定され、手術の規定は96年まで続いた。その後も国は補償に後ろ向きで、被害者らが損害賠償を求める裁判を起こした経緯がある。

 転機となったのは7月の最高裁判決だ。「個人の尊厳と人格の尊重の精神に著しく反する」と旧法を違憲と断じ、国に被害者や配偶者への賠償を命じた。

 この判決を受け、一連の訴訟の原告と国は和解に合意した。原告以外の被害者には新しい補償法で対応し、原告への賠償額と同額を支払うようにしたのは当然である。

 2019年に施行された一時金支給法は、責任の所在も救済内容も中途半端だった。反省とおわびの主語は「われわれ」と曖昧で、不妊手術を受けた人のみに支払った320万円は賠償ではなく見舞金だった。

 補償法案は前文に国会と政府の責任を明確にして「心から深くおわびする」と記した。その言葉通り、全ての被害者を救済する責務を果たさねばならない。

 不妊手術を受けた人は約2万5千人で、約1万2千人が存命とされる。一時金が認められたのは1100人ほどでしかない。周囲の目を気にして名乗り出られない人や、自身が不妊手術を受けたと知らない人もいる。

 補償金は一時金と同様、申請が必要だ。国はプライバシー保護を理由に、一時金が受け取れることを本人に知らせなかった。今後は支給漏れがないように踏み込んで対応してほしい。申請を受ける都道府県によっては、本人を訪ねるなど工夫をしている。

 補償金の請求期限は設けるべきでない。国が賠償責任を免れることを厳しく追及した最高裁判決の趣旨に反する。

 訴訟で補償が明確にならなかった中絶手術の被害者にも、一時金を支給することは評価できる。中絶は手術痕がなく、記録も乏しい。そもそも記録がないのは国の責任であり、本人に証明を求めるのは理不尽だ。支給対象を狭めることがあってはならない。

 なぜ旧優生保護法ができ、半世紀も廃止されず、救済に時間がかかったのか。愚行を繰り返さないために、国と国会に検証を求める。

 補償法は障害者への偏見や差別の根絶も盛り込む。社会全体の課題と受け止めたい。