擦過傷

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監修医師:
高藤 円香(医師)

防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

擦過傷の概要

擦過傷(擦り傷)は、皮膚の表面がこすれて、一部がすりむけたケガのことです。転倒やスポーツによって生じることが多く、一般的によく見られるケガです。

基本的に擦過傷による損傷は表皮や真皮に限られ、深い傷ではありません。ただ、皮膚の表面には、神経が多く通っているため、ヒリヒリとした痛みが生じます。また、皮膚の最表面がはがれることで下の層が露出するため、感染のリスクが伴います。死亡率の高い「破傷風」を発症するおそれもあるため注意が必要です。

擦過傷の原因

擦過傷は、皮膚が硬い表面や粗い物と接触し、摩擦によって皮膚の一部が剥がれ落ちることで生じます。

擦過傷による損傷の範囲は、皮膚の最も外側にある表皮がすりむける程度の軽いものから、真皮まで達する場合もあります。表皮のみが損傷を受ける擦過傷は治りも早いですが、真皮まで達している場合は、治癒に時間がかかり、感染のリスクも高まります。

こうした擦過傷は、転倒やスポーツ、日常生活での作業(DIYや庭仕事など)で多く見られますが、衣服と皮膚のこすれなどでも生じることがあります。

擦過傷の前兆や初期症状について

皮膚の表面が剥がれ、痛みや赤み、軽い腫れ、ヒリヒリ感、出血、透明な滲出液などの症状が生じます。浅い傷のため、出血は少ないです。傷口が治り始めると、かさぶたを作り、軽いかゆみを伴うことがあります。

また、擦過傷による損傷が真皮におよんでいる場合や損傷箇所に砂やゴミが入った状態のまま治癒すると、瘢痕(傷跡)が残ることがあります。

擦過傷によって感染症が生じた場合は、傷口が赤く腫れたり、膿が出たりすることがあります。また、破傷風菌が傷口から体内に入ると破傷風を発症するリスクがあります。

破傷風は、破傷風菌が作る毒によって神経系に悪影響をおよぼし、筋肉のけいれんやこわばりが生じたり、場合によっては命に関わることもあります。土や錆びた金属に触れる機会が多い人、破傷風のワクチン接種を行っていない人は、破傷風のリスクが高まるため注意しなければなりません。

擦過傷の検査・診断

擦過傷は、基本的に軽い外傷のため自己判断が可能な場合がほとんどです。しかし、傷の範囲や状態によっては、医療機関での検査や診断が必要になることがあります。基本的に視診や問診程度で、検査を行うことは稀ですが、感染症が疑われる場合は細菌培養検査や血液検査などを行うことがあります。

視診・問診

患者の傷を視診し、傷の範囲、深さ、出血の有無、感染の兆候などを確認します。擦過傷が皮膚の表面に限られているか、より深い組織にまで及んでいるかを判断します。

問診では、傷がどのようにして発生したのか、傷ができてからどのくらいの時間が経過しているか、既に行った応急処置や現在の症状についても確認します。

細菌培養検査

擦過傷が感染した場合、感染の原因となる細菌を特定するために、傷口からの分泌物を採取して細菌培養検査を行うことがあります。何の感染症に感染しているかを確認することで、適切な抗生物質を処方できるようになります。

ただ、細菌培養検査での破傷風菌の検出率は低いため、検出されなかった場合でも破傷風である可能性があります。その場合は、視診や問診で得られた情報から破傷風と診断することもあります。

血液検査

何らかの感染症がある場合、主に白血球の数やCRP値(体内での炎症や組織の破壊が起きていると上昇するタンパク質の数値)の増加が見られないかを確認します。

擦過傷の治療

擦過傷の治療は、傷口の洗浄、必要に応じて消毒、傷口の保護、定期的なケアの順に行います。破傷風を始めとする感染症に感染している場合は、感染症に応じた治療が必要です。

傷口の洗浄

はじめに傷口の洗浄が必要です。傷口に付着した汚れや異物を取り除くことで、感染のリスクを減らします。傷口は、流水で優しく洗い流してください。基本的に水道水で十分ですが、可能であれば生理食塩水の使用が効果的です。

また、消毒に関しては必ずしもする必要はないと考えられています。むしろ、消毒することで正常な皮膚を傷つけて、感染リスクが上がるとの報告もあります。水道水や生理食塩水で洗浄をし、異物が残っていないことを確認したら、次の「傷口の保護」に移ります。

傷口の保護

傷口が清潔になったら、絆創膏やガーゼを使用して保護します。保護することで傷口が汚れや細菌に触れるのを防ぐことができます。

また、擦過傷は乾燥させるよりも、潤った環境を保つ方が治癒が早まるとされています。そのため、創傷被覆材(ドレッシング材)の使用が効果的です。創傷被覆材は、ガーゼとは異なり、湿潤環境を保つことを目的にしたもののため、治癒の促進が期待できます。

定期的なケアと観察

傷が治癒するまで、定期的に絆創膏やガーゼ、創傷被覆材を交換し、傷口の状態を観察します。赤みや腫れ、膿の排出などの感染兆候がないかも合わせて確認します。

かさぶたが作られている場合、無理に剥がさないようにし、自然に剥がれるまで待ちましょう。

傷口が腫れたり、痛みが強くなったり、膿が出たりなどが見られる場合は、早めに医師の診察を受けてください。

擦過傷になりやすい人・予防の方法

擦過傷は、日常生活の中で誰にでも起こり得るケガですが、子どもや高齢者、活動的な生活を送っている人、擦過傷を生じやすい職業に就いている人に生じやすい傾向があります。

たとえば、子どもやスポーツを楽しむ人、屋外での活動が多い人は、転倒や物体との摩擦による擦過傷のリスクが高くなります。また、建設作業員や庭師なども日常的に硬い物体や荒い表面に触れることが多いため、擦過傷が生じやすいです。

高齢者の場合は、皮膚が脆弱になっているため、わずかな摩擦でも簡単に皮膚が損傷しやすいです。

擦過傷予防としては「保護具の使用」が推奨されます。スポーツをする際には、擦過傷を生じやすい膝や肘に保護具を着用することで、防ぐことができます。

また、高齢者の場合は、滑りにくい靴を履くことで、転倒や転落による擦過傷の予防につながります。転倒しない環境づくりとして、家の床に滑り止めマットを敷いたり、階段や廊下に手すりを設置したりすることで、転倒のリスクを減らすことができるでしょう。


関連する病気

類天疱瘡

皮膚炎褥瘡

疥癬

破傷風

熱傷

参考文献

日本形成外科学会「急性創傷診療ガイドライン」

日本皮膚科学会ガイドライン「創傷・褥瘡・熱傷ガイドライン―1:創傷一般ガイドライン」

一般社団法人 日本創傷外科学会「擦り傷」

National Library of Medicine「Abrasion」

東京都感染症情報センター「破傷風 Tetanus」

日本形成外科学会「傷(きず)・外傷」

厚生労働省「破傷風」