自民党総裁選に「異変」が…!滝川クリステルの「不参戦」宣言がもたらした、意外な効果

写真拡大 (全3枚)

いよいよ今日、新しい自民党総裁、総理大臣が決まる。

候補者たちは「最終演説」で、自らの国家観や政策、党改革への意欲等はもちろんのこと、この日の有権者である自民党の国会議員等だけでなく、近く行われるであろう総選挙をにらみ、国民に対しても心を揺さぶる演説をしなければならない。その際に多用されるのは自らの生い立ちや家族との関係に関する話だ。

不発に終わった小泉進次郎候補の「母子初対面」話

立候補者数が過去最多の9名となった今回の総裁選は、9月12日の公示日に候補者全員による所見発表演説会から始まった。

最初の「所信表明」で「家族ネタ」をぶち込んできたのは、当初ダントツの勢いがあった小泉進次郎候補だ。父母の離婚で別離した実母と42年ぶりに会ったことを感情を抑制しながら語った。その姿には同情が集まる・・はずだった。

しかし、期待通りに共感は広がらなかった。その理由として、自民党支持層では賛否が分かれる「選択的夫婦別姓」の文脈として語られたことが挙げられる。また複雑な家庭環境については「大変だったんだろうな」「よくまっすぐ育ったよね」といった感想を一瞬持ったとしても、一般の世界とはあまりにかけ離れているため、共感を継続するのは難しい。

また、自分も子の親となって心境の変化が生まれた、という点については、親にならないと理解できないのならば政治家として未熟すぎるのではないかという批判にもつながった。「母との初対面」を語る42歳に、真相を告白された中学生の進次郎候補の姿が重なり、むしろ幼さを印象づける結果になったのではないか。

「所信表明」で人々の心を捉え、その後の選挙戦に勢いをつけようとの小泉候補陣営の思惑は不発に終わったとも言える。

滝川氏の「不参戦宣言」は総裁選をどう変えたのか

所信表明からほどなく、小泉候補の妻の滝川クリステル氏は事務所を通じてコメントを出し、早々に「総裁選挙には参戦しない」ことを表明した。

滝川氏はこれまでの総理候補の妻とは違う。政治の世界に隣接しつつも、密着することは避けなければならないメディアで実績を積み、現在も働いているのだから、この姿勢は理解できる。しかし、事務的に処理されたような短い文章はどこか突き放した印象を与え、小泉氏が父母の離婚を経ても「家族」であることを強調したのとは裏腹に、もしやそんな「キレイゴト」には完結できない、現在進行形の何かが起こっているのかと邪推する向きすらあった。

一方で、ここには選挙戦略的に考えれば、駆け引き的側面もあるだろう。滝川氏が早々に不参戦を表明したことで、他候補の「妻カード」を抑止する効果があるからだ。

今回もニュース番組では、総裁選等ではお馴染みの「密着!妻から見た○○候補」として自宅で夫婦で寛ぐシーンや妻たちの奮闘ぶりを特集したが、9人という大量の候補者に対して一定の平等性を担保する報道が難しいこともあり、また、人気候補進次郎氏の妻滝川氏の不参戦によってメインどころが不在となったためか、これまでの総裁選に比して「妻」に関する話題は盛り上がりを欠いた印象だ。

滝川氏だけでなく、今回の総裁選挙に出馬した候補者たちの配偶者は弁護士や経営者など、「政治家の妻」「政治家の夫」以外に職業を持つ人々が多い。一族郎党全てが一家の議席を守るため、どんな犠牲を払ってでも一致協力といった小泉純一郎氏型のモデルは消滅しつつあるとも言える。今回の総裁選は、明らかにこれまでの政治家の配偶者役割が変化していることも示すこととなった。

「最終演説」で何を語るのか

今日で9人の戦いは終わる。

党員投票が終わっている今、話しかけるべき相手はこれから投票を控える国会議員が中心となるが、冒頭でも指摘した通り、総選挙、もしくは候補者自身の今後を見据えて、印象に残る演説を残さなければならない。

聞き手からすれば、党改革への思いや手段といった話題はこれまでも散々語られてきているわけで、新鮮味がなければ投票行動を変えるまでには至らない。最終演説では、いかに「知らなかった側面」をスピーチに盛り込むことができるかが勝負である。

また、こうした演説には諸所にサインが散りばめられる。「自分に入れてくれたら、こういう見返りがあるよ」というメッセージを、ほんの数分で、会場にいる人々に実感させなければならない。総裁戦に関して感謝を述べるにしても、誰に対して、どのタイミングで出すかで、聞く人が聞けばわかる内容にしなければならないのだ。

さらに難易度が高いのは、「決選投票」になった場合を想定して、二つの原稿を作らなければならない上位3人の候補者たちの演説である。

枝野氏は「子どもネタ」で勝負

先般行われた立憲民主党の代表選でも同様のことが起こった。1回目の投票で有効投票の過半数に至らず、上位2名による決選投票となった。その場合は「最終演説」を短時間の間に2度行わなくてはならない。

枝野候補は、この決選投票まで家族の話を封印してきた。

演説の中心には太平洋戦争を終わらせた鈴木貫太郎首相の話を据え、前半、後半の2回も入れたが、それよりも聴衆の印象に残ったのは、長男が軽度の知的障害で通信制の高校に通っており、最近、2泊3日のスクーリングに出掛けたことで成長を感じ親としての喜びを語ったこと、そして、次男が地下アイドルにハマっているという話だった。枝野候補が子どもの障害と向き合っていることはこれまであまり言及されてこなかったからこそ、印象に残るのである。この話を決選投票の演説に持ってきたということは、枝野候補にとっての「勝負ネタ」だったとも言える。

結果的にはその演説で結果を覆すことはできなかったが、印象に残ったことは間違いない。

「決選投票演説」が映す日本の今と未来

自民党の総裁選は上位3名が拮抗し、誰が決選投票に残るか、見極めが難しいと言われている。それは本人たちも同様だろう。つまり、上位3人は1回目の演説が「最終演説」になるか否かはわからないまま、演説に臨むことになる。そして、当然この3候補は、違う内容の二つの原稿を持って決選投票に備えているはずである。

私が注目しているのは、高市候補の演説だ。高市候補が演説中にプライベートを語るシーンは少ない。情緒的な側面を意識的に排除しながら、また「女性政治家」であることを極力主張しない戦法で、男性社会と言われる政界の中で生き残ってきたとも言える。今回の総裁選でも、あえて「女性初の総理大臣」というメッセージを自ら発信することは控えているようにも見える。

その高市候補が、あと数センチのところまで来た総理大臣の座を引き寄せるために、そのまま行くのか、それとも、これまで語ってこなかった「知られざるサナエ」を語るのか。もしも後者を選ぶ場合は何をどう表現するのか。さらに言えばアンチ高市、つまり「サナエあれば憂いなし」を憂う人々に対して、どのような言葉をもってその「憂い」を払拭させるのか。まさに力量が問われている。

もちろん、「これが最後の挑戦」と位置付けた石破候補が政治人生の総括として紡ぐメッセージ、また小泉候補は所信の結果を受けて、どう修正してくるか等にも注目したい。

総理大臣を目の前にして一世一代の勝負に臨む「決選投票演説」は、日本の今と未来を映し出す鏡なのである。

・・・・・

【さらに読む】ここにきて習近平が「もっとも警戒する」自民党総裁《候補者の名前》…石破茂、高市早苗、小泉進次郎から選んだ

ここにきて習近平が「もっとも警戒する」自民党総裁《候補者の名前》…石破茂、高市早苗、小泉進次郎から選んだ