【自民党総裁選】選択的夫婦別姓の議論が一気に前進か…それでも、党内がまとまらないワケ

写真拡大 (全2枚)

27日投開票の自民党総裁選は第4コーナーを回り、最後の直線勝負を迎えた。史上最多の9人に上った各候補は自らの政権像を掲げながら、外交・安全保障や経済政策、社会保障など「定番メニュー」の論戦を繰り広げてきた。ところが、今回の総裁選では、これまでまったく取り上げられなかったテーマが大きな争点になっている。自民党内で賛否が割れる選択的夫婦別姓の導入だ。

総裁選で盛り上がる、選択的夫婦別姓の議論

「子どもが生まれて、自分のことはどうでもよくなった。(大事なのは)自分のことより子どものこと。家族の問題ではなく、一人一人がどんな生き方をしたいかは違うだろう。『世の中は、こうだ』というものを変えたい。自分の気持ちに素直に生きられる国にしたい」。

さいたま市のJR浦和駅前を埋め尽くした聴衆を前に、小泉進次郎氏は21日夕、冒頭の物価高対策に次いで、選択的夫婦別姓制度の導入を訴えた。JR秋葉原駅前で行われた19日夜の街頭演説会でも、小泉氏は2番目にこの問題を挙げ「少数であっても、別姓を選びたい人に選択肢をつくる」と強調した。最優先課題として、極めて積極的に取り組もうとする姿勢がうかがえる。

今や忘れられている向きが強いが、小泉氏は環境相時代の2020年、男性の国会議員として初めて「育児休業」を取得しており、ジェンダー・男女共同参画問題には関心が高い。厚生労働省の「人口動態統計」によれば、夫の姓を選択した夫婦の割合は、約95.5%(2019年)に上っており、改姓に伴う負担やしわ寄せが女性に向かっているのは明確だ。選択的夫婦別姓制度とは、突き詰めれば、男性優位社会が続く日本におけるジェンダー不平等問題に行き着く。自民党内で反対論が根強い理由はそこにもある。

小泉氏のほか、石破茂元幹事長、河野太郎デジタル相も導入に前向きな姿勢を示している。一方、反対の立場を鮮明にしているのは、「伝統的な家族観」を信条とする保守派の高市早苗経済安保相と小林鷹之前経済安保相。実に9人中、半数以上の5人がこの問題についての賛否を表明しており、約30年間にわたり遅々として進めてこなかった議論が、一気に前進した形だ。

事実上、次の首相を選ぶ自民党総裁選には、国民の注目がおのずと集まるのは、同時進行で完全に埋没した立憲民主党の代表選と比べれば、お分かりだろう。党内の部会などでしか行われてこなかった議論が、総裁選で取り上げられることで、ガラス張りで透明化される。賛成、反対、それぞれの意見が可視化され、潜在化していたテーマが、顕在化する。よって、国民の関心が高まる。

小泉、石破、高市各氏が三すくみのまま佳境を迎えており、上位2人が進んだ決戦投票で、次期総裁が決まる見通しだ。これら3候補とも夫婦別姓導入への見解を明らかにしており、誰が就任しても、この問題に直面することが求められる。メディアからの質問も飛ぶだろう。その後、国民も含めた議論がなされるに違いない。筆者は、これだけでも大変意味があることだと考える。

各候補者の主張は…

次に、各候補の主張を点検してみる。まずもって、指摘しておきたいのは、あくまでも「選択」であって、「強制」ではないということだ。夫婦が望む場合には、結婚後も夫婦がそれぞれ結婚前の姓を名乗ることを認める制度であって、その選択肢を新たにつくるだけに過ぎない。要は、これまで通り夫婦同姓を選びたい人は、引き続き、同姓を選べるのである。片方が、もう片方の権利を侵害するということは当たらない。

小泉氏の発言で注目したいのは、1.首相就任後「1年以内」に民法改正法案を提出2.本会議の採決で、自民党としての党議拘束を外すーの2点だ。とりわけ、2については、各議員によって家族観や宗教観、倫理観が様々であるがゆえに意見が入り乱れているわけであって、後世まで記録が残る本会議の賛否行動で意思表示を示せるのは、とりわけ反対・慎重派にとっては、好都合だろう。2009年の臓器移植法改正採決時に、各党が党議拘束を外した前例がある。

石破氏は「夫婦が別姓になると『家族が崩壊する』とか、よく分からない理屈があるが、やらない理由がよく分からない」としており、女性の権利についても「尊重しないといけないが、女性が性を変える方が圧倒的に多い。別姓でいけることを法的に担保するのは大事だ」と述べる。河野氏も、選択肢を増やす社会にすべきだとしており、小泉氏と同様の立場を示している。

これに対し、小林氏は「家族兄弟姉妹で、姓が異なる家庭が出てくる可能性がある以上、慎重であるべきだ」と指摘。高市氏は「戸籍上のファミリーネーム、家族一体とした氏は残したいと思っている」と強調し、両氏とも旧姓を通称として使用できる範囲を拡大することで対処すべきとの考えを示す。5人とは別に、上川陽子外相は賛否こそ鮮明にしていないものの、「結婚して、改姓したとき、私自身のアイデンティティーが半分そがれたような思いがした」として、アイデンティティーロスに陥った思いを明らかにしている。

では、反対・慎重派の高市、小林両氏が指摘する旧姓通称使用の拡大で、乗り切ることができるのだろうか。旧姓と現姓が混在することで、どのような弊害が生じているのだろうか。

旧姓通称使用の弊害

西日本地方の国立大学に勤務する女性研究者は「国際的な研究活動・発表の場において、さまざまな不利益や混乱が生じている」と明言。「とりわけ、国際ジャーナルに論文を提出する際に、新旧の名字が異なるため、同一人物であることが伝わりにくいことがあり、キャリアの一貫性が損なわれる恐れがある」と述べ、キャリア継続において、支障があると打ち明ける。

さらに、国際学会での発表や、海外の研究者とのやり取りでも、蓄積された先行研究において、「旧姓時代の論文と、現姓時代の論文が別人のものとして認識されることがあり、業績の正確な評価に影響を与えることがある」という。

この研究者の職場で、旧姓と結婚後の姓を使用している女性は半々。彼女は、結婚後も旧姓を使用しているものの、研究費を請求する際に、個人銀行口座が現姓であるため、振り込みに時間がかかるなど、事務的な問題も起きている。国内の研究機関では、旧姓使用が認められてはいるものの、運用が統一されていないため、実務上、混乱することが少なくない。研究者は「こうした日本の状況は、国際的な標準とは異なり、海外の研究者やジャーナル編集者からの理解を得るのが難しい場面があるかもしれない」と述べ、夫婦別姓制度が一刻も早く導入されるのを望んでいる。

一方、わずか5%に満たない「女性側の姓に変えた男性」からも弊害が指摘される。現状、パスポートの姓の欄には戸籍名(妻の姓)の後に、カッコ書きで旧姓が併記されている。ところが、海外ではダブルネームとみなされ、不審者扱いをされることが数多い。日本の実情を説明したとしても、なかなか理解されず、時間がかかって、いつも苦労するという。

また、8割の銀行で旧姓が使えるといっても、現実問題として、一般人が旧姓で口座を開くのは極めて困難だとも指摘。手術同意書などを記すにしても、夫婦同姓がデフォルトであるため、異なる姓を書くと、夫婦とみなされない場合もあるといい、夫婦別姓が導入されれば、医療現場でも「別姓は当然」との認識が進むという。

高市氏は、総務相時代に所管する制度について「住民票やマイナンバーカードに関する通称使用届けを出したら、婚姻前の氏も併記されるようになっている」と説明する。ただ、併記されることによって、かえって混乱が生じている事例があるということは見過ごせないのではないか。旧姓通称使用、新旧の姓併記をさらに拡大させたところで、混乱は増える一方で、手続きを余儀なくされる行政コストも増すだけだろう。

30年もの間、議論が進んでいない現状

要は、「併記できれば、本人が満足」という類の話ではなく、周囲の人、とりわけ海外において、「同一人物であってダブルネームではない」ということが理解されない限り、あまり意味はないということになる。法務省によれば、結婚後の夫婦別姓が制度として認められていないのは日本だけで、通称使用の拡大は、仮に国内で、しのげたとしても、海外では通用しないのが実情だ。あくまでも、弥縫策に過ぎず、将来的に見直しを迫られる可能性は否定できない。

法制審議会が、夫婦別姓制度の導入を答申したのは1996年で、既に四半世紀以上が経過した。この間、法務省は二度にわたり法案の提出準備に動いたものの、時の政権与党は国会で取り上げるという選択を取らなかった。

司法の場では、最高裁判決は2回とも「合憲」としているが、「国会が論じ、判断するべき」として、立法府の行動を促している。政官財の一翼、財界の総本山である日本経団連は今年6月、「ビジネス現場では、通称使用で弊害あり」として、早期実現を要望した。多くのグローバル企業が会員であり、ここでいうビジネスとは、海外の現場での弊害も意味している。

ANNの世論調査(21、22両日実施)によれば、「選択的夫婦別姓導入」と「旧姓通称使用の機会を増やす法整備を進める」が33%で並ぶとともに、「夫婦同姓の現制度を維持」が30%で、いずれも伯仲している。2022年に市民グループが行った調査によれば、自民党以外の政党は夫婦別姓制度導入に賛成だ。党内の保守系議員や、反対姿勢を鮮明に示す保守系支持団体への配慮から約30年議論が停滞していたが、ボールはもはや自民党に投げられている。

秋に実施されるのが濃厚な衆院選の後、どのような政権枠組みになるかを現時点で予想するのは、時期尚早にすぎる。とはいえ、総裁選でここまで一つのイシューとなった以上、自民党政権が継続された場合、結論がどうなるにせよ、党内の動きを前に進めて、決着させるべきだ。その際、法律婚を望むも姓を変えたくないため事実婚をしている人や、同姓から別姓に変えたいという「少数派」にも視線を注ぎながら、議論をスピードアップさせる必要があるだろう。

【最新予測】小泉進次郎総理の「いきなり総選挙」で落選する「裏ガネ」「旧統一教会に関与」議員の全実名を大公開