軍事誌が”130ページの異例大特集”で話題、欧米を震撼させた「ソ連海軍」の”ヤバすぎる正体”…!

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潮書房光人新社が発行する老舗軍事雑誌『丸』(11月号)が関係者の間で話題となっている。

旧日本軍の戦闘艦艇や戦闘機などを中心に特集を組んできた同誌が今回、異例の「ソ連海軍」を130ページも大特集しているからだ。

特集の巻頭ではウクライナ戦争の解説などで超人気の小泉悠・東大先端科学技術研究センター准教授が、陸軍大国・ソ連の「赤い海軍」の歴史を俯瞰する論文を寄稿しているから、なおさら注目が集まっている形だ。

知る人ぞ知る「ソ連海軍」とは一体、何だったのか――。重厚な布陣で構成された同誌の特集から一部抜粋・再構成してお届けする。

海軍力建設が困難だった草創期

1922年の誕生から1991年の解体に至るまで、太平洋・大西洋・地中海など、世界中の海に展開したソ連海軍の歴史とはどういうものだったのかーー。

「革命政権の手に残された海軍力はひどく傷つき、弱体化していた。帝政ロシアが日露戦争の敗北後に再建した艦隊は再び破壊され、ごくわずかな水上艦艇や潜水艦を除くと、ごくわずかな小型艦艇が残存していたに過ぎなかった」

そして、国家の再建に必要とされるリソースは膨大であり、「誕生まもないソ連は、海軍力整備を後回しにせざるを得なかった」という。

海軍方針の基調にあった「小戦争」理論

ソ連海軍の再建が緒についたのは、1924年のスターリン政権成立以降である。

戦闘艦艇の拡充が図られたが、その中心は潜水艦と小型艦艇であり、戦艦や巡洋艦のような大型水上戦闘艦艇、あるいは空母への関心は非常に低かった。それはなぜかーー。

冷戦期の大部分においてソ連海軍総司令官を務めたセルゲイ・ゴルシコフ提督は戦前のソ連海軍の方針が「小戦争」理論に基づくものであったと述べている。

「ソ連が強力な海軍力を保有することは当面無理であると割り切って、より優勢な敵と海で渡り合うために、地上の支援を得られる沿岸で諸兵種共同による集中的な打撃を与えられる能力を追求するという方針である」

頓挫した「洋上艦隊建設構想」

世界恐慌を経て国際的な緊張が高まり、ワシントン・ロンドン海軍軍縮条約による「ネイヴァル・ホリデー(海軍の休日)」が終わると、ソ連海軍も対応せざるを得なくなる。

1936年、ソ連政府は洋上艦隊建設計画を承認した。「小戦争」理論の修正だが、それでも海軍の任務はあくまで地上軍の作戦支援であり、その主目的は防勢に置かれた。

リソースの制約も建設構想の実現を阻んだ。とりわけ工業力の大半を注ぐことになる1941年6月から続いた独ソ戦はその主要因だった。

「スターリンの死」以降に外洋艦隊化

第二次世界大戦後も復興対策や西側との冷戦に備えた地上戦力の拡充が優先され、海軍力の強化は二の次だったが、例外は原子力潜水艦だった。

「有事に核攻撃任務を果たすために米本土やアメリカの同盟国周辺に常時展開していなければならなかったから、少なくとも海中では、ソ連海軍のグローバル展開が志向されるようになった」

ソ連海軍の外洋海軍化が軌道に乗り始めたのは1964年に登場したブレジネフ政権以降のことである。原子力潜水艦隊の拡充に加え、提督たちが熱望していた大型水上戦闘艦艇が続々と配備されるようになっていった。

冷戦期ソ連海軍の背骨を形成するミサイル搭載戦闘艦が次々と就役し、1970〜80年代には原子力推進の巡洋艦や固定翼機運用能力を持った重航空巡洋艦が配備され、名実ともに米海軍に次ぐ世界第二位の海軍となった。

グローバル展開で目的とした「本当の狙い」

では、ソ連海軍のグローバル展開は何を目的としていたのか。

西側での見解はなかなか一致しなかったが、「現実にソ連海軍が重視していたのは、戦前と同様に防勢的な任務であった。特に重視されたのは、ソ連本土と弾道ミサイル搭載原潜(SSBN)のパトロール海域を米海軍から守り切ることであり、そのためにはなるべく遠い海域に大型対艦ミサイル搭載艦(水上戦闘艦艇や潜水艦)及び航空機を多数進出させる必要があった」。

「1960年代以降のソ連海軍は、西側的な意味でいう外洋艦隊というよりも、陸上における戦略縦深を海側にも延伸するための存在であったと言える」

ソ連崩壊による影響は海軍では比較的小さかった

1991年12月、ソ連は崩壊した。広大な国土は15の新興独立国に分割されたが、ソ連海軍が保有していた北方艦隊、バルト艦隊、黒海艦隊、太平洋艦隊の4つの艦隊は新生ロシア海軍にほぼそのまま引き継がれた。陸軍、空軍など他の軍種に比べソ連崩壊の影響は小さかったのだ。

唯一の例外は、ロシアとウクライナの間で帰属がなかなか決着しなかった黒海艦隊。1997年に分割協定が締結され、崩壊から6年後にソ連海軍最後の残滓もまた消え去った。

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