自民党総裁選の結果しだいで「壊滅危機」の業界とは…「後ろ盾の大物を怒らせたらヤバい」関係者は悪夢にうなされている

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「抵抗勢力」扱いされて…

「自民党総裁選の結果が下馬評通りに小泉進次郎氏の勝利なら、うちは政争に巻き込まれる」。国土交通省内からこんなうめき声が漏れ聞こえる。

国民に人気が高く「選挙の顔」として党内の期待を集める小泉元環境相が新総裁・新首相に就けば、父親の小泉純一郎元首相を真似て「聖域なき改革」を推進し、その目玉に掲げるライドシェアの全面解禁を迫ってくるのは必至だからだ。

一般ドライバーが有料で乗客を運ぶライドシェア事業にアプリ事業者などを参入させることについては、タクシー業界の意向も背景に、第二次安倍晋三政権から国交相ポストを独占する与党・公明党や、自民党の運輸族議員が猛反対しており、収拾がつかなくなる恐れがある。

小泉氏のバックに、人事権を「伝家の宝刀」として霞が関官僚を意のままに動かしてきた菅義偉前首相が控えていることも国交官僚を震え上がらせており、総裁選の行方を固唾を飲んで見守っている状況だ。

「この30年間、日本から世界で勝負する企業が出ないのも、既存企業が既得権益を守るため、新規参入を阻もうとしているからです。現状を打破するには聖域なき規制改革が不可欠で、その象徴がライドシェアです。誰もがいつでもどこでも安全に利便性の高い移動サービスを享受できるよう、ライドシェアを完全解禁します」

小泉氏は9月6日に開いた総裁選出馬表明の記者会見で、タクシー業界や国交省、運輸族議員らを「抵抗勢力」に見立てて、こうまくし立てた。

大手IT企業からの「酷評」

ライドシェアを巡ってはドライバー不足なども背景に近年、日本でも「移動の足」を確保する観点から導入論が高まっている。このため、国交省は今年4月から「日本版ライドシェア」をスタートさせた。

だが、中身は大手タクシー会社が運行管理を担い、地域や時間帯も限定されるなど既存業界への配慮が目立ち、海外のようにITプラットフォーマーの参入は許されていない。

そうした現状に、小泉氏を長年支持する国内外の大手IT企業は「なんちゃってライドシェアだ」と酷評。米ウーバーのようなアプリ業者が自由に参入できるように、法制度の早急な整備を求める声が高まっている。

岸田文雄政権内でも、同じく総裁選に立候補している河野太郎規制改革担当相は全面解禁推進派で、昨年11月以降、自らが手掛ける政府の規制改革推進会議の場で法整備を念頭に議論を進めてきた。

同会議の委員の中には、LINEヤフー会長の川邊健太郎氏ら小泉氏と昵懇のIT経営者もおり、「今の制度(日本版ライドシェア)では移動の足を十分に確保できない」として全面解禁の必要性を訴えている。

怒りを隠さない国交相と公明党

これらの動きに自民党の族議員以上に反発したのが、斉藤鉄夫国交相とその所属政党である公明党だ。

斉藤氏は「タクシー会社の運行管理を不要にすれば、安全の確保や利用者保護などの観点から問題がある」と反論。小泉氏から「抵抗勢力」とレッテルを貼られたことには「特定業界を守る姿勢で行政を行っていることは全くない」と怒りを露わにした。

公明党も、国交省経験者の赤羽一嘉衆院議員を座長とする「事故撲滅・持続可能な地域交通を実現するプロジェクトチーム」が、岸田官邸に慎重な対応を求める提言書を提出。この中で「プラットフォーマー管理型のライドシェア事業に関する法制度の議論を結論ありきであるかのように拙速に進めることは、『安全第一』を掲げる公明党として容認できない」との姿勢を打ち出した。

赤羽氏は提出後、記者団に「山口那津男代表、石井啓一幹事長も含む公明党すべてでオーソライズしたものだ。特定の時期までに結論を出すという結論ありきの方針での立法の議論は認められない。法治国家としてあるべきでことではない」と言い放った。

「ポスト死守」にかける事情

背景には「国交相ポストを約12年にもわたって独占してきた公明党が、タクシーをはじめとした業界と親密になり、『自民党化』したことがある」(永田町筋)とも指摘される。

1999年の連立以来、公明党が初めて国交相ポストを得たのは小泉純一郎政権下の2004年。当時は「旧田中派の流れを汲む平成研究会の、建設・運輸業界に対する強大な影響力を削ぐのが狙いだった」(同)。

その後、自民党にポストが戻ったり、旧民主党に政権が移ったりしたが、政権交代で2012年末に第二次安倍政権が発足して以降は、一貫して公明党の指定席となってきた。

建設業界関係者は「公明党出身の大臣になり、かつてのように大口献金を求められるようなことはなくなった。代わりに国政選挙だけでなく、市議選や区議選まで動員や応援を求められるなど選挙支援への要求は厳しくなった」と明かす。支持母体の創価学会の集票力が会員数減少などで陰る中、公明党にとって国交相ポストに伴う業界や業界団体の協力が「貴重な補完票」となっている事情がうかがえる。

実際、山口代表は2023年9月の岸田政権の内閣改造前に「国交相は党にとってこれからも重要」とポスト死守を公然と要求していた。

国交省筋によると、ライドシェアを巡っては、日本交通創業家出身で家柄の良さと端正な顔立ちから「タクシー王子」の異名を取る川鍋一朗・東京ハイヤー・タクシー協会会長(日本交通取締役)ら業界幹部が、斉藤国交相や公明党に全面解禁を安易に認めないようしきりに陳情してきたという。

政府・与党内の推進派と慎重派の抜き差しならない対立に岸田政権も立ち往生。6月にまとめた「経済財政運営を改革の基本方針(骨太の方針)」では、ライドシェアについて「法制度を含めて事業のあり方の議論を進める」とする一方、具体的な法整備の期限には一切触れない「玉虫色」の表現でお茶を濁した。

国交官僚たちの警戒

事業を所管する鶴田浩久物流・自動車局長(1990年旧運輸省)ら国交官僚の多くも、ライドシェアの全面解禁には消極的なのが本音だ。

もともと旧運輸官僚には、タクシーが不足するよりも過剰になって事業者が共倒れしたり、ドライバーの待遇が悪化することへの懸念が強い。供給過剰対策をタクシー行政の軸足としてきたわけで、過去には各社ごとの稼働台数を規制する需給調整さえ行っていた。

さらに「監督官庁に敬意を払わず、自分たちの言うことに聞く耳を持たないプラットフォーマーの参入を認めることへの強烈なアレルギーもある」(中堅幹部)。もちろん業界団体への天下りなど既得権益を守りたい思いもあるが、要はアウトサイダーに運輸行政をかき乱されたくないと考えているわけだ。

そんな国交省にとって、全面解禁に身体を張って抵抗してくれる公明党の大臣は心強い存在だった。だが、小泉進次郎政権が誕生すれば、そんな風よけに頼れなくなるかもしれない。小泉氏周辺では「国交相ポストは公明党の指定席ではない」との声も出ており、大臣に推進派を起用する荒療治も予想されるからだ。

ある国交省OBは「『既得権益を叩き潰す』とアピールして日本道路公団の民営化を仕掛けた親父に倣って、我々を目の敵にしてライドシェア全面解禁を強行するのではないか」と警戒する。

背後には「あの大物政治家」の影

小泉氏の最大の後ろ盾である菅氏の存在も不気味だ。ライドシェア全面解禁論が勢いづいたのは、菅氏が昨年8月の長野市での講演で、インバウンド急増による地方のタクシー不足を取り上げて「観光地は悲鳴を上げている」とぶち上げたのがきっかけ。これに呼応するかのように、小泉氏や河野氏ら推進派のボルテージが一層高まった。

ふるさと納税や携帯電話料金の引き下げなど「自分が言いだしたことは必ず実現させる」のが菅氏のモットー。官僚が歯向かえば、内閣の人事権を行使して容赦なく閑職に飛ばしてきた。

国交省では、菅政権時代の2021年1月、北陸新幹線の金沢ー敦賀延伸の遅れを巡り、当時官房長だった水島智氏(1986年旧運輸省)が菅氏の逆鱗に触れ、外郭団体の鉄道建設・運輸施設整備支援機構の副理事長に「左遷」された経緯もある。

岸田政権に代わり、水嶋氏は国交審議官に復帰したが、省内では忘れがたいトラウマとなっている。ライドシェア問題をどう捌けばいいのか。国交省にとって悪夢にうなされる日々が続く。

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