映画『ヒットマン』でさまざまな殺し屋になり切ったグレン・パウエル
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 映画『ビフォア』シリーズや『6才のボクが、大人になるまで。』のリチャード・リンクレイター監督がインタビューに応じ、新作ダークコメディー『ヒットマン』のモデルとなったゲイリー・ジョンソンさんについて語った。

 1947年生まれのゲイリーさんは、テキサスで2匹の猫(イドとエゴ)と暮らし、魚の世話と庭の手入れが日課だった人物。地方検事局で犯罪に関する録音や録画データを扱う仕事に就き、地元のコミュニティカレッジで週に2回心理学などを教える一方、“殺し屋”役が異様にうまかったため警察に協力し、おとり捜査で殺しを依頼してきた70人以上を逮捕に導いた。

 ゲイリーさんについての記事は2001年にテキサスの雑誌「テキサス・マンスリー」に掲載されており、共に脚本を執筆したリンクレイター監督と主演のグレン・パウエルは多くの要素をそこから採用した。元夫から暴力を振るわれて恐怖のあまり逃げることもできず、やむをえず殺しを依頼してきた女性に対し、刑務所へ送るのではなく適切な支援が得られるよう取り計らったというエピソードは、ゲイリー(グレン)とマディソン(アドリア・アルホナ)のストーリーの基になった。さらに、ゲイリーと依頼人とが会う際の暗号(「パイの味は?」「どのパイもうまい」)も実際に使われていたものだ。

 残念ながらゲイリーさんは映画の完成を待たずして2022年に亡くなってしまったが、リンクレイター監督はその人柄について「映画の最後で彼を“最高にクールな男(the chilliest dude imaginable)”と表現しているが、まさにその通りの人なんだ。無頓着で、泰然とした人」と述懐する。

 「映画の製作が決まって電話した時も、ただ『いいね』みたいな(笑)。全然気にしていないんだ。『あなたの映画を作ります』って言ったら普通の人は気にすると思うけど、彼は『まあ、どうでもいいよ』って感じで、仏教徒だからか、そういうことに全くこだわっていなかった。この映画によって自分が規定されることはない、と知っていたんだ。僕たちは長い会話をしたのだが、彼はいつも美しく超然としていた。彼のそんな雰囲気が好きだった」

 「彼に映画を観てもらえなかったことが、ただ悲しい。楽しんでくれたと思うから。『ふっふっふっふっ』という彼の笑い声がずっと頭に残っているんだよ(笑)。彼は落ち着いた含み笑いをするんだ。グレンが(ゲイリー役で)やったことを観たら、そんな風に笑ってくれたと思う」

 なお、ゲイリー役のグレンは依頼人に合わせてさまざまな殺し屋の姿で登場するが、予算の関係で事前のテストなどはできず、完成版のビジュアルを観るのは全員にとって撮影日が初めてだった。リンクレイター監督は「本当に開いた口がふさがらなかったよ。バンのドアが開くと、誰も見たことがない新しいキャラクターがそこにいる。あのヘアメイク、衣装で彼が現れる瞬間は毎回ものすごくおかしかった」と明かす。「一つ一つが特別で、面白かった。使えないやつも出てくるかと思ったけど、全て使った」といい、「もしテレビシリーズだったら毎回新しいキャラクターを出して、永遠に続けられるね」と笑っていた。(編集部・市川遥)

映画『ヒットマン』は公開中