(※写真はイメージです/PIXTA)

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タワーマンションや庭付きの戸建て……。収入が高い人ほど、住居にもお金をかけているというイメージは強いでしょう。しかし高所得者のなかには、住居にお金をかけていないという人も。一体どんな理由でしょうか? 本記事では、Yさんの事例とともに、住まいへの価値観について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。

年収400万円と年収2,000万円の人が同じアパートで暮らす

年収2,000万円の人の割合はたった1%

程度国税庁の「2022(令和4)年分民間給与実態統計調査」の給与階級別給与所得者数・構成割合によると、年収2,000万円超えから2,500万円以下の人は全体の0.3%です。1,500万円超えから2,000万円以下の人は0.8%となっています。年収2,000万円前後の人は全体の1.1%となっています。

次に年収400万円前後の割合をみると、300万円超から400万円以下の人は16.5%、400万円超から500万円の人は15.3%となっています。1年を通じて勤務した給与所得者の1人当たりの平均給与は458万円であることから、Aさんの年収は平均的な金額であることがわかります。

ひょんなことから同じアパートに住む男性の年収がわかり、「もっと綺麗な家に住めるだろうに、どうしてこんなオンボロアパートに住んでいるのだろう?」と疑問に思っていたところ、偶然、隣のYさんと知り合うことに……。

同じアパートに住む男性の年収を知った理由

大人しい性格のAさんは、中小企業に勤める45歳の男性。両親を早くに亡くし、老後も一人で過ごすことを考え、早くから資産形成をしています。万一のときに頼れるのはお金だけという考えを持っています。Aさんが住んでいるのは家賃5万円、自分と同い年の築古アパート。お風呂とトイレは一緒で、洗濯機は外、インターホンもついていないので、来訪者は扉をノックする必要があるなど、なにかと不便もありますが、通勤に不便でない範囲で住居費をなるべく抑えられる物件を探した結果、このアパートに辿り着きました。

日常生活は質素に過ごし、余暇はパソコンで好きなアニメをみたり、ひとり近所の居酒屋を訪れたりする程度。ご縁があったら結婚もしたいと考えていますが、思うようにはいきません。アニメが好きなAさんは、ネットで知り合った共通のアニメが好きな人とSNSで会話をするようになり、ときにはプライベートな話をするようになります。

名前も顔も知らず、会うこともないため、気兼ねなく話せることがネットの友人のいいところですが、たまには、気の合う友人とリアルで会って居酒屋で呑みながら話をしたいと思うことも。

ある時、アニメつながりのネットの友人が偶然、近所に住んでいることがわかります。お互い驚いて、近所の居酒屋でリアルに会うことにしました。さらに同じアパートに住んでいることが判明したのです。

勝ち組にみえても…

初対面にもかかわらず、お互いのことはよくわかっている――ネットで知り合うケースではありがちです。55歳のYさんは、大手IT企業に勤め、年収は2,000万円程度だそうです。それが事実なら、タワーマンションや庭付きの戸建てなどにだって住むこともできるはずですが、なぜ家賃の安い築古のアパートなのでしょう。

Yさんの両親は、人に騙され負債を抱えて家業を倒産。倒産当時の借金は2億円だったとのことです。Yさんの両親は返済途中で心労のため倒れ、精神的に立ち直れないまま、現在は介護施設に入所しているとのことです。

Yさんは親の代わりに借金を返済するため生活費を抑え、家賃の安いアパートに住みはじめたのがきっかけといいます。借金は返済できましたが、Yさんには、人間不信と両親の介護費用の負担が残ってしまいました。在宅勤務ができるため、家からはほとんど出ず、現在も質素倹約し、ひっそりと生活しているそうです。

Yさんの込み入った事情に、Aさんはなんと言ってよいかわかりませんでした。あまり人とも会わないからか、お世辞にもYさんの身なりはいいとはいえず、白髪交じりの髪、無精ひげからは哀愁を感じます。

Yさんは続けます「介護費用がかかるとはいえども、もう少しグレードの高い家にも住めるとも思う。でも、一度上げた生活水準は戻せない。両親もそれで苦労する姿を目の当たりにした。実際、住めば都で、いまのアパートには特に不満もない」。

社会とのつながりも重要

Aさんは、人との関わりが得意というわけではありません。しかしYさんは、そんなAさんの踏み込み過ぎず、不器用な気の遣い方をしてくれて、なにより趣味の話が合う点が気に入りました。「遠くの親類より近くの他人」ということわざがあるように、親類に頼れない2人にとって、築古アパートがきっかけで近くの他人になれたようです。

特に都心は近所付き合いがなく、隣にどんな人が住んでいるかわかりませんし、人は見かけだけでは判断できないことも多々あります。

働き方が多様化し、在宅勤務ができるようになり、オンラインで商談等がすすめば、ますます人と人のつながりが気薄になる可能性があります。見かけによらず資産家であったり、見かけを気にするばかりに借金を重ねてしまったりする人もいます。

ネットでつながっているから大丈夫と家に引きこもっていることばかりでは、運動不足にもなります。ほどよく社会とのつながりをもって外に出る、対面で話すことも大切なことです。

参考資料
国税庁:令和4年分民間給与実態統計調査https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2022/pdf/000.pdf

三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
代表