目指すは「自民と野党の連立」ではない...自公過半数割れのその先にある、橋下徹の超現実的な「政策実現のビジョン」とは

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黒船なき令和の日本で、革命なき安逸の日々のなかで、激烈な政権交代は起きるのか?

しかし、いま変わらなければ――かならず日本は、沈む!

百戦錬磨の戦略家、橋下徹(55歳)。時代を見定め、歴史を洞察し、日本人の本質を透徹した先に見えた悪魔的リアリズム、それが「政権変容論」だ。橋下氏は言う。

「『政権変容』が劇的に新しいのは、自民党がどうであろうと関係なく、野党が腹を括って決断しさえすれば次の総選挙で実現できるところです」

2024年の選挙から、グレートリセットは始まるのだ。

7月19日発売の最新刊『政権変容論』(講談社刊)から、特別に内容を抜粋してお届けしていこう。

『政権変容論』連載第32回

『自公体制を突き崩す「野党間予備選挙」...その実現に「野党の世代交代」が必要不可欠な、意外な理由』より続く

首相がずっと国会に張り付いているのは野党のせい

-自公の過半数割れが実現すれば、野党の政策も国会で実現しやすくなると橋下さんは主張されています。これまでのイメージでは、公明党以外の野党が連立入りして、大臣として登用されて、となりますが、そうではない。

橋下:はい、違います。これまでも述べてきましたが、あくまでも、それぞれの野党が、与党自民党に自らの政策を個別に飲ましていくイメージです。

55年体制の古い政治を前提としてしまうと、自公が過半数割れした場合には野党だけで連立を組むか、ないしは一部の野党が自民党と連立を組むか、いずれにせよ野党が連立政権入りすることばかりが論じられますが、これからの新しい政治はそれではダメです。

というのも、これまで政権運営の実績のない野党がいきなり自民党と連立を組めば、あっという間に取り込まれて野党らしい政策が実現できなくなります。

一方で、異なる意見をまとめる技術もない野党だけで政権運営を担うと、意見がまとまらず最後は分裂という事態に陥るでしょう。

自公連立政権の罠

橋下:もちろん先に述べたドイツの政権交代のように、与党第一党と野党が連立を組む、という図もありえなくはない。ただ、それだと、ある特定の野党の主張だけが政策に反映されてしまう。それでは第二の公明党になってしまいます。

ドイツは多党による連立政権や、その連立の組み合わせ変更などに慣れているのでなんとかうまくやっていますが、日本はまだまだ政権交代はおろか政権変容にも慣れていないので、野党は連立政権に入るべきではありません。

ある意味、公明党も自民党と連立を組まなければ、自民党に飲み込まれることはなかったのではないでしょうか。それくらい、「自民党と連立を組む」ことはリスクも大きい。自分たちの政策を実現させていくためには、自民党と適度な距離感を保ち続けることが、今の野党には必要なのです。

日本の政治に多様性を持ち込むという観点からも、複数の野党が政策ごとに、直接与党と交渉していく。この方式だと、どの野党にも個別の政策を交渉し実現するチャンスが生まれます。

現在も立憲民主や維新は、いわゆる国会対策を通じて与党法案に修正をかける形で、自分たちの意見を政策に反映していこうとしています。ただし、自公が過半数を握っている間は、LGBT理解増進法にしても、旧統一教会被害者救済法にしても、自民党の法案にほんの少しの修正を加えるくらいしかできません。

このとき野党国会議員は「修正を勝ち取った!」と誇らしげに言いますが、有権者にはまったく伝わっていないのが現状です。それくらい微々たる修正なのです。

もっとダイレクトに、野党の政策そのものを自民党に丸ごと飲ませて、「あ、維新はこういう政策を実現させたのか」「立憲はこういう社会を目指しているのか」と有権者に見えるように、そして体感してもらえるようにしていかなくてはならない。

これが野党が無党派層から多くの支持を得る最良の方策だと思います。

「口先野党」の汚名返上のために

橋下:永田町で理想の政策を語り、いっときネットの中で話題になるだけではダメなのです。

加えて、野党は現状、「実行権がない=実行する責任がない」のをいいことに口先だけの批判者に陥っていますが、野党自身が実際に自分たちの政策を実現できる可能性と責任が出てくれば、与党に対する非難ばかりでは済まなくなります。

より現実的、建設的な意見を出し、自分たちが実行していかなくてはならなくなる。そういう姿を見せることで、有権者は初めて野党各党の実行力を検証することができるようになるのです。

今の口先野党のままでは、実行力=政権担当能力があるのかどうかの検証すらできないですからね。

-そうなると「与党」vs.「野党」の構図は弱まり、互いの協力姿勢が生まれていくのでは、という期待も生まれます。

橋下:そうだと思います。2012年、僕が大阪維新の代表として発表した政策提言「維新八策」には、財政・行政改革の一つとして「首相が年に100日は海外に行ける国会運営」というものを入れ込みました。僕が以前から異様に思っていたのは、一国の首相や大臣がずっと国会に張り付いていなくてはならない光景でした。

島国日本は、今よりもっと外交政策の比重を高めなくてはならないはずです。でもその日本の首相が、これほど長期間にわたり、国内の国会に張り付いていなければならないのは、野党がそれを要求するからです。

野党の要求で日本の政治は衰退する

橋下:また、大臣の仕事は国会にいることよりも、各省庁で膨大な行政実務をやることなんです。ところが国会に拘束されると、行政の仕事がまったくできなくなる。これは知事、市長も同じです。

もちろん首相や主要閣僚が国民の代表である国会議員の前に出るのは、民主主義の要請でしょう。しかし海外に行ったり、役所組織を日々動かしたりする仕事は、国会に出席している間はまったくできないのです。

ドイツの元首相・メルケルさんなども、国会に出るのは年に十数日程度だと聞きました。野党がいつでも与党になる政権交代の可能性が高い国では、野党は自分たちが与党になったときのことを考えなくてはなりません。自分たちが政権を獲ったときに、首相や大臣は当然海外に行くし、日々役所組織を動かさなければならない。国会に張り付くわけにはいかないのです。そのような事情を野党もよく理解しているので、与党に対して無茶な要求はしない。

ところが日本の野党は、与党になった経験が乏しいし、将来も与党になることの想像力が働かないので、首相や大臣の仕事がどういうものか理解しようとしない。

だから野党として首相や大臣に無茶な要求ばかりするのです。

こんな日本の政治行政では、日本が衰退するのは必至です。

「与党」と「野党」の関係を、もう少し建設的な議論ができるものに改めることができれば、政府が対外的な課題に向き合ったり、行政の仕事を行ったりする有効な時間が生まれ、国として今より生産的になるはずです。

『生産性が「あまりにも低すぎる」国会議員...その改善のために橋下徹が国会に求める、「民間なら当たり前」の「簡単すぎる規則改正」』へ続く

生産性が「あまりにも低すぎる」国会議員...その改善のために橋下徹が国会に求める、「民間なら当たり前」の「簡単すぎる規則改正」