第8回 「雇用調整助成金」不正受給企業 調査

 全国の労働局が8月31日までに公表した「雇用調整助成金」(以下、雇調金)等の不正受給件数が、2020年4月から累計1,371件に達したことがわかった。不正受給総額は445億7,472万円にのぼる。
 前回調査(2024年6月30日公表分)から2カ月で107件増加した。また、2024年1-8月累計は452件で、前年同期(443件)を9件上回り(前年同期比2.0%増)、不正受給の公表件数は高止まりしている。
 公表された不正受給件数の都道府県別は、愛知県が181件で最多だった。愛知県は東京都166件、大阪府161件を上回り、前回調査に続き都道府県別トップとなった。
 1,371件のうち、東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースに登録された1,032社の産業別は、最多はサービス業他の465社(構成比45.0%)とほぼ半数を占めた。サービス業他のうち、コロナ禍で時短営業や休業要請を受けた飲食業が143社で3割(同30.7%)を占める。
 不正受給が公表された時点までの業歴が判明した1,028社のうち、業歴10年未満が421社と4割(同40.9%)に達した。このうち、雇調金の特例措置が始まった2020年4月以降の起業は58社(同5.6%)だった。
 雇調金の不正受給は、コロナ禍で迅速な支給を目指し、手続きを簡素化した特例措置の悪用が目立ち、2023年3月の特例措置終了から1年以上を経ても発覚が相次いでいる。公表された企業は、助成金の全額返還など金銭的ペナルティはもちろん、悪質性が極めて高い場合は代表者の逮捕など刑事事件に発展するケースもある。また、根本的なコンプライアンス(法令順守)意識の欠如に起因するだけに、金融機関や取引先のクレジットリスク引き下げも避けられないだろう。

※ 本調査は、雇用調整助成金、または緊急雇用安定助成金を不正に受給したとして、各都道府県の労働局が2024年8月31日までに公表した企業を集計、分析した。前回調査は7月26日発表。

雇調金等の不正受給公表は累計1,371件

 各都道府県の労働局が公表した雇調金等の不正受給は、2024年8月31日までに1,371件に達した。支給決定が取り消された助成金は累計445億7,472万円で、1件当たり3,251万円にのぼる。
 2024年7月は60件で2カ月ぶりに60件台に乗せた。2024年1-8月の累計は452件、月平均56.5件で、前年同期の累計443件を上回っている。
 不正受給の内訳は、「雇調金」だけの受給が790件と約6割(構成比57.6%)を占めた。また、パートタイマー等の雇用保険被保険者ではない従業員の休業に支給される「緊急雇用安定助成金」のみが186件(同13.5%)、両方の受給は395件(同28.8%)だった。


愛知県が都道府県別で最多、2位の東京都との差を広げる

 地区別では、関東が512件(構成比37.3%)で最も多い。次いで、中部269件、近畿243件、九州113件、中国95件、東北56件、四国43件、北陸25件、北海道15件の順だった。 
 前回調査(2024年7月発表)からの増加率は、九州が10.7%増(102件から113件)で最も高く、東北と中部が9.8%増で続く。一方、北海道は5月以降、4カ月連続で公表が無い。
 都道府県別の最多は、愛知県の181件だった。前回調査(159件)から22件増え、2位の東京都(166件)との差を広げた。次いで、大阪府161件、神奈川県110件が続き、4都府県が100件を超えた。このほか、千葉県61件、広島県60件、福岡県52件、栃木県51件、埼玉県41件、三重県38件、京都府31件、新潟県29件、宮城県27件の順。
※ 各都道府県の労働局が公表した所在地に基づいて集計しており、本社所在地と異なる場合がある。


産業別 サービス業他が約5割、そのうち3割が飲食業

 雇調金等の不正受給が公表された1,371件のうち、TSRの企業情報データベースで分析可能な1,032社(個人企業を一部含む)を対象に、産業別と業種別で分析した。
 産業別で、最多はサービス業他の465社(構成比45.0%)だった。次いで、建設業131社(同12.6%)、製造業120社(同11.6%)の3産業が100社を超えた。以下、卸売業71社(同6.8%)、小売業70社(同6.7%)、運輸業66社(同6.3%)が続く。
 細分化した業種別は、最多が「飲食業」の143社(同13.8%)。次いで、「建設業」が131社、人材派遣や業務請負など「他のサービス業」が101社で続き、上位3業種で100社を超えた。
 このほか、旅行業や美容業など「生活関連サービス業,娯楽業」77社、経営コンサルタント業などの「学術研究,専門・技術サービス業」70社、「運輸業」66社、ソフトウェア開発などの「情報サービス・制作業」47社が続く。



 コロナ禍の営業自粛や人流抑制などで、対面型サービス業を中心に著しい影響を受けた。こうしたなかで従業員の雇用維持のため、事業規模を問わず雇調金を利用した企業は多く、事業存続と雇用の下支え効果は大きかった。
 コロナ禍での迅速な支給実現のため、手続きの簡素化に踏み切った。だが、これを逆手に取り、申請過誤だけでなく不正受給が頻発した。厚生労働省によると、各都道府県労働局の遡及調査で発覚した不正受給は、2024年6月末で3,365件、支給決定取消金額は760億4,000万円に及ぶ。
 不正受給のうち、支給決定の取消し金額を問わず悪質な事案と判断された場合、社名や代表者名等が公表される。さらに、詐欺罪で法人だけでなく代表者も刑事責任を問われる事態も発生。歴代2位の不正受給事件となった(株)水戸京成百貨店(2023年2月、受給額10億7,383万円)は2024年1月、元社長が茨城県警から詐欺容疑で逮捕されている。
 雇調金の手続き簡素化を認めた特例措置は2023年3月、終了した。だが、不正受給の公表は後を絶たない。不正受給を公表された企業は、コンプライアンス意識やコーポレートガバナンスの欠如した企業として、取引先や金融機関からの信用低下を避けられない。また、違約金と延滞金を受給金額に加えて返還する必要があり、資金面への負担も小さくない。
 雇調金等は、事業主と従業員の双方が負担する雇用保険料のうち、事業主負担分を積み立てた「雇用安定資金」を主な財源とするセーフティーネットだ。公平な制度運営には、制度を悪用した不正受給に厳しい姿勢で臨むことが必要だ。