まな板をオーディオボードにしてみた

ここ最近、ネットを騒がしている噂をご存知だろうか? 「IKEAのまな板がオーディオボードに使える」というものだ。

これまで数々のオーディオボードを目にしてきたが、いずれも流石にまな板で代用が効きそうな存在ではなかった。それでも複数の口コミに書かれている以上、オーディオボードとして使用している方が何人もいるようだ。

調べてみると、製品名は「APTITLIG(アプティートリグ)」というまな板で、値段は1,999円と、まな板としてはともかくオーディオボードとしては激安と言える。

ちょうどオーディオボードを持っていなかった。1枚導入して、確かめてみた。

3.6kgの重量級まな板はオーディオボードにしか見えない

そもそもオーディオボードは、コンポやスピーカーの下に敷くボードの事。床の振動を設置した機器に伝えず、逆に、機器の振動を床に伝えないための製品だ。そのため、振動しにくい重い製品が多く、畳など、床の剛性が低い部屋で“仮想的なしっかりした床”のように使ったりもする。

アプティートリグは1枚1,999円。前提として、これはまな板として販売されている

アプティートリグには45×36cmと45×28cmの2サイズあるが、オーディオボードとしての口コミがついているのは45×36cmの方。当然、筆者も45×36cmを選んだ。以下、アプティートリグとはこのサイズのものを指していると思って欲しい。

さて、このアプティートリグだが、実物を手に取るとデカく、そして重い。厚さは3cm、重さは3.63kgあり、「オーディオボードだよ」と紹介されればそうとしか思えないサイズ感だ。店頭に並んでいるのを見た時はホームセンターの資材コーナーかと思った。

気になる素材は、天然素材の竹を貼り合わせ、表面をオイル仕上げしているようだ。オーディオボードでは一般的に木材や石材を採用することが多く、ハイブリッド素材や強化ガラス、金属粉配合のコーティングなど様々な設計によって性能を高めることに苦心されているが、もちろんアプティートリグではそういったことは一切ない。

「適度な重みがあるので、安定感があります」「肉や野菜を切ったときに出る汁が外側の溝にたまるようになっています」「耐摩耗性に優れた天然素材で、包丁の刃を傷めず、お手入れも簡単です」「サイド部分が持ちやすく斜めにカットされているので、ひっくり返して使うときに便利です」と説明されている。

見てみると確かに、天面の縁に溝が設けられている。またIKEAのロゴがある方を前として、前面と後面がピラミッド型、側面が逆ピラミッド型の傾斜にカットされている。こうした設計が減衰特性などにどう影響するのか、専門家ではないため定かではないのだが、安定感があり多くのオーディオコンポーネントを上に載せられそうなことは確かだ。ただし耐荷重については不明なので、重量級のパワーアンプやスピーカーなどを載せる場合は注意して欲しい。

天面には溝がぐるりと一周掘られている

前面/後面と側面ではそれぞれ異なる傾斜がつけられている

アナログプレーヤーを載せたら驚きの効果が得られた

ということで、オーディオテクニカのアナログプレーヤー「AT-LP60XBT」を載せてみた。外形寸法の数値上は奥行きが少しだけ足りないが、プレーヤーの脚部が内側にあるためちょうど良く収まってくれた。ルックス的にも北欧発のIKEAのアイテムだけに、インテリアとしてうまくハマってくれている、ように思う。

脚部が天面の溝の上にちょうどきてしまうのは少し気にかかるが、ちゃんとまな板の上に収まった

普段は一般的かつあまり重さのないラックに載せているため、ちょっとした衝撃で針飛びを起こしてしまうのが気になっていたので、まずはこれの解消。そして音質的にもアップしてくれたら嬉しいのだが……果たしてどうか。

アナログプレーヤーを設置してあるラックは特にオーディオ向けではないため、振動が伝わってしまうのが悩み

とりあえず再生を開始して、耳を傾ける前に振動を与えてみる。周囲を歩いたり、プレーヤーの横にコップを置いてみたりとしてみたが、針飛びはなし。ラックの収納スペースからレコードを取り出すなどしても大丈夫で、効果があった。

ラックの脚をコンコンと多少力を入れて叩くと、さすがに針飛びが発生した。がっしりとした造りのラックに載せていれば防げることではあるが、ラックそのものを買い替えるより圧倒的に安く済むので、これはありがたい。

サウンドのチェックとして、宇多田ヒカルのベストアルバム『SCIENCE FICTION』から「道」を再生する。一聴して感じるのは、音の明瞭化だ。まな板なしの状態よりもピントが合ったような引き締め効果があり、低音のボワつきが緩和された。跳ねるようなリズムの1つ1つが一層、躍動的になる。まな板に想像以上の効果を感じている自分に驚かされる。

まな板をオーディオボードとして活用することで音質に確かな変化が生じた

アデル『25』の「Hello」は、まな板前後での変化が大きかった曲の1つだ。まな板なしではサビに入った際のアデルの歌声とバックの楽器が分離しきらず、解像度の眠たさからくるある種の浮遊感があるように思えていた。これがまな板を敷くと、バックの音色がスッキリとし、ボーカルが際立つようになった。実のところ個人的にはまな板なしが好みではあるが、好き嫌いが分かれるくらいの変化が得られるとも言える。

その他にも色々な楽曲で確かめたが、いずれも低音が締まり、SN比がアップして見通しが良くなる傾向があった。変に響きを乗せることはなく、余分だったものが引き算されて音質向上に繋がっている印象だ。

IKEAのまな板はオーディオボードとしてどうか。結論はアリだ。スピーカー用に2枚買っても3,998円だし、万が一お気に召さなかったとしてもまな板にできる。サイズ感といい、お手頃さといい、とにかく試しやすいのが良い。

なお、IKEAでは複数のまな板をラインナップしている。この他にも「NORRSJÖN(ノッルショーン)」という、オーク製で44×42cmサイズで厚さ1.6cm、質量2.1kgのものが4,999円なので、こういったものを試すのも良いかもしれない。

もちろん、IKEAのまな板以外にも、意外なものがオーディオ周りのアイテムに活用できる可能性がある。昔はスタンダードにスピーカーの下にレンガを敷いたりしていたが、久しぶりにそうした楽しみ方を思い出せた。思いも寄らないところにお宝が隠されているかもしれないと、目を光らせることを忘れないようにしたい。

何がオーディオに活用できるかわからないものだ

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