fox capture plan、フルカワユタカ×木下理樹、CONFVSEが出演 『貴ちゃんナイト vol.16』のオフィシャルレポート&セットリストを公開
fox capture plan、フルカワユタカ(DOPING PANDA)×木下理樹(ART-SCHOOL)、CONFVSEの3組が出演した、ラジオパーソナリティ・中村貴子主催のライブイベント『貴ちゃんナイト vol.16』が、8月23日(金)新代田FEVERで開催された。本記事では、同公演のオフィシャルレポートとセットリストをお届けする。
主催者自身が観たいアーティストを観たい組み合わせでブッキングしていることを公言するという、ある意味パーソナルでもあるシリーズなのに、もうライブイベントとしてゆうに10年以上の歴史を持ち、なんなら出演者発表の前からチケットが売れるという、信頼と実績の対バンイベントが『貴ちゃんナイト』である。主催は貴ちゃんことラジオパーソナリティの中村貴子で、初回は彼女の番組リスナー有志によるDJイベントだったため、Vol.16と題された今回のライブが15回目。8月23日(金)、初会場となる新代田FEVERを舞台に、今回もまた絶妙なチョイス&相性の3組が登場した。
1組目のCONFVSEは山粼聖之によるソロプロジェクト。山粼といえばDAZEの愛称でお馴染みのドラマーとしての印象が強い方が多いと思う。LOW IQ 01のバンド形態に複数参加していたり、famやThe Firewood Projectのメンバーでもあったりと、どちらかといえばパンク系の存在という彼のイメージを覆すのがこのCONFVSEだろう。マルチプレイヤーなので音源時の演奏は基本的に全て本人だが、ライブでは5人編成で厚みのあるサウンドで攻める。1曲目「Right or Wrong」からいきなりグランジを思わせる歪んだ爆音を轟かせる一方で、フレーズやメロディに目を向ければUKの色が濃いという独特なバランスのインディロックに仕上がっている。
CONFVSE
CONFVSE
爆音の中に埋もれそうで埋もれない、イノセントな響きを持った山粼ハイトーンボイスと小倉直也(Gt)によるハモリが切ないメロディによく合った「Beside」やエモ系の疾走感がいつの間にかスケールを拡大していく「Isolate」などバンドサウンド、ロックサウンドに真っ向からアプローチする彼の音楽性はおそらく自らのルーツや根源的なところでグッとくる音に忠実な造りとなっているのだろう。そのせいか、リズムに合わせて一斉に手が上がったりする盛り上がりとは一線を画し、場内の一人ひとりがじっくりと噛み締めながら内なる熱をじわじわと滾らせていく様子がよくわかる。一段階テンションを上げたパワーポップ系の「Empty Place」からザクッとした触感が心地よい「Reasons」へと繋いでライブは終了。LOW IQ 01繋がりでもある先輩・フルカワユタカと木下理樹(ART-SCHOOL)による弾き語りデュオへとバトンを繋いだ。
CONFVSE
CONFVSE
『貴ちゃんナイト』史上初の3度目の出演でもあるそのフルカワは、まず一人でステージに登場。リズミカルに小気味よくアコギをカッティングしながら弾き語った「この幸福に僕は名前をつけた」で場をしっかり温める。なお、一人で出てきた理由については、“リキ&ユタカ”と聞くとCHAGE and ASKAのような形態を想像するかもしれないが、スタイルとしてはB'zなので自分はギターに専念する、だからメイニア(DORPING PANDAファンの通称)から文句の出ないように先に(自分の見せ場を)片付けた、とのことで、この説明でいきなり爆笑を掻っ攫う。木下を呼び込んだ後もこまめにトークを挟みながらライブを進め、どんどんボールを投げかけるフルカワに対して困惑を隠さないまま受け止め、たまにふわっと返す木下、という独特の間がとにかく可笑しかった。
フルカワユタカ
木下理樹
ただ、ひとたび歌と演奏が始まれば空気は一変。どちらかといえば平易な歌い方なのに、そこへ思い切り情感とメランコリーの乗る木下の歌声でたちまち引き込んでいった。「SWAN DIVE」「OK & GO」と、淡々としつつも風景や心情をしっかり浮かび上がらせる、なんだかロードムービーみたいな歌が続く。「アッパーな曲を」と紹介された「Just Kids」ではフルカワの抑揚をつけたギタープレイがエモーションを増幅させ、「14souls」ではハモリやボーカルの掛け合いも交えた軽快な演奏を展開していく。「俺はお前(木下)さえ笑ってくれればいいと思って喋ってる。お前にはわらっててほしいよ」(フルカワ)という、前後の流れを省けば極めて感動的なMCが拍手喝采を巻き起こしたところで、ラストは「2人の友達の曲」としてフジファブリックの「バウムクーヘン」。ちょっぴり切ない余韻を残してステージを後にした。
木下理樹、フルカワユタカ
木下理樹、フルカワユタカ
トリを飾ったのはfox capture plan。『貴ちゃんナイト』の長い歴史の中で初のインストバンドである。ただ彼らの場合、インストといってもアンビエントやエレクトロ系のゆらゆら身を委ねる音楽では全くない。すさまじいほどの手数やガンガン展開して起承転結を生み出していく曲調は歌もの以上に雄弁であり、編成としてはジャズトリオ・スタイルではあるものの、フュージョン、ポストロック、プログレといった要素も内包したミクスチャーサウンドはとにかくエキサイティング。三位一体の流動的なグルーヴ感に“ずっとソロ”みたいな岸本亮(Pf)のピアノが映える「RISING」や、個々のアブストラクトな演奏がいつの間にか噛み合っていき、井上司(Dr)の叩き出すリズムを中心に人力2STEPとでも呼びたいアッパーな音像を形作る「Butterfly Effect」あたりでフロアのボルテージを瞬く間に上げきり、踊りまくる観客の姿も一人や二人ではない。スペクタクルな演奏を終えた岸本、得意げにガッツポーズ。
fox capture plan
fox capture plan
fox capture plan
そんな岸本は中学生から中村貴子がパーソナリティを務めるラジオリスナーであったそうで、MCでは当時の番組の思い出やそれに付随した母親とのやりとりなども嬉しそうに語っていた。そこから「クールダウンしていただけたら」と披露した「Time to think」では、カワイヒデヒロ(Ba)によるアップライトベースのボウイング奏法も見せ場。さらにフル尺をライブで披露するのは初だというロック色が強めでヘヴィな「Deep Inside」、起承転結どころか起・転・転・転!みたいな奇想天外な構成を一糸乱れぬ演奏で乗りこなして喝采を集めた「NEW ERA」へと繋ぎ、あっという間にクライマックスへ到達。最後はこちらもライブ初披露だという最新バージョンの「疾走する閃光(2024 NEW TAKE)」でダイナミックかつスピード感たっぷりに締め括ったのだった。
fox capture plan
アンコールではまず岸本とフルカワが登場して、しばし奔放にトーク。この組み合わせもまた気の置けない間柄であることがよくわかった。山粼とfox capture planメンバーも個々に交流があるようで、3組ともに顔見知り以上であるというのはこの『貴ちゃんナイト』ではレアケース。ということも作用してのことだろう、この日の会場内には過去にも増して和やかでフレンドリーな空気が充満していた。そんな一日の終わりに相応しく、アンコールはまずリキ&ユタカに岸本と山粼が加わった編成でスピッツ「スパイダー」をカバー。チャゲアスと見せかけてB'zだったはずの2人だが、最終的に往年のフォークデュオみたいにがっつりツインボーカルしている。そしてラスト、華やかに爽やかに歌い届けたのはフルカワ、岸本、井上の組み合わせによる大瀧詠一「君は天然色」。なお、岸本のボーカルという珍しい一幕で大いに沸いたことも記しておきたい。
『貴ちゃんナイト vol.16』アンコール
『貴ちゃんナイト vol.16』アンコール
『貴ちゃんナイト vol.16』アンコール
『貴ちゃんナイト vol.16』アンコール
普段やっているジャンルが違っても、世代が違っても、歌があってもなくても、音楽は一発で人と人とを繋ぐ。アーティスト同士はもちろん、ステージの上と下も、ラジオの向こうとこちら側もそう。そういう出会いこそが日々をより輝かせ豊かにすることを、『貴ちゃんナイト』は今年もまた再確認させてくれたのだった。
文=風間大洋
撮影=俵 和彦