MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』ゲスト:ドレスコーズ・志磨遼平 撮影=森好弘

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MOROHAアフロの『逢いたい、相対。』第四十五回目のゲストは、ドレスコーズの志磨遼平。この二組といえば、神戸VARITの20周年をMOROHAとドレスコーズで祝うべく、7月30日(火)に2マンライブ『「諸刃X怒麗姿構図」-KOBE LIVEACT BAR VARIT. 20th Anniversary-』を終えたばかり。異色の組み合わせに双方のファンは大いに盛り上がったが、実は以前からアフロと志磨はお酒を酌み交わす関係だったという。そんな二人が下北沢の古着屋「human vintage」に繰り出し、お互いのどんなところに惹かれあっているのかを語り合う。他にも「大人とは何か?」「何のために音楽をやっているか」など、両者の価値観についても知れる読み応え抜群の回となった。

自分が楽しそうにしてるのが一番の正解だなと行き着いた

アフロ:普段は「対バンをする前に記事を出してチケットを売ろう」という狙いも込みで対談することが多いんですけど、今回は既にライブを終えていて。

志磨遼平(以下、志磨):そうね、先日はありがとうございました。

アフロ:ライブは終わったけど、今回は志磨さんと対談したかった。というのも、そこまでファンの皆さんに伝わっていないけど、俺らは頻繁に飲みに行く間柄でね。

志磨:そうそう。僕、ミュージシャンの友達って珍しいんですよ。

アフロ:そうなの?

志磨:ほとんどいないね。やっぱり、アフちゃんの人柄は独特ですよ。滅多にミュージシャンと親しくならない僕が親しくなったということは、アフちゃん自身がミュージシャンらしくないんでしょうね。

アフロ:逆に、ミュージシャンらしさってなんでしょうね?

志磨:楽器の話をするとか、あとは「俺、〇〇さんと仲良いんだよね」「この前、〇〇さんのイベントに行ったんだ」みたいな話題で盛り上がるとかかな。アフちゃんはそういう話をしないでしょ?

アフロ:そんな業界人みたいなミュージシャンはヤバいですね。

志磨:いっぱいいるでしょ。「なんたらのパーティに行ったら、〇〇さんもいてさ」って。僕はそういう場に行かないから、あくまで想像だけどね。そんな業界っぽい場所に行く人とは親しくならない。

アフロ:前に、志磨さんが「仲良くなる人には共通点がある」と俺に言ってくれたの覚えてます?

志磨:なんて言ったんだろう? 僕の人見知りを無理やりこじ開けて踏み込んでくる人? 違う?

アフロ:その時は違う答えだったんですよ。それに志磨さんに対して、人見知りをする印象が全然ないですね。

志磨:うん、人見知りに見えないようなテクニックを持ちえた人見知りだから。

アフロ:ハハハ、具体的なテクニックはあるの?

志磨:「あ、こんにちは!」と和かに話して、なんなら会話も盛り上がって、「じゃ、また!」と言って別れた後に「はぁ、疲れた」となる。その人が嫌いとかじゃなくて、緊張しちゃうの。

アフロ:それも人見知りなのか。それができたら十分だな、と思っちゃいますけどね。でも、いきなり心を開ける人はガシガシ開けていくのかな?

志磨:アフちゃんはそう見えるけど、実際はそうでもない?

アフロ:いや、最近はそうっすね。多分ね、どうでも良くなってきたのかもしれない。

志磨:ああ、それは良いな。細かいことが気にならなくなるのは、歳をとることのメリットの一つと言いますよね。

アフロ、志磨遼平

アフロ:最近はね、ダジャレを言うようになってきたんですよ。相手がどう思うかよりも、自分の機嫌の方が大事になってきてるんですよね。

志磨:なるほどね、自分の機嫌をとってるわけか。

アフロ:そうなんですよ。カラオケに行っても、みんなが知っているかどうかに関係なく、自分の好きなバンドのアルバム曲を歌っちゃう。

志磨:周りのウケを気にせずね。

アフロ:むしろ若い子の方が、その場にいる面子の世代に合わせた懐メロを歌っていて。その気遣いが透けて見えるようになってきちゃった。「こっちに合わせてくれているんだな、優しいな」って。それはそれで無理をさせている気がして、居心地が悪くなっちゃう。そんな経験を経て、自分が楽しそうにしてるのが一番の正解だなと行き着いたからこそ、ダジャレを言うようになったのかなって。

志磨:機嫌の良い人が、一緒にいて一番居心地が良いからね。

アフロ:それで言うと、若い頃は見た目をすごく気にしていたんですけど、自分の外見って自分は見えないじゃないですか。そう思い始めたら、どうでも良いんじゃないかなって。いや、その先の話をし始めたら、そんなことはないんですけど。

志磨:もちろん、こういう仕事だから外見も大事だけどね。でも、普段の生活をする分には、今さら気にしなくたって良いんだよね。

アフロ:本当は彼女なり親なりに素敵なものを買ってあげたら、それをずっと見ていられる。そう思ったら、自分よりも誰かにお金をかけた方が有意義かもしれない。

30代、40代になると、周りに指摘してくれる人がいなくなる

アフロ、志磨遼平

志磨:それに似た話をこの前、教えてくれたよね。アフちゃんが久しぶりにご実家に帰ったら、お姉ちゃんに「高そうな靴を履いてるね。まだ、あんたは自分にお金をかけてるんだね」と言われた話。なんとも耳の痛い話だ。

アフロ:強烈ですよね。

志磨:今度、僕の自叙伝(『ぼくだけはブルー』)が出るんですけど、その装丁をずっと憧れていたブックデザイナーさん(羽良多平吉)に頼んだら、オッケーをもらえて。もう70代後半の大御所デザイナーでね。「君の好きなものとか影響を受けたものとか、何でも良いからスマートフォンで撮って送ってくれ」と言われたから、好きな本やレコードなんかを10枚くらい撮って送ったの。そしたら「話がある」って連絡がきて、居酒屋に呼び出されてさ。そこで言われたのが「あの写真はなんだね!? 40代にもなって、アレはないだろ」って。

アフロ:え、どういうことですか?

志磨:「キミには客観性ってものがないのか? 大人っていうのは客観性を持ってなきゃいけないんだ。主観でしか物事を見れないのは子供だよ。キミは40になるまで何をしてきたんだ」と言われた。

アフロ:ハハハ! ボロクソに言われてるじゃない。

志磨:久しぶりにボコボコに言われてさ。「うわあ、僕はまだ大人にすらなれてないのか」と猛反省したんだけど、アフちゃんのお姉ちゃんの話も似てるなと思ったんだよ。「まだ自分に金をかけてんの?」って。それを人にかけれるようになったら大人だよね。

アフロ:「この人に本のデザインをしてほしい」と思うくらいの方だから、つまり信用している大人に言われたってことですよね? その後、何かを変えようとか変わったことはあるんですか?

志磨:単純に、お気に入りのレコード紹介みたいなことかなと思って送ったんだけど「そういうことじゃないのね」とようやく理解して。そもそもレコード紹介と思う時点で、思考が子供なんだろうな。求められてたのはそれじゃないのに。

アフロ:受け取り方から無邪気すぎたんだ。

志磨:それで、自分のカメラロールに入ってる写真の中から、これが本の装丁に合うんじゃないかと思う写真をダーッと送ったら「そうです、そういうことですよ」って言ってもらえた。

アフロ:そうやって石を投げてくれる人は良いですね。

志磨:本当にそう。若い頃は良くも悪くも周りからギャンギャン言われたけど、30代、40代になると、周りにズバッと指摘してくれる人がどんどんいなくなる。特にこういう仕事だから、みんなチヤホヤしてくれるしさ。このまま年を取るのは危険な気がするよ。自分がおかしい時に、ちゃんと指摘して怒ってくれる人がいるのはありがたいよね。アフちゃんは最近怒られたことはある?

アフロ:怒ってくれる人とはちょっと違いますけど、人と関わることで自分ひとりではしなかった経験をするじゃないですか。まさに、俺が今着てる服もそうですけど。

志磨:そうそう。アフちゃんは僕だけじゃなく、ドレスコーズのチーム全員にとても良くしてくれるから。僕らのスタイリストの田浦幸司くんとも、アフちゃんはすっかりマブになってね。そんな背景もあり、今日は二人とも田浦くんにスタイリングをしてもらっているのです。

アフロ:これも志磨さんと知り合わなかったら、絶対になかったことだから。なんなら、20代前半だったら「バンドマンがスタイリングをしてもらう? 自分で決めるのがバンドマンだろ」みたいに思っていたでしょ? でもさ、やっぱり人との繋がりの上で我々は成り立っているよね。

ずっと「もっと自然な声が出ないかな」って、探している最中

アフロ、志磨遼平 スタイリスト=田浦幸司

志磨:本当にそう思います。僕とアフちゃんが20代で出会っていたら、仲良くなっていたかね?

アフロ:なっていたんじゃないですか。志磨さんだって、だいぶ変わったでしょ? 昔はお互いに尖りモードだったから、その時はその時でチャンネルが合っていたんじゃないですかね。1回どっちかがライブをちゃんと観て、機嫌良さげに「ライブ良かったよ」と言ったら、恥ずかしい話だけど「俺の音楽が良いっていう奴は良い奴だ」と思うじゃないですか。

志磨:うんうん。僕は「僕を褒めてくれる人」が昔から大好きだから。

アフロ:そこで変なボタンの掛け違いがなければ仲良くなっていたと思うんですけど、どうだったんでしょうね?

志磨:この前、対バンした時もMCで話したけど、僕らは10年以上前からお互いのことを知っていながら、ちゃんと話したことがなかったんですよね。

アフロ:そういえば、2010年に仙台のイベント『MEGA☆ROCKS』で、 俺らがHMV仙台一番町でライブをしていたら、志磨さんが入り口の近くで観ていてくれて。

志磨:「MOROHAってのがヤバいらしい」と聞きつけて観に行ったんだ。そこで「奮い立つCDショップにて」をまさにCDショップで聴いて、すごい人たちがいるな、と思った。あの日のことはよく覚えています。

アフロ:「すごい人たちがいるな」は志磨さんの心の声じゃないですか? もちろん俺には聞こえてないわけですよ。だから、あの時に志磨さんがどう思ったのかは、ちゃんと喋るまで知らないままだったんです。俺は歌いながら志磨さんが見えていたから、めちゃくちゃ意識していた。でも、ライブが終わった後に感想を聞けるわけでもないので、どうだったんだろうなと思って。

志磨:僕、その時にMOROHAのCDを買った気がするんだよな。仙台から帰る車の中で、メンバーみんなでそのCDを聴いた覚えがある。

アフロ:それは激アツじゃないですか!

志磨:アレって、ROSE RECORDSからリリースする前?

アフロ:いや、ROSEの時代ですね。

志磨:そうか。「MOROHAってのを観てきたんだけど、すごかったんだ」と言って、帰りの車でみんなに聴かせたんだよ。

アフロ:その話を当時の俺に聞かせたかったな。分かんなかったもん、あの時は。毛皮のマリーズ(※志磨を中心に結成されたバンドで、2003年から2011年末まで活動していた)は大きいステージだったでしょ? 「なんで俺たちだけ無料で観れるステージなんだろう」と思って、沸々としていたんだよな。そのクセ認めてもらいたい気持ちもあるし、同時に「ふざけんな、ぶっ飛ばしてやる」って思いが混在していた。

志磨:あとMOROHAで覚えているのが、何年も前の大晦日。年越し蕎麦のつもりで新宿ゴールデン街の「ラーメン凪」に入ったら、年の瀬にひとりぼっちのおじさんだらけの店内でずっとMOROHAが大音量で流れていた。みんな黙ってそれを聴きながら、うつむいてラーメンをすすってるわけ。「俺たち、こんな人生で良いのかなぁ……」という無言の空気がおじさん達の間に流れていた記憶があるね。

アフロ:ハハハ! 歩み寄って来る哀愁がありますね。

アフロ

志磨:すごいよね、アフちゃんの声は。

アフロ:俺、自分はピカチュウみたいな声をしてると思っていて。初めて自分の歌を聴いた時に、理想と違いすぎてガッカリしたんですよ。志磨さんはどうでした?

志磨:最初はビックリしたね。小学生の頃に初めてマイクを通した自分の声を聴いたんだけど、思っていたよりも3オクターブくらい高くて。「これ、誰の声?」という感じ。その後、バンドで歌いはじめたばかりの頃、年上のバンドの先輩に「おぼこい声やなぁ」って笑われたの。「おぼこい」は関西弁で「ガキくさい」とか「小便臭い」って意味だね。「お前、そんなおぼこい声でボーカルは向いてへんわ!」って。その言葉をずっと引きずったまま、今に至るね。

アフロ:でもさ、もうそれを解消できる実績があるでしょ? 今も引きずっているということは、もう記憶から離れて行こうとしてるのに、それを自ら掴んでそばに置いているんじゃないですか?

志磨:あぁ、そうかもしれないね。それをどうにか生かすしかない、という方向に舵を切ったのかもしれない。元々好きだったのか、すがりたかったのか、今となっては分からないけれど(忌野)清志郎さんの歌なんかをお手本にするようになった。あの人も子供っぽい声をしているから「こういうふうにやれば良いんだ」と心の支えにしていたかな。

アフロ:志磨さんは誰の声が羨ましいですか?

志磨:ハナレグミの永積崇さんとかさ、あんなふうに歌ってみたいよね。僕は自分の作る曲が好きなんですけど、この声じゃなかったらもっと評価されるんじゃないかと思うよ。もし他の人が歌ったならとんでもないヒット曲なんじゃないか、とかね。アフちゃんのスタイルはさ、自分で編み出したものなの?

アフロ:俺はDragon AshとかRIP SLYME、ORANGE RANGEを通ってきた世代なんですね。自分もそういうのがやりたかったんですけど、途中でアンダーグラウンドのカルチャーが侵入してきて。住んでいる地域にもよると思うんですけど、なんとなく「メジャーな音楽を聴いているのはダサい」みたいなところに差し掛かったタイミングで、音楽にのめり込んで行き、自分も病んでいる感じの歌詞を書き始めた。その病んでいる感じも、それはそれでファッションだったりして。

志磨:既に誰かがやっているスタイルに、その頃は憧れていたわけだ。

アフロ:一通りやってみたんです。アゲアゲなラップもやって、「俺が一番病んでいてひとりぼっちで孤独で……」みたいなのも、いろんな幅のラップをやった結果、どっちも違うと思って。この違和感はなんだろう、と考えた時に「俺、一つも本当のことを書いてない」と気づいた。「自分の思ったことを書く」という当たり前にたどり着くまで、すごく時間がかかりましたね。それは1個大きな気づきだったな。

志磨遼平

志磨:その発声についてはどう?

アフロ:未だにコンプレックスですね。

志磨:モデルがいるとかでなく?

アフロ:いないですね。

志磨:初めからそのスタイルなんだ。

アフロ:そうなんですよ。

志磨:それはすごいね。

アフロ:大きい声を出そうと思うと、こうなっちゃうんですよ。だから発声という概念を抱いたことがないですね。志磨さんは清志郎さんとか、特異な声で歌われている人たちの歌を聴いて「これで自分も居場所を作れるかもしれないな」と思えたわけでしょ。それもすごいと思うんですよ。大体は歪さを削る方向に行くじゃないですか。

志磨:もちろん、僕も一通り試した。声をガラガラに枯らして歌ったり、逆に自分の癖をもっと誇張してみたり。で、そうやって試しているうちに元の声が分からなくなったの。「普通に歌って」と言われても、どんな声だったか思い出せなくてさ。子供の頃はどうやって歌っていたんだろうって。それをずっと思い出そうとしてるところかも。

アフロ:今も探してる途中?

志磨:うん。普通に声を出したら、どんな声なんだろうと思って。毛皮のマリーズの時は、今よりもっとおかしな発声なんだけど、それも自分の中では自然な発声だと思ってた。それからずっと「もっと自然な声が出ないかな」って、探している最中。

アフロ:知らぬ間にフォームを崩したから、一生懸命直そうとしているんだ。

志磨:そうそう! その表現がズバリだね。

アフロ:面白いね。確かにずっと歌っていると「素直に歌った時はどうなるんだろう?」と考えたら、今の形じゃないような気もするな。

志磨:どうすれば自然に歌えるのかなと思ってさ、柄じゃないけどボイトレにも1ヶ月だけ通ってみたの。そこの先生が面白いことを言っていたんだよ。「赤ちゃんはギャー! って一日中泣き叫んでるけど、全く声が枯れないでしょ」と。一日中大声で泣き叫んでも、それが自然な発声だったら人間の声は枯れないんだって。それを無理にやろうとするから、声が枯れるらしい。

アフロ:赤ちゃんはエンタメじゃないからだ。逆に、俺たちはエンタメの奴隷だから声が枯れる。

志磨:わはは。ちょっとでもよく聴かせようと。

アフロ:あるいは、ちょっとでも盛り上げようとして。

志磨:まあ、言われてみればそうかと思って。だからね、人はみんな一度はフォームを崩しているんですよ。

アフロ:声が枯れるのには理由があるんだ。今「エンタメ」を否定的なニュアンスで言っちゃったけど、俺は赤ちゃんの泣き声で心が震えたことはない。つまり情緒みたいなものを出そうとした結果、摩耗して声が枯れるのかもしれないですね。

志磨:「言いたいけど言えない」とかさ、そういう大人の感情は赤ちゃんにはないわけですからね。本心とまるで逆のことを言っている時の声とかさ。

アフロ:良いこと言うわ! そうなんだよね。

志磨:悲しいけど明るく振る舞っている声とかね。大人にはいろいろあるから。

アフロ:そうだね。ゆえに自分も摩耗している。そう思うと、枯れた声が愛しくなってきますね。

志磨:つまり無理してるんですよ、我々は。

アフロ:こういうふうに一つの話題でこねくり回して言葉で遊べるから、志磨さんと話すの楽しいのよ。何かしらポジティブな方向に考えられないものか、とか。

志磨:二人でいるとずっと喋ってるもんね。

僕は喜怒哀楽の「怒」だけが欠けているんです

志磨遼平

アフロ:さっき話していた、志磨さんが仲良くなる人の共通点なんですけど、俺が聞いたのは「飲食店であんまり大きい声で喋らない人」って言ったの。

志磨:ああ、それは本当にそう! 人の大声が苦手なんですよ。でも、飲食店では大体みんな声が大きくなるから、盛り場みたいな店には極力入りたくない。だから静かそうな店をいつも選んで入るの。

アフロ:あそこは治安が良いですよね。

志磨:みんなが大声で楽しんでいるお店は、長く居られないんですよね。

アフロ:「どんなタイプが好きですか?」と聞かれた時、いつも答えに困るじゃないですか。「飲めば飲むほど、声が小さくなる子」は良いかもしれないですね。

志磨:良いかもしれない。

アフロ:ちなみに志磨さんの好きなタイプは? というか見た目は大事ですか?

志磨:僕は目が悪い上に人見知りだから、どんな顔だかわかんないままずっと喋ってるなんてこともざらなんですよ。ずっと相手の肩とかを見て喋るの。なので女の人でも男の人でも、顔の評価はめちゃくちゃ後だね。

アフロ:のちに「こんな顔してたんだ」という。

志磨:そうそう。「あ、初めて顔を見た」って。失礼だから口にはしないけどね。

アフロ:目が悪いのも大きな要因?

志磨:そうね。でも、はっきり見えないぐらいの方が良いかな。ぼんやりで良いと思っているから、ライブの時もコンタクトを付けない。だから顔を知るのは結構後ですね。

アフロ:ちょっとずつ輪郭が見えてくるんですね。

志磨:うん、会うたびになるほどなって。

アフロ:逆に言えば、顔以外の要素が明確に入ってくるわけですよね?

志磨:「良い声だな」「話が合うな」とかね。

アフロ:ところで、志磨さんは何を言われたら怒るんですか? というのも、俺が初めてちゃんと喋った日、徐々にお互いの空気がほぐれていって、帰りがけに無礼なことを言ってしまったなと思って反省したことがあるんです。

志磨:え? そんなことあった?

アフロ:「こんなに人の話を丁寧に聞けて、相手の気持ちを思いやれる人が、なんでバンドだとあんなに紆余曲折するんですか?」と言ったと思うんですよね。

志磨:そんなことくらいで怒んないよ。そもそも何を言われたって、ほとんど怒らない。僕は喜怒哀楽の「怒」だけがめちゃくちゃ欠けているんです。以前、お友達で物書きの吉田棒一さんが「機嫌が良いとか悪いとかじゃなくて、機嫌がないのが一番良い」と言っていて、それにすごく共感したんだけど。「この人、今日はすごく上機嫌だな」というのもまた怖いじゃないですか。アップダウンがある人よりも、ずーっと同じテンションの人といる方が安心できるし、僕もそうでありたい、と昔から思っていて。小さい頃から人に怒ったりもしないし、悲しいことがあっても伝えない。

アフロ:自分は平気なんですか?

志磨:削られているかもしれないよね。その場は平気なふりをすると思うけど。

アフロ:そんな中、ライブは情緒を出すじゃないですか?

志磨:うんうん、そうね。

アフロ:それこそ初めて2マンをさせてもらった日、出番前ってどんな感じなんだろうと気になっていたんです。本番10分前くらいから、スタッフの人も自分の周りに近づけないようにして、気持ちを作るのかなと思ったんですけど、意外にずっと平常心な感じに見えた。普通に話しかけても大丈夫そうだなと。なんならステージに上がる10秒前くらいまで、自然にしていましたよね。

志磨:うん。出番のギリギリまで、至って普通。こんな感じ。

アフロ:昔からですか?

志磨:そうだね。急にどこかでスイッチが入る、とかもないな。「メイクをしたらスイッチが入ります」とか「音楽が鳴った途端、感情が抑えられなくなるんです」とか言う人もいるけど、僕はそういうタイプではない。

アフロ:志磨さんのやってることってさ、ファンタジーの要素も多いにあるじゃん。曲とか歌詞だってそう。だけどリアリストなところもあるでしょ? そこが不思議だよね。

良い人だからプロになれたんだと思う

アフロ

志磨:僕も未だに不思議。おっしゃる通りで、やってることは現実離れしてるんですけどね。

アフロ:でも、自分の現実離れはあまり信じてないですよね。

志磨:うん。自分の一番居心地が良い状態があのステージの感じなんだろうね。普通のお勤めは、僕にはおそらく居心地が悪い。「自分にできることで人が喜んでくれそうなこと」を考えた結果が、こういうことだった、という感じ。そう考えると……どうやら僕は、人のために音楽をやってるっぽいね。自分が喜ぶためじゃないな。何かせめて人の役に立ちたいなと思って、歌ったり踊ったりしている気がする。アフちゃんはさ、人のために音楽をやっていますか? それとも自分のためにやっていますか?

アフロ:誰のためっていうのは分からないけど、詞を書くこととかラップをすることとか、ステージに立つことは求愛でしかない。「音楽が好きか?」と言われると、最近はより分からなくなっていて。でも、それをやっていたおかげで会えた人たちがたくさんいるし、俺の人間性みたいなものを分かってもらう手段の一つになっている。幸いなことに、この仕事をしているといろんな人に会えるじゃないですか。だから一番好きかもしれないですね。関わらずにいられないし、関わった結果を自分で残せる。頑張れば頑張るほど、自分も頑張っている人と知り合える。それって、すごいことですよね。

志磨:本当にそう思うね。インディー時代に「メジャーデビューなんかしても、悪い大人が寄ってきて食い物にされるだけだ」みたいなことを言う人がいるじゃない。今になって思えば、そう言ってた人の方が悪い奴だったからね。デビューしてから会う人は、みんな良い人ばっかり。良い人だからプロになれたんだと思う。悪いことを考えたり悪いことをしたりする人は、やっぱりプロにはなれないよ。

アフロ:そうなんだよな。最近、自分の目標とか何を指針にしていくかを考えた時に、いかに仕事に一生懸命で、広い意味での才能がある人と同じ空気を吸えるかっていう。同時に、ズルくて歪んだ人たちと一緒にいない時間を作れるか。それを指針にしていれば、会った人に影響されて振り回されることで、自ずと新しい自分がやってくるんじゃないかなって。

志磨:そうかも。頑張って自分を変える努力をする必要はないんだ。

アフロ:出会った人に影響を受けながら、曲を書いていけば良いかなって。でも、良い人間になりたいわけではないじゃないですか。

志磨:そうそう、おっしゃる通り。

アフロ:難しいですよね。世直しがしたいわけでもないし、良い人間になりたくないわけでもないけど、それが第1目標ではないから。モノ作りをしている人は、どこかで意地悪な目線を持っていないと気づけないこともある。でも、それも優しさで代用できる気がするよね。

志磨:すごく優しい人は、良い人なんかね? どうなんだろう? それが人間の理想形かと言われたら、そうでもない気がしていて。例えば作品にしてもどこか欠落している方が、自分は愛着が湧く。今まで自分の好きなものは、だいたいそうだったから。人間もやっぱそうで、どこか欠けてる人の方が、僕は良いなと思っていて。それは自分にも当てはまるだろうね。あんまり完璧なものを目指してはいないと思う、自分自身も。

アフロ:「最終的に人間はみんなひとりだ」という考えってあります?

志磨:想像もしたくないような形のひとりは、怖いけどありそうよね。普通に病院で老後を過ごすとかさ、いわゆる孤独死とかさ。それは僕らが今まで知っているひとりとは違うもんね。僕はひとりには慣れているけど、最終的にはどうなんでしょうね? 誰かといたいと思うかな?

アフロ:割と俺が友達になれる人は、それこそ志磨さんもそうだけど「そこにいる人みんなが喋ってる状況が理想」と思っている気がするんです。誰の独壇場も望んでいない。仮にそれを見ても「色んな人がいるな」と独り腑に落ちている。それが出来る人って独りが上手なんですよね。どこかで独りになる準備が常にできていて、独りでいられるから、躊躇わず皆に埋もれることが出来る。

志磨:あぁ、やっぱりアフちゃんは面白いね。

アフロ:ある意味、音楽ってそういうことなのかなと思う。みんなで聴くとか、みんなで楽しむ側面は確かにある。最近はそれがフィーチャーされ過ぎているけど、やっぱりどこまで行ってもひとりになる準備に向かっているんじゃないかな、って気がするんですよね。

志磨:つまり、それが客観性だよね。「自分はこうなんだ」「僕にはこう見えるんだ」という主観だけじゃなくて「これをそっちから見ると、どう見えているんですか? 教えてもらって良いですか?」というね。

アフロ:それを志磨さんにもすごく感じるんですよね。「志磨さんの音楽は、ちゃんと人間が作っている感じがする」と言ったことがありますけど、それを言い換えると儚いってことかも。

志磨:そう言ってもらえると、そうですね。ひとりになりたいとは別で「どうせひとりになる」と思っていないと、いざなった時にキツいから、常にひとりになる準備はしている。……いや、あくまで心持ちの話であって、今後の活動の話じゃないよ? こういうことを言うと、すぐに「何かあんのか」と思われるけど。

アフロ:ハハハ、一度バンドを解散してる過去があるからね。

志磨:そうだよ。ソロアルバムの準備をしてるとか、そういうことじゃなくてね。あくまで一人間としての話。

ドレスコーズにはアイドル性もあるけど、そこに甘えないんだなと思った

アフロ、志磨遼平

アフロ:改めて先日のライブを振り返ると、良い一日でしたね。

志磨:うん、良い一日でしたね。

アフロ:フロアからすごく抑えめな声で「志磨さーん」「ロックンロール」って声が上がったじゃない? アレがすごく良いなと思ったの。ちょっと照れくさいというか、勇気を出して言ってるのが透けて見えて、そこに愛おしさも感じた。あの照れ感で声を出して、ちょっと浮いてしまう時もあるじゃない?

志磨:周りのお客さんが「ライブ中はあまり声を上げない方が良いんじゃない……?」とか、いらない心配をしかねないよね。

アフロ:それを志磨さんが「……違うな。ロックンロールっていうのは、もっと大きな声で言うんだよ」と言ったことで、ちゃんと教育の場になったというか。

志磨:ああいう、その場を咄嗟に上手くまとめる技術は、バンドを長く続けていると上達するよね。優しさとも言うし、機転とも言うのかな?

アフロ:機転もそうだし、優しさと意地悪さの両方じゃないですか。

志磨:ははは。聞き逃さないぞ、ってことだもんね。

アフロ:「そうじゃないんだぜ」という意地悪さと、「こうしたら良くなるんだ」という優しさから来てるのが良かったですね。ドレスコーズにはアイドル性もあるけど、そこに甘えないんだなと思った。お客の好奇心を留まらせないというか。

志磨:そうね。お客さんとズルズルベッタリ、なかよしこよし、みたいなのは昔から得意じゃないから。でも、お客さんもそういう人が多い気がするし、それこそひとりが得意な人が多い気がしますね。

アフロ:あの日、「勝ちに行くセットリストを組んだ」と言ったじゃないですか。アレがすごく嬉しかったんですよね。

志磨:そうそう。アフちゃんに「今日のセットリストはどういうテーマ?」って聞かれたから、「いや、MOROHAに勝ちに行くセットリストだよ」ってね。

アフロ:俺もドレスコーズに向けていたしね。

志磨:ところでさ、アレはいつも作ってるの? アフちゃん直筆のMOROHAのセットリストが僕らの楽屋に置いてあったじゃん。1曲ずつに「これは志磨さんにも話したエピソードから生まれた曲です」とか、ビッシリ解説が書いてあるやつ。あんなの初めてもらったからビックリした。そういうことをしてくれた人は初めて。

アフロ:俺も初めてやったんですよ。

志磨:初めてだったの? 嬉しくて記念に持って帰ったもん。

アフロ:これからやっていこうかなと思いましたね。それと、あの日のMCで俺が志磨さんの衣装を「パジャマ」と言ってしまってね。

志磨:その罪滅ぼしとして、今日対談に呼んでくれたのか。

アフロ:アッハハハ! 罪滅ぼしではないんですけど……すっごい客席がウケたんですよね。

志磨:ということは、共感の笑いじゃん。みんな思ってたってことじゃん。

アフロ:いやいやいや! カート・コバーンが、パジャマっぽい服を着てライブをやるカルチャーがあったじゃない? カッコ良い前提があって言ったんだけど、もしお客さんがそこに同じ意識がなかったとしたら、ちょっと響き方が変わってくる。

志磨:まあ、そうだね。

アフロ:そういうことを考える時に「ちょっと言葉選びが違ったのかな」って思う。それこそさ、この前飲んだ時に志磨さんがMOROHAのTシャツを着てくれていたじゃないですか。俺が一言目に「似合わねえな!」と言ったじゃない? 帰り道にあんなこと言っちゃいけなかったよな、と思って。でもね、アレは照れ隠しだったの。

志磨:ふふ、もちろんわかってるよ。

アフロ:そういうところがあるんですよ。どうしても何かを刻みたくなっちゃって。

志磨:僕が仲良くなる人って、そういう人なんだよ。「パジャマじゃん!」とか言ってグイグイ来てくれないと、なかなか心を開けないから。だからね、ありがたいんです。そういうふうに接してくれるとね。

アフロ:いやぁ、志磨さんの優しさに救われます。まだまだ話したいことは、たくさんあるんだけど、終了の時間が迫っているらしくて。

志磨:もっとかしこまった対談をするのかと思ってたけど、いつも会って話している時と変わらなくて面白かったです。

アフロ:最後にプロモーションみたいでアレですけど、9月24日(火)に自伝本が出るんですよね?
 
志磨:そうですね。自伝だから当然、今まで自分に起きた出来事をそのまま書いてあるんですけど、脚色のない僕の人生なんて読んでも面白いのかしら? と心配です。自分のことが一番分からないから。

アフロ:本は完成してるけど?

志磨:うん。エジソンとかナイチンゲールみたいに「こうして私は立派な偉業を成し遂げたのです」というオチがあるわけでもないしさ。もちろん、面白くなるように頑張って書いてはみましたが。

アフロ:それはそれで楽しみだな。

志磨:思っていた以上に、自分は難解な人間だということが分かりました。

アフロ:俺が志磨さんと会って3年くらいでしょ? その前のことは音楽をやってる人としては見てるけど、どんな人だったのか知らないから、それを遡って読めるのは嬉しいな。

アフロ、志磨遼平

文=真貝聡 撮影=森好弘 スタイリスト=田浦幸司