「目標が欲しかった」メイン出演作がなかった俳優の挑戦。宮田佳典、自ら映画を作ろうと思ったのは「自分たちの代表作を」

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救急看護師としての実務経験を経て、俳優になろうと決意した宮田佳典さん。

2012年に生まれ育った大阪から上京し、約5年間、さまざまなワークショップなどに参加。2017年に劇団柿喰う客に入団。2018年、「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2018」で上映され、のちに劇場公開された短編映画『ヴィニルと烏』(横田光亮監督)に出演。同年、初めて受けた朝ドラオーディションで連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)に出演し、萬平さん(長谷川博己)を支える右腕的な存在・竹ノ原大作役を演じて話題に。

映画『悪は存在しない』(濱口竜介監督)が公開中。2024年9月27日(金)には、俳優・佐野弘樹さんとともに企画から立ち上げた映画『SUPER HAPPY FOREVER』(五十嵐耕平監督)の公開が控えている。

 

◆確かな感触、目標が欲しかった

『まんぷく』の翌年、『ボイス 110緊急指令室』(日本テレビ系)に佐伯和則刑事役で出演。2021年には続編となる『ボイスII 110緊急指令室』が放送され、同役を演じた。

――『ボイス』の佐伯刑事、かなり走らされていましたね。放送上結構規制があるなかで、かなり攻めているなと思いました。

「そうですね、かなり攻めていた作品だと思います。お話をいただいてから、オリジナルの韓国版を見たのですが、非常におもしろくて一気見しました。だから日本版に参加できることはうれしかったですし、その後の続編にも参加できたことは光栄です」

――連続ドラマの出演がコンスタントに続いているイメージがありますね。

「実際はまったくそうではなく、当時はオーディションも全然受かりませんでした。でも、自分の中ではドラマや映画のメインというか、作品の中心にいるような役が欲しいという気持ちはありました。

多分『まんぷく』を撮り終えたくらいだった気がします。佐野弘樹くんとモノづくりに対して話し合ったり、企画を考えたりしているなかで、二人ともご一緒したかった五十嵐耕平さんにメールを送って。そうしたら会っていただけて!」

――佐野さんとの出会いは?

「僕の周りは自分で映画を作ろうという意欲ある友人が多く、そのなかのひとりに誘われて『48時間映画祭』(48 Hour Film Project)に参加しました。そこで初めて佐野くんと出会いました。年齢はたしか7歳ぐらいは違うんですけど、役者としての考え方がピッタリ合ったんですよね。それがきっかけで色々話すようになりました」

――デジタルなのでわりと手軽に作れるようになりましたね。

「そうですね。でも、そこをとくに意識することはなかったのですが、僕はメインでの出演作が全然なかったので、物を作ろうというスピード感が似ていた佐野くんと自分たちの代表作を作ろうと話していたのがきっかけで、今回の『SUPER HAPPY FOREVER』につながりました。

あと役者は目標が立てづらいと感じていました。たとえば商業映画に出たい、ドラマに出たいとかは受け身な目標で、オーディションを待つだけになってしまう。自分が主体となって行動できる目標が作りにくいんですよね。

映画を作るということだったら、自分たちで行動できるし、設定できる。それが大きかったかもしれないですね」

2022年、宮田さんは、舞台となった土地の地域活性化を目的とした「地域発信型映画」として製作された『この街と私』(永井和男監督)に出演。この作品は、東京都葛飾区を舞台に、テレビ番組のADとして奮闘するヒロインの成長と葛藤を描いたもの。

主人公の美希(上原実矩)は、お笑い番組が作りたいと思って業界に入ったものの、深夜の関東ローカル番組『この街と私』のADとして悪戦苦闘することに…という展開。宮田さんは、美希の先輩である中山祐樹ディレクター役を演じた。同じシーンはないが、佐野さんも美希の同棲中の恋人役で出演している。

――見るからに仕事がデキそうな先輩ディレクターでしたね。

「後輩に対してなかなか厳しい先輩でしたね。でも、ただ厳しいわけではなく、彼女が社会で生きていくために必要なことを彼なりに伝えているのではないかと思って演じました」

 

◆やりたかったコメディー作品に主演

2022年、宮田さんは、文化庁委託事業「ndjc(New Directions in Japanese Cinema):若手映画作家育成プロジェクト」で製作された短編映画4作品のうちの1作『サボテンと海底』(藤本楓監督)に主演。

宮田さんが演じた主人公・柳田佳典は、30代半ばの俳優。映画に出演するチャンスになかなか恵まれず、映画やCMの撮影前に出演者の代わりをするスタンドインの仕事をこなす日々を送っている。ある日、映画の主演オーディションのチャンスが訪れ、主演に決まるが大幅な変更が繰り返され出演シーンがほとんどなくなっていく…という展開。

「僕はコメディー作品が好きで、ずっと挑戦したいと思っていたんです。東京藝大出身の川田真理監督と映画『タクシー野郎 昇天御免』でお仕事したときの縁で藤本楓さんと知り合うことができたのですが、藤本監督が『サボテンと海底』というブラックコメディーの脚本を僕に当て書きしてくれて。主演で撮っていただきました」

――劇中のオーディションのシーンで、コミカルな表現からシリアスな表現まで色々やっているのがすごかったですね。

「あのシーンはアドリブだったので、めちゃくちゃ難しかったです。10分か15分ぐらい長回しで、ずっと皆さんに見られていたんですよ。撮影場所含めて、まるで本当のオーディションみたいな感じで勇気がいりました(笑)」

――次から次へといろんなパターンの表情をされていてすごいなと思いました。

「ありがとうございます、あれは頑張りました(笑)。台本には1行だけ書いていて、藤本さんからは、これとこれだけはやって欲しいですと言われていたんですけど、それ以外はもう自由で…。シーン通り『本当にこのシーン、フリー演技ですか』みたいな。でも、それがすごく自分の中では楽しかったですね。

僕はあとで知ったのですが、このオーディションのシーンは監督自ら手持ちカメラを回していて、笑いながら撮られていたみたいで、ブレてるんです!

撮影だから、みんな笑えないじゃないですか。自分の演技が滑っているのか受けているのかまったくわからないなか、無言のあの空気に耐えるのは至難の業でした。でも、皆さん下を向いて笑いを我慢してくれているのがなんとなく見えたときには心が救われましたね。

ndjcはずっと好きで、2015年に存在を知ってから毎年劇場に見に行っていたので、いつかは主演したいなって思っていました。

僕の前の年に佐野くんが『LONG-TERM COFFEE BREAK』(藤田直哉監督)という作品で主演していたのですが、それも彼が藤田監督に『一緒にやろう』と言って一緒にやっていたので。次の年にできたのでタイミングも良かったと思います」

――売れない俳優にようやく主演の話が来たと思ったら、どんどん話が変わっていって出番がなくなっていく…切ない展開でしたね。

「そうですね。それでもやるっていうのは、何か昔を思い出しながら…という感じがしました」

――寒いなか、プールで何度も撮り直しをさせられて風邪までひいたのに、最終的にはカットされてしまいます。

「全カットですから、つらいですよね。エンドロールの名前までなくなってしまう。でも、こういう自分の思いだけじゃうまくいかないことってあるよなっていうのは思いました。

自分が一生懸命やったとしても、この映画と同じようにカットされることってありますよね。そのときは本当に何とも言えない気持ちにはなります。

でも昔、作品のために自分がどれだけ尽くせるかを考える必要があると演技を学んでいるときに教わりました。それからは自分の良さを見せるということより、作品第一で現場に臨むように心掛けています」

『サボテンと海底』は昨年、香港国際短編映画祭でも上映されて話題に。高校時代からボクシングをはじめた宮田さんは、『あゝ、荒野 後編』(岸善幸監督)、『BLUE/ブルー』(𠮷田恵輔監督)、『ケイコ 目を澄ませて』(三宅唱監督)、『春に散る』(瀬々敬久監督)などボクシングが題材の出演作品も多い。

次回後編では、第80回ベネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員大賞)をはじめ、多くの賞を受賞した濱口竜介監督の映画『悪は存在しない』、2024年9月27日(金)に公開される映画『SUPER HAPPY FOREVER』の撮影エピソードなども紹介。(津島令子)