【中島 恵】「ヤバさは日本以上」地下鉄で69歳男性が23歳の若者に暴行…いま中国を悩ます”迷惑老人”の実態

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高齢者が暴行…SNSで大炎上する

8月上旬、中国の地下鉄の車内である「事件」が起きた。高齢者が若者をいきなり殴ったのだ。場所は山東省青島市。時間は午前7時半ごろ。地下鉄に69歳の高齢者が乗車した。日に焼けて、筋骨隆々、大柄だ。この男性の目の前に座っていたのが23歳、無職の若者の男性。

この若者に高齢者は「座席を譲れ!」と文句を言ったが、若者が譲らなかったことから、高齢者は若者の胸倉を掴み、頭を殴り出した。若者は血を流したが、周囲の乗客は見て見ぬふり。しかし、誰かが動画を撮影し、それをSNSに投稿したことから問題が表面化。警察が出動する事態になったのだ。

これに対して、SNS上では賛否両論が巻き起こった。

おおまかにいうと、一つは高齢者を擁護するもので、「若者は高齢者に席を譲るのが当たり前だ。高齢者を敬う精神はないのか。今どきの若者はまったく何を考えているのか」というもの。

もう一つは、「若者にも席に座る権利がある。席を譲るのはあくまでも善意であり、義務ではない。道徳の押しつけはやめて。それにこの高齢者はすごく元気そうじゃないか。暴力をふるうなんてひどい」というものだ。

SNSは主に若者が見ていることもあるからか、どちらかといえば、若者を擁護し、一方的に殴った高齢者を批判するコメントのほうが多かった。だが、ひと昔前の中国なら、あり得ない反応だろう。

なぜなら、一つ目の意見「若者は高齢者に席を譲るのが当たり前だ」にあったように、中国では、電車でもバスでも、どこでも、高齢者に席を譲ることは「当たり前」であり、席を譲らないことは考えられないことだからだ。

若者の価値観が変わり、“迷惑老人”化が進む

以前、中国に住んでいる日本人は、若者が高齢者に当然のごとく席を譲る光景を目にして、「こういう敬老の精神はすばらしい。日本なら、寝たふりをしたり、無視したりして、席を譲らないことも多いのに……」とよく話したものだったが、ここ数年、このように、中国で「当たり前」とされてきたことに“変化”が起きている。高齢者に席を譲らないだけでなく、高齢者にあまり優しくない人が増えてきたのだ。

要因として考えられるのは、主に若者側の事情、社会を取り巻く環境だ。若者の多くは一人っ子世代で、高齢者のいない世帯で、大切に育てられてきた。

あるいは、共働きの両親に代わり、祖父母が「お手伝いさん代わり」として家に入ることもあるが、多くの場合、一人っ子の孫には甘い。若者は兄弟もいとこもいない中で、自分中心に物事が運ぶことが当然の環境で、わがままに育てられている。

また、若者側から見ると、高齢者は迷惑老人、老害にしか見えないことがある。日本でも「突然、見ず知らずの人に怒鳴り散らす」「社会のルールを無視する」「苦情電話を頻繁にかける」など迷惑老人の問題が起きているが、中国でも同様だ。

この背景には、中国で起きている高齢化問題が潜んでいる。日本同様、若者の負担が大きくなる社会で、中国の“老人”たちはどのように見られているのだろうか。中国で起きている若者と高齢者の分断を後編『「中国人のマナーが悪い」印象は老人のせいだった…“迷惑老人”であふれる中国の絶望的な状況』で解説する。

「中国人のマナーが悪い」印象は老人のせいだった…“迷惑老人”であふれる中国の絶望的な状況