今年3月に開幕した2024年のスーパーフォーミュラシリーズも今夏でシーズンを折り返し、8月24日〜25日の第5戦・もてぎ(栃木)から後半戦を迎える。

 シーズン前半戦は山本尚貴の復帰や牧野任祐(ただすけ)の初優勝、さらには坪井翔が4年ぶりに表彰台の中央に立つなど、各サーキットで違ったドライバーが主役となった。そんななか、どのサーキットでも一番人気の"引っ張りだこ"なのが、18歳の野田樹潤(じゅじゅ/通称Juju)だろう。


Jujuは後半戦で成長した姿を見せられるか photo by Yoshida Shigenobu

 デビュー戦となった三重・鈴鹿サーキットでの第1戦が開催された3月上旬は、当時まだ彼女が高校生だったこともあり、『女子高生ドライバーが国内トップフォーミュラに参戦!』と大きな話題になった。大手テレビ局をはじめ多数のメディアがパドックに殺到し、レース翌日の報道は優勝したドライバーよりも大々的に取り上げられた。

 その開幕戦でのJujuは、予選でQ1・Bグループのトップから4.8秒遅れ。決勝はスタート直後にコースオフがありながらも周回遅れになることなく、トップから1分09秒差の17位で完走した。

 続いて5月に行なわれた第2戦・オートポリス(大分)。Jujuは土曜のフリー走行でマシントラブルが発生し、セッションの半分以上を走れずに終わってしまった。それが結果的に尾を引き、1周遅れの20位でゴールした。

 6月の第3戦・SUGO(宮城)では、フリー走行から着々とタイムを上げていき、予選ではQ1・Bグループでトップから1.399秒差のタイムを記録。決勝は悪天候によるアクシデント続出で途中終了となり、ほとんどバトルができないまま19位でレースを終えた。

 そして、7月の第4戦・富士(静岡)。2週間前に富士スピードウェイで合同テストが行なわれたこともあってか、Q1・Bグループのトップとの差は1.977秒。決勝の前半スティントでは、ライバルに離されることなくレースを進めていた。ただ、途中のピット作業に手間取ってしまったことにより、最終的に1分19秒差の19位でチェッカーフラッグを受けた。

【開幕戦から半年で成長した点は?】

 ざっと、シーズン前半戦のJujuのレースを振り返ってみた。大きな注目を集めたデビュー戦から早5カ月──。果たしてJujuのパフォーマンスは向上しているのか?

 この疑問に関しては、見る角度によって答えが変わってくるので、客観的に評価をするのは難しい。だが、少なくともJuju本人の目線から見ると、確実に成長していることは間違いないだろう。

 特に第3戦のスポーツランドSUGOは「攻略が難しい」と言われるサーキットで、初めて走るドライバーが苦労しやすいコース設定になっている。そこでJujuはトップから1.399秒差のタイムを記録した。コースが違うため一概に比較はできないが、開幕前に合同テストを行なった鈴鹿サーキットでの走りと比べると、確実にライバルとの差が縮まっているように感じられた。

 第4戦の富士スピードウェイでの決勝でも、今までは数周で前の車両が見えなくなるくらい引き離されていたが、このレースでは2〜3秒くらい後方の位置をキープできていた。これも開幕戦の頃にはなかったものだ。

 特にJujuは海外でのレース経験を経て今年初めて日本のサーキットを転戦するため、コースを覚えるところからのスタートとなる。また、スーパーフォーミュラのような大きなパワーとダウンフォースを発生させるマシンの経験がなかったことを考えると、半年でここまできたと言うのは、ポジティブな要素として見て、差し支えないと思う。

 しかし、「スーパーフォーミュラで結果を残す・活躍する」という点を主軸にして見ると、上位との差が大きいのが現実だ。その差は縮まっているとはいえ、毎回拮抗したバトルが繰り広げられているスーパーフォーミュラで「1秒」という差は非常に大きい。

 予選ではトップ差2秒を切るところまで近づいているが、フリー走行やテストでのセッションではコンスタントに2秒〜2.5秒の差がついている印象だ。この差をいかに早く詰めていけるかが、これからの後半戦の課題と言えそうだ。

【Jujuを取り巻く状況で感じたこと】

 そしてもうひとつ、前半戦のJujuを見ていて課題と感じたのは精神面。「レース経験が豊富ではない18歳」という部分を考慮しても、コース上やそれ以外でも「余裕のなさ・未熟さ」を露呈したように感じられた。

 SNSで物議を醸した周回遅れになる際のブルーフラッグ対応の件や、欧州BOSS GPでマシンを降りたあとに振る舞った行為についても、余裕のなさが引き金のひとつになっているような気がする。スーパーフォーミュラでのパドックやピットでの一挙手一投足を見ても、大人の対応として気になる瞬間も何度かあった。

 ドライビング面の技術向上を一生懸命に取り組んでいることは十分に伝わる。だが、精神面もタフになっていかないと、これから先はもっと苦労することになるだろう。

 そして迎えるシーズン後半戦。第5戦のツインリンクもてぎは彼女にとって初経験のコースとなるが、その後の富士(第6戦&第7戦/10月12日・13日)と鈴鹿(第8戦&第9戦/11月9日・10日)のサーキットは経験済みなので、結果やタイム差は以前と比較しやすい。

 第4戦・富士からJujuのマシンは、星学文エンジニアが担当することになった。現在F1アルピーヌで活躍するピエール・ガスリーがスーパーフォーミュラに参戦した当時の担当エンジニアで、そのシーズンは2勝を挙げてランキング2位に入った実績を持っている。

 どこまでつめ痕を残すことができるか──。後半戦の彼女にとって、それが重要なテーマとなりそうだ。

 そして、Jujuを取り巻く様々な状況を見て感じることは、「よくも悪くも騒ぎすぎ」ということ。メディアでもSNSでも、実力と関係のない取り上げられ方が多い点は引っかかる。

 結果が出ていない状況で過度に持ち上げすぎることは、彼女にとっても決していいことではないと思う。その逆もしかり、彼女の行動に対する批判で「そこまで否定的になる必要はある?」と感じる場面もあった。

【後半戦で新たなJujuを見せられるか】

 どの競技でも言えることだが、結果が出れば注目度も上がる一方、結果が伴わないとメディアに取り上げられるチャンスは減っていく。過去にもスーパーフォーミュラでは、2020年から参戦した女性ドライバーのタチアナ・カルデロンも最初は話題になったが、2年目は成績が上がらずに注目度もみるみる下がっていった。

 Jujuの場合、『スーパーフォーミュラ史上最年少&初の日本人女性ドライバー』というキーワードが先行して注目を集めた。ただ、そのキーワードに固執するのをそろそろ終わりにしないと、彼女自身が求めている本当の成長につながらないのではないか、とも思う。

 今シーズンも残り5戦。Jujuが与えられたチャンスをどう戦い、どのように成長していくのか、引き続きチェックしていきたい。