10年ぶりの″山の神″誕生なるか 3大駅伝で優勝を目指す創価大・吉田響の並々ならぬ思い
関東インカレ10000mを走る創価大の吉田響 photo by Itaru Chiba/AFLO
ホクレン・ディスタンス深川大会の5000m。
スタートから吉田響(創価大4年)が先頭に出る。実業団の外国人選手や留学生がいるなか、積極的に前に出てレースを引っ張っていく。外国人選手がいる場合、日本人選手の多くはその集団や第2集団でレースを進めるケースが多いが、吉田は躊躇せずに前に出て、攻めた。
「みんな、ちょっと遠慮しているところがあったので、自分が最初に出て流れをうまく作れたかなと思います」
吉田は1000mを2分42秒前後で押していく予定でいた。出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝の各区間で区間新をマークし、チームを優勝に導くためには、5000mでは1000mを2分45秒で軽く押していけることが標準ラインと考えていたからだ。
3000mまでは、順調だった。
しかし、その後、外国人選手に前を譲ると徐々に差が開いていく。それでもラスト200mでは懸命に腕を振って前を追いかけ、最終的に2位でゴール。13分39秒94で自己ベストを更新した。
「小池(莉希・3年)が5000mの創価大記録(13分34秒)を持っていたので、それを更新するのが目標だったんですけど、やっぱり小池は強いですし、外国人選手にも喰らいついていけず、ちょっと悔しいですね。ただ、函館ハーフ(6月30日)から2週間、自分は連戦できないタイプなんですけど、連戦でもしっかり走れたのと、目標である13分40秒切りというところを達成できたのでとりあえずよかったです」
吉田のレースを見ていた創価大の榎木和貴監督は、「及第点」と笑みを浮かべた。
「本人は13分40秒切りをひとつの目標にして、ペースメーカーなしのレースで自分から攻めて、チャレンジしていくなか、しっかりとまとめることができたと思います。もともとスピードの部分で苦手意識があったんですけど、今回でひとつ自分の壁を乗り越えることができたので、秋の駅伝に向けてすごく自信になったと思いますね」
吉田は今回の5000mに挑む際の持ちタイムが13分59秒44だった。これまでの吉田の走りからすれば、もっといいタイムを保持していそうだが、タイムを更新できなかったのには理由があった。
「自分は下手にレースにいっぱい出てしまうと、ケガをしてしまうし、ちゃんと練習しないと走れないんです。練習をコンスタントに積んで、1回の試合で大きな結果を出すということにこだわって4年間やってきたので、なかなか5000mや10000mにチャレンジする機会がなくて......」
その吉田のやり方に、今シーズンは大きな変化が生じた。関東インカレ10000mで7位に入賞したあと、函館ハーフとホクレン・ディスタンスで5000mを走ることを決め、距離走はもちろん1キロ、2キロのインターバル走などを行なって、レースに備えた。
「函館ハーフは函館に行きたかったのと、自分はハーフのタイムを持っていなかったので、一度ここでいいタイムを出し、チームに勢いをつけたかったんです。あと、自分は練習に絶対的な自信を持っていたんですけど、結果を出さないと不安な面も出てくるので函館で結果を出したかった。
61分で優勝できたのはうれしかったですし、100点のレースができましたが、タイムは(2023年の)丸亀ハーフで篠原選手(倖太朗・駒澤大4年)が60分台を出しているので、まだまだ上とは差があるなというのを痛感したレースになりました」
吉田の函館ハーフの結果について榎木監督は、「スタミナ強化の一環として62分台でいければ、と本人とも話をしていたのですが、大会記録を狙いにいって優勝したので、彼の気持ちの強さが出て、よかったと思います」と高く評価した。
函館ハーフから、およそ2週間で5000mのレースに臨むのはタフな連戦になる。「連戦に弱い」と吉田自身が語っていたが、あえて挑戦したのには意味があった。
「自分は、3大駅伝のエース区間で走り、区間賞を獲って優勝したいんです。そうなると1キロ2分45秒で押していかないといけない。そのために一度、5000mで速いタイムを出して、ロードに移行した際に出雲では5キロを13分40秒で押せる、全日本は10キロを27分台のペースで押せる感覚を掴んでおきたい。夏合宿の時にしっかり取り組んでいきたいと思います」
このホクレン・ディスタンスで、トラックシーズンは終わりを迎える。新年度となり、[進田2]関東インカレからここまでの流れは自己評価としては、何点なのだろうか。
「75点ですね。自分にできることを最大限やってきたので、その過程については100点とか120点出したいくらいなんです。でも、平林選手(清澄・國學院大4年)、青山学院大の黒田選手(朝日・3年)、太田選手(蒼生・4年)、それに篠原選手とか、そういう選手と戦うってなると、まだまだ実力が足りないのが現実なので。ただ、25点足りないのは、伸びしろがあるということだと思っています」
榎木監督は、吉田について「トラックシーズンでしっかりと結果を出した」と評価している。
「本人は、5000m13分30秒、10000m27分台を目標にしていたので、もう少し足りないというのがあるんでしょうけど、私としては十分ですし、他校のトップとしっかりと戦えるかなと思っています」
チームとしての手応えも榎木監督は感じているという。
「昨年はスピード強化で5000mを中心にトラックシーズンを作ってきたんですけど、今年はそのベースを上げ、5000mと10000mの両方をしっかりと戦える状態を作ろうということで、春からチャレンジしてきました。多くの選手が試合慣れしてきて、28分30秒切りに近づいてきているので、当初のイメージよりよく走ってくれていると思います。
ただ、3大駅伝で優勝を狙うには青学大や國學院大あたりがライバルになってくると思いますし、強豪校はまだ自分たちの上にいます。夏合宿をしっかりこなして、そこで成長する選手に期待していきたいですね」
吉田も3大駅伝に対して並々ならぬ決意でいる。
昨年度の出雲駅伝で創価大は2位。吉田は5区で区間賞を獲ったが、駒澤大に及ばなかった。全日本大学駅伝、吉田は5区区間新の快走を見せたが、チームは6位に終わった。箱根駅伝、吉田は「山の神」になるべく5区を駆けたが区間9位というまさかの結果に終わり、チームは総合8位に終わった。
「トラックシーズンも終わり、これからは出雲、全日本、箱根の3本だけで行くつもりですし、すべて区間新記録と箱根駅伝では山の神になるのが目標です」
4年生になり、今年度が3大駅伝で優勝するためには最後の挑戦になり、「山の神」の称号を得るトライもラストになる。秘策はあるのだろうか。
「大事なのは夏合宿ですね。そこで距離を踏むこと。その後、出雲と全日本でスピードが入ってきての対応もしないといけないですけど、夏の間に距離走に加え、心肺に負荷をかけて長い時間走る練習をできるのかがカギになってくると思います。
普段の練習から手を抜くことなく、緊張感を持ってやっていきたいですね。とにかく、ずっと目標にしていた山の神は、絶対に成し遂げます」
吉田は、力強い言葉でそう締めた。
ただ、山の神は、タイムが速いだけではその称号は得られない。タイムだけで言えば、昨年度の山本唯翔(城西大・現SUBARU)は2年連続で5区区間新を出し、「山の神」と呼ばれてもおかしくはない偉業を達成した。妖精にはなったが、山の神になれなったのは、残念ながらチームの優勝に届かなかったからだ。
今年度の箱根駅伝、創価大が小田原中継所でトップ、あるいは上位に喰らいつき、吉田が区間新の走りで往路優勝に導くことができれば、神野大地以来、10年ぶりに「4代目・山の神」が誕生するかもしれない。