女子ゴルフのネクストヒロイン候補は?(写真:©国際ジュニアゴルフ育成協会(IJGA))

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世界女子ジュニア「15―18歳」のカテゴリー・女子団体戦で優勝した根田うの(右)と岩永杏奈ペア(写真:©国際ジュニアゴルフ育成協会(IJGA))

日本の女子ゴルフが今年も元気だ。

6月の全米女子オープンで笹生優花が優勝し、男女を通じて日本選手としては初めてメジャー2勝を挙げた(1勝目はフィリピン所属で出場)。7月には古江彩佳がエビアン選手権でメジャー初優勝。今年、日本女子はメジャー2勝を挙げた。

開催中のパリ五輪のゴルフ競技の女子は8月7日から始まり、笹生と日本の女王・山下美夢有が参加する。東京五輪では稲見萌寧が銀メダルを獲得した。今回はさらにいい色のメダルにたどり着くだろうか。

世界ジュニアで活躍した選手たち

女子ゴルフ界は近年、世代ごとにまとまって次々と活躍することが多く、呼び名がついている世代もある。2019年全英女子オープンでメジャー制覇した渋野日向子や、アメリカ女子ツアートッププロの畑岡奈紗、勝みなみ、小祝さくら、原英莉花らの「黄金世代(1998年度生まれ)」が火付け役になった。

古江は「プラチナ世代、ミレニアム世代(2000年度生まれ)」と呼ばれる。笹生は「新世紀世代(2001年度生まれ)」と呼ばれ、同じパリ五輪代表の山下らも同世代だ。そのほかでは国内女子ツアーで7月に2週連続優勝した川粼春花ら2003年度生まれの選手たちは「ダイヤモンド世代」と呼ばれている。

こうした選手たちには、ジュニア時代から覇を競ってきたいわば「同志」的な雰囲気があるのだろう。

一緒に戦ってきた仲で、ゴルフのレベルもわかっているので「彼女が勝てるなら」という気持ちになることは想像できる。同じ世代の1人が勝つと次々と同じ世代が活躍を始め「○○世代」と名付けられるようになる。

今年も筆者は「IMGA世界ジュニアゴルフ選手権」(7月9〜11日、カリフォルニア州サンディエゴ周辺)へ取材に行ってきた。世代別に世界中から選手たちが集まって戦う大会で、このコラムでも過去に畑岡と笹生が激闘を展開したことなどを紹介した(記事はこちら)。

【写真】日本の女子ゴルフは今年も元気! 将来性豊かな女子ゴルフの選手たち(6枚)

今年の世界ジュニアでも日本代表選手は女子が活躍した。

日本では中学生世代にあたる「13―14歳の部」で仁科優花(千葉・白井中3年)が優勝。また、最も年齢が高い「15―18歳の部」では、根田うの(北海道・立命館慶祥高1年)が2位となり、6位となった岩永杏奈(大阪・大阪桐蔭高1年)と組んだ団体戦では香港と並んで優勝した(プレーオフなし)。


「13-14歳」女子の部優勝の仁科優花(写真:©国際ジュニアゴルフ育成協会(IJGA))

世界ジュニア開幕時の年齢で出場する「15―18歳の部」は、日本では中学3年から大学1年までと最も年齢幅があるカテゴリーとなる。


「15-18歳」女子2位と団体優勝を果たした根田うの(写真:©国際ジュニアゴルフ育成協会(IJGA))

今年の日本代表選手団の中で特徴的だったのは、代表6人のうち4人(他に後藤あい=兵庫・松蔭高、鈴木みなみ=埼玉・埼玉栄高)が、このカテゴリーでは年下となる日本の高校1年生だったこと。その中の根田、岩永が「世界のお姉さんたち」を抑えた。

北海道で父と夢を追う根田

13―14歳、15―18歳のカテゴリーの選手たちは、すぐにでも日本のプロツアーに出場してくる年齢層で、上記3人もすでにプロツアーへの出場経験を持っている。

世界ジュニアで力を発揮した「ネクスト・ヒロイン」の候補たちは、近い将来「○○世代」と名付けられるかもしれない選手たちだ。

毎年春に全国で1000人超が参加する「PGM世界ジュニア日本代選抜大会」で、筆者が世界ジュニア日本代表選手に行ったアンケートを参考に、3人を紹介したい。

根田は毎年、会うたびに身長が伸びている。初めて世界ジュニア代表になったのは小学5年生のとき、2019年の「9―10歳の部」で身長は151センチとある。


根田うの(写真:©国際ジュニアゴルフ育成協会(IJGA))

そのときに世界ジュニアで優勝、2年間のシードを得たが、「11―12歳の部」にあたる時期はコロナ禍で大会がなく、2022年に「13―14歳の部」で優勝。今年から「15―18歳の部」に上がり、2位となって来年のシード権を獲得した。

高1の今年、身長は173センチになっていた。ドライバーの飛距離も小5の190ヤードから今はランも入れると「平均で250〜260ヤードぐらい」という。日本女子ツアーのドライビングディスタンスのランキング(7月21日更新)によると1位の穴井詩が264ヤードなので、今女子ツアーに入っても「飛ばし屋」の一人になる。

北海道在住で、父はレッスンプロ。その影響で3歳でゴルフを始めた。北海道など雪国では冬場ゴルフ場がクローズになるので不利とされるが、根田は北海道の高校に進学した。

ゴルフ部もなく個人での活動だが「お父さんとゴルフをするのが好きなんです」とはにかむ。父とはけんかもしないそうで「教えてもらっているのに雰囲気が悪くなるからしません」と"大人"だ。

根田は北海道での小学校〜高校タイトルを軒並み制してきた。2022年13歳の時に女子ツアーの北海道meijiカップでプロツアーにデビュー。今の目標は「父と話しているのは、プロの試合で優勝すること。プロを目指せる年齢になったと思っています」と明確だ。

岩永「好成績」にメンタルトレーニング

一方、岩永は2017年、小学3年生のとき「7―8歳の部」で初めて世界ジュニア日本代表になった。結果は10位。「ほかの国の選手とプレーできて、日本選手団の友達と一緒に練習するのが楽しかった」と、その後も世界ジュニアに挑戦してきた。

同世代に「強敵」が多く、次点で代表を逃すこともあったが、アメリカの予選に挑戦して出場資格を得るなど世界ジュニアを1つの目標にしてきた。


岩永杏奈(写真:©国際ジュニアゴルフ育成協会(IJGA))

体は小さかった(小3当時で130センチ)が、徐々に飛距離やスキルを磨いて、昨年は日本ジュニア(12―14歳の部)で優勝を果たし、同世代の頂点に立った。

今年は高校に進学し、選抜大会で「15―18歳の部」の世界ジュニア日本代表を勝ち取った。本戦では個人6位で来年のシード権を獲得し、一緒に「優勝したい」と話していた根田との団体戦で優勝した。

直後にサンディエゴから英国に渡り、日本ジュニア優勝で出場資格を得た「ジュニアオープン選手権」に出場、2位の好成績を収めた。

昨年からメンタルトレーニングも取り入れ「プラス思考で考えるようになりました。それと、どこに球が落ちたらどう転がるかとかを考えながらやるようになり、マネジメントが以前とは変わってきました」というのが、好成績に結び付いている。

高校の先輩でパリ五輪日本代表の山下が、人柄を含めて目標の選手という。「プロテストに一発合格して、日本のツアーでやって、そのあとにアメリカで活躍したい」という今後の道筋を思い描いている。

海外で場数を踏んできた中3の仁科

また、今年の世界ジュニア「13―14歳の部」を制した仁科は、2人より1学年下の中学3年。初めて世界ジュニアに出たのは2022年、中学1年生のとき、「11―12歳の部」で本戦は7位だった。

昨年は代表選抜大会で敗れたが、今年は難なく「13―14歳の部」日本代表を手にし、大会前から「優勝」を狙っていた。初日3打差3位から2日目に首位に立ち、そのまま優勝した。

ゴルフを始めたのは小4と少し遅めのスタート。器械体操からゴルフに転向したのは「学力向上と集中力をつけるため」と当時のアンケートに答えている。

2年でトップレベルになることを目指して練習したそうで、実際に2年後、全国小学生大会で2位になり、同世代のトップレベルに達している。昨年の日本ジュニア(12―14歳の部)で、岩永に競り負けたが1打差2位になった。

世界ジュニアに初参加したときから「海外志向」。派遣や個人渡航も含め、昨年は中国やインドネシア、今年は韓国やハワイなどで試合をしてきた。苦労もあるが「それを含めて楽しいと思える」と、海外での場数が好結果に結び付いている。


仁科優花(写真:©国際ジュニアゴルフ育成協会(IJGA))

今年の世界ジュニアの後もアメリカに残り、ハワイ予選優勝で出場資格を得た「全米ガールズ選手権」に出場。予選を通過してトップ64によるマッチプレーでは2回戦に進んでいる。

ゴルフの好きなところを聞くと「ゴールがなく、どこまでも上を目指せること」という。向上心の強さが読み取れる。

「世界」を知る女子ジュニアの活躍に期待

今年の世界ジュニアでは、高年齢層(「13―14歳」「15―18歳」の部)の日本女子が、世界の同世代と比べトップレベルにあることを証明した形となった。

日本代表選手団団長で、2011年から日本代表派遣を行っている国際ジュニアゴルフ育成協会の井上透代表理事は「プロのレベルがアップするとともに、それに続くジュニアのレベルも年々上げていかないといけなくなっています。

オリンピックの体操競技で、かつてはウルトラCで勝てたのが、今ではウルトラEとかFを出さないといけないというのと似た状況が、競技ゴルフ全体にある。

その中で、根田、岩永、仁科は飛距離も出て、次世代のレベルを持ったプレーヤーになるであろうというのが想像できます」と話した。

世界ジュニアに日本代表選手団で出場を始めた2011年ごろは欧米勢と韓国勢の争いだったが、畑岡が当時15―17歳の部で連覇した2015、2016年ごろから、日本だけではなくタイや中国、台湾なども台頭してきている。

井上代表理事は「これからのツアーでは上位にアジア勢が増えて、欧米勢が減っていく傾向になっていくと思います」と予想した。

そんな近未来が予想される世界の女子ゴルフ界に向けて、根田、岩永、仁科といった中3〜高1の世代が、世界の同世代の中で上位にいるのは、日本としては頼もしいところ。この世代のほかの選手たちの「やる気」にもつながるだろう。

そして「英語だけではなく他の言葉を話す選手たちとゴルフをし、外国の文化に触れた経験がある」(井上代表理事)という通り、何よりも「世界」を知っているのが大きい。

【写真】日本の女子ゴルフは今年も元気! 将来性豊かな女子ゴルフの選手たち(6枚)

(赤坂 厚 : スポーツライター)