JR北海道の根室線富良野―新得間の3月31日の最終運行日を迎え、大勢の人に見送られるJR富良野駅発の最終列車(右)(写真:共同通信社)

2024年3月31日をもって根室本線富良野―新得間81.7kmが廃止された。根室本線はこの廃止により、滝川―富良野間54.6kmと新得―根室間307.5kmに分断され、北海道上川地方と十勝地方を結ぶ鉄道ネットワークが分断された。廃止区間のうち東鹿越―新得間については2016年の台風災害以降不通となりバス代行輸送が続いていたが、ついに復旧されることなく廃止となった。

北海道では「攻めの廃線」によるJR石勝線夕張支線新夕張―夕張間の廃止を含めて鈴木直道知事就任以降、4線区297.1kmが廃止となり、鉄道ネットワークの縮小、分断が進んでいる。

最終日の富良野―新得間

根室本線富良野―新得間の最終列車となったのは、東鹿越20時20分発滝川行の普通列車。キハ40形気動車4両編成には多くの立ち席客が出るほどの状況で、21時2分に富良野駅に到着。117年の歴史に幕を閉じることとなった。

お別れセレモニーは、この日の日中にJR北海道主催で富良野駅、東鹿越駅、新得駅で実施されたほか、富良野市を舞台としたドラマ「北の国から」のロケ地となった布部駅では地元有志によるセレモニーも開かれ、「北の国から」の脚本を手掛けた倉本聰さんもサプライズ登場した。

富良野駅のセレモニーでは、JR北海道の綿貫泰之社長らが出席。綿貫社長は記者団に対して、「モータリゼーションの進展とともに年々ご利用が減る中で鉄道としての役割を終えることになった」と廃線の理由を述べた。

この日は午後から、鉄道区間である富良野―東鹿越間はキハ40形4両編成が当てられ、東鹿越―新得間の鉄道代行バスについてもハイデッカータイプのバス4台運行が行われていた。しかし、東鹿越駅で列車を降りた乗客は、そのまま新得行の代行バスへと乗り継ぐものはごく一部で、大半は折り返し列車の待機列へと並びそのまま富良野へと折り返していった。代行バスは4台運行だったものの、このうち3台はほとんど乗客が乗っていない状況で運行されており、乗客のニーズは列車代行バスにはあまりないことは明らかだった。

また、3月30日と31日の2日間にかけて、札幌―富良野間でキハ261系はまなす編成とラベンダー編成の混結5両により臨時特急ふらの号も運行された。しかし、31日の札幌行は東鹿越―富良野間の最終列車の1本前に接続していたためか、乗客はほとんど乗っておらず、空気輸送状態で札幌へと発車していった。特急ふらの号を東鹿越駅発の最終列車に接続していれば、富良野駅から札幌方面に「ゆったり着席して帰宅したい」という潜在的なニーズを拾えていたはずであるが、顧客ニーズを把握できていなかったように感じられた。

この日、福岡県北九州市から根室本線のラストランに参加した50代自営業の男性は、根室本線の部分廃止の印象について「鉄道ネットワークが分断されることにより石勝線で災害が発生した場合の迂回路が確保できなくなってしまった。ドライバー不足の中で万が一の際に、北海道東部の農産品などの出荷に影響することから食料安全保障の面」、昨今、防衛省も自衛隊の輸送力向上のために鉄道貨物のさらなる活用を求めていることから「国防の面でも心配だ」と話してくれた。

JR北海道は復旧せず放置

今回、廃止となった根室本線富良野―新得間のうち、東鹿越―新得間が台風被害によって不通となったのは2016年8月のこと。被害が集中したのは落合駅と石勝線との合流部である上落合信号所までの約4kmの区間で、土砂流入や道床流出などの被害が相次いだ。復旧費用は約10億円とされたが、JR北海道は復旧せず放置し、東鹿越―新得間では列車代行バスによる輸送が続けられることとなった。

この金額については、2022年10月に新潟・福島豪雨の災害から11年ぶりに災害復旧した只見線の約90億円や、豪雨災害からの鉄道としての復旧を決めた肥薩線の約235億円と比較しても明らかに少額であることから、復旧せず放置していることを腑に落ちないと感じている人も多いようだ。

JR北海道はその3カ月後の2016年11月に「当社単独では維持することが困難な線区」11線区を発表。このうち輸送密度200人未満は赤線区、輸送密度200人以上2000人未満は黄色線区とされ、その後、赤線区の廃止が進められることになる。JR北海道には、すでにこの時点で、同区間の復旧を行う意思はなく富良野―東鹿越間については、なし崩し的に鉄道廃止に持ち込まれたといっても過言ではない。なお、富良野―新得間の台風災害前の輸送密度は152人であったが、東鹿越―新得間が代行バスによる運行となった2016年度には106人と一気に3分の2に利用者を落とし、末期となる2023年には53人となっていた。

さらに、北海道庁も鉄道復旧には前向きとはいえない。2023年3月21日付記事(北海道新幹線「並行在来線」代替バス案の理不尽)でも記しているが、全国の赤字ローカル線を激甚災害から救おうと鉄道の災害復旧を行うにあたっての鉄道会社に対する補助率を引き上げるべく鉄道軌道整備法を改正しようとした際に、道の担当部長が衆議院議員会館に乗り込んでクレームを付けている。

法改正に当たっては、豪雨による被災路線を抱えた福岡、大分、熊本、福島各県知事からの強い要請があった一方で、道のみが日高本線鵡川―様似間と根室本線東鹿越―新得間の被災区間があるにもかかわらず、その改正内容について苦言を呈し「道で策定している計画内容に変更が生じ負担額が増えるようなことがあっては困る」と主張した。しかし、鉄道の復旧費用は道路や河川の予算と比較すれば大きな金額ではなく、起債や交付税措置により都道府県の負担額を軽減する方法はある。

同じ豪雨災害により2011年から長期間の運休が続いていた福島県の只見線の会津川口―只見間の被災前の輸送密度は49人だった。JR東日本は「鉄道として復旧しない」という方針を示していたが、県は東日本大震災や東京電力福島第一原子力発電所の事故などさまざまな問題を抱えながらも只見線の鉄路復旧をあきらめず上下分離方式で復旧・存続を決定。沿線自治体に財政負担の面でも配慮を示し、復旧後は日本一の地方創生路線として多くの観光客が只見線沿線を訪れる。5億5000万円の年間維持費に対して県内だけで6億1000万円の経済効果を発揮している。

沿線自治体では存続の道を模索していた

根室本線の台風被害直後は、富良野市が事務局を務める根室本線対策協議会では鉄路の復活を模索する動きもあった。2016年11月には、千葉県のいすみ鉄道の鳥塚亮社長(当時)を富良野市に招き、鉄道フォーラム「根室本線を元気にする方法」を開催。翌2017年には道内選出の国会議員や国土交通大臣に対する要望活動も実施した。

さらに2018年には、国土交通省に対して、滝川―新得間の沿線自治体の首長と議長の連名で、災害運休が続いている東鹿越―新得間について同区間は「災害時の代替ルートとして、また、観光列車など新たな観光ルートの可能性もあり、道北・中空知地域と道東地域を結ぶ極めて重要な鉄道ネットワーク」であることから「JR北海道が将来にわたって安定的な運営を行い路線の維持・存続」が行えるように、「JR北海道の経営再建に向けた国の支援のあり方の抜本的な見直し」や「老朽化した施設の保全・更新等に関する国の支援や不通区間の早期災害復旧」などを求める要望書が提出された。

しかし、沿線自治体は最終的には廃止を迫るJR北海道と道からの圧力に対抗することができなかった。

北海道の鉄道政策に詳しい北海道教育大学の武田泉准教授は「協議会では本来は鉄道ネットワークが影響を与える広域的な視点で議論が行われるべきであるが、密室協議の中で途中から鉄道廃止の影響が直接の沿線に限った矮小的な議論にすり替えられた」としたうえで、「2020年12月に国土交通省が発表したJR北海道への支援策について赤線区の支援に対する言及がなかったことから、道は、国からの支援もないので早く諦めてバス転換に同意せよと突き放した可能性が高い」と述べる。また、「この区間については道がいったん総合交通政策指針で地域間を結ぶネットワークであるとしているが、結局はその指針を反故にした」。さらに、「密室協議の場ですべてが決められ、地元住民はあとから報道発表によりその事実を知らされることから、鉄道の廃止に対して異議を唱える余地を与えられないことも北海道の特徴だ」と話す。

根室本線の富良野―新得間の廃止に当たってJR北海道は「バス転換の初期費用と18年間の赤字相当額」、「廃止となる沿線4市町村へのまちづくり支援金2億8000万円」の約21億円を拠出した。廃止区間の代替交通については富良野駅を拠点に4系統、幾寅駅近くの道の駅南ふらのを拠点に3系統の路線バスとデマンドバスが設定され、1日最大で34便の運行が、残った鉄道路線の接続をまったく考慮せずに行われている。

この代替交通の設定については裏では相当な苦労があり、ドライバーの高齢化問題からいつまで持続できるかは不透明だ。

復活を模索する動きも

根室本線の災害復旧に向けては地域住民も声を上げていた。新得町の住民団体「根室本線の災害復旧と存続を求める会」などは、2023年3月7日、鈴木直道知事あてに同区間の存続を求める署名8416筆を、道公共交通支援担当課長の小林達也氏(当時)に手渡した。小林氏はこのとき「知事に報告する。地域と一緒に考えていきたい」と話したという。

同会は、根室本線部分廃止の直前となる2023年3月15日に「根室本線の復活を考える会」に会名を変更。「トマムや新得の滞在客の多くは富良野にも観光に訪れる。外国人観光客を増やし地域活性化のためには、新得―富良野間を結ぶ根室本線は必要」として、今後は同区間の復活に向けての模索をするという。


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(櫛田 泉 : 経済ジャーナリスト)