「自分基準」の“絶対的”な生き方を手に入れるための、心のトレーニング法をご紹介します(写真:KiRi/PIXTA)

緊張や不安、喜怒哀楽に振り回される日々はもう終わり。人間関係、周囲の雑音などの環境に左右されない。「自分基準」の“絶対的”な生き方へ――。

「人生終ったかも……」防衛大入学直後に心が折れかけた「のちの陸将」は、どうやって自分のメンタルを鍛えたのか? 2016年熊本地震の災害派遣を指揮した元陸将、小川清史さんが教える一生使える心のトレーニング法『どんな逆境でも、最高のパフォーマンスを発揮する 心を「道具化」する技術』から、一部抜粋してご紹介します。

うまくできれば無駄のない洗練された動きに

心を使わずに体だけで無意識に動き出すと、余計な動きがあちこちに出てきます。一方、心の中で先にイメージによって体を動かしておけば、そこに実際に体を一致させるだけなので、余計な動きがなくなり、より洗練された動きになりやすくなります。

要は、うまくできるようになると、動きにブレがなくなるというわけです。

これは不思議な話でも何でもなく、実は武道や格闘技などでも一般的に使われている技術です。

実際に体を動かすよりも先に心によって体を動かしておく(次の動作をあらかじめイメージする)と、無駄な動きがなくなるぶん、動き出しがスムーズになります。武道や格闘技の世界でいうところの「起こり(予備動作)」がなくなるのです。

例えば、パンチを打つ場合でも、体から動いてしまう「起こり」のあるパンチは、どれだけ早くても、予備動作の段階で相手に事前に察知されてよけられやすくなります。

一方、心を先に動かす「起こり」のないパンチは、スピード自体はそれほど速くなくても、事前に察知されにくいため相手の反応が遅れ、当たりやすくなるのです。

武道や格闘技を経験されていない方からすると不思議な話かもしれませんが、実はそれほど特別なものではありません。プロの選手なら、この技術に関する知識がなくても、日々のトレーニングによって習得し、自然にやっていることだと思います。

実際、プロボクサーの試合などを見ていると、実際にパンチを打たなくてもイメージで激しく攻防しているように見えるのではないでしょうか。

特に、フェイントを仕掛ける際には、実際にパンチを打ち出す感覚で心と体を使い、相手側のミスを誘っています(「フェイントをかけてやる」という意識だけでは、相手がうまく引っ掛かってくれないと聞いたことがあります)。

もっとも、読者のみなさんの目的・目標は、武道や格闘技の「達人」になることではないので、別に日常の1つひとつの動作の「起こり」をなくすほどうまくできる必要はありません。普段の動作との身体感覚の違いを感じてもらうだけで十分です。

次に行おうとしている「自分の体の動き」を、心で意識している時と意識していない時の身体感覚の違いを感じとることにより、心で体をコントロールする感覚をつかみやすくなります。うまくできるかどうかは気にせず、気軽に取り組んでみてください。

「氣の合氣道」の「折れない腕」

ところで、「普段の動作との身体感覚の違いを感じてほしい」とは言ったものの、その違いはとても微妙なものなので、それこそ武道や格闘技の経験をそれなりに積んだ方でなければ、なかなか感じとるのは難しいかもしれません。

そこで、試していただきたいのが、「氣の合氣道」の世界では有名な「折れない腕」です。1人でできないのが難点ですが、こちらのほうが一般の方(武道・格闘技未経験者)でも、心と体の関係をより体感しやすいと思います。

やり方は次の通りです。

まず、腕を肩の高さにまっすぐ上げて、他の人に肘のところから腕を曲げてもらってみてください。この時、腕を曲げられないように一生懸命腕に力を入れて曲げようとする相手の力に対して抵抗します。力いっぱい握りこぶしを作ってもかまいません。

この状態だと、腕を曲げようとしてくる相手の力が強ければ、抵抗するのがかなりしんどいはずです。この感覚をしっかりと体で覚えてください。

次は、できるだけリラックスした状態で同じように腕を前にまっすぐ出します。腕を伸ばすためだけの力を残し、その他の余計な力は完全に抜きましょう。

この時、まず腕を前に出している様子を心でイメージしてから、実際にそのように腕を前に出してください。

その腕を、前回と同様、他の人に肘のところから曲げてもらいます。ただし、今回は腕に力を入れて耐えようとせず、掌は握らないように開いて、指先にも力を入れない(指をピンと張りきらない)ようにしてください。

相手につかまれている部位や相手の力を意識せず、「自分はただまっすぐ腕を伸ばしたいだけなんだ」という気持ちで腕を伸ばします。指先から矢印がまっすぐ飛び出して、遠くを目指して直進している様子をイメージすると良いでしょう。


(イラスト:元陸将・西部方面総監 小川清史「どんな逆境でも、最高のパフォーマンスを発揮する 心を「道具化」する技術」より)

リラックスするほど強い力を発揮できる

いかがでしょうか。うまくできれば相手の力がほとんど気にならず、相手が腕を曲げられない状態になると思います。

いろいろな方で試してみたところ、力いっぱい相手に抵抗している状態だと腕だけで相手の圧力を受けて負けてしまう(折り曲げられてしまう)けれど、「折れない腕」の状態だと、腕に加えられた圧力が体全体に逃げていく感覚があるとおっしゃる方もいました。

こちらは力を入れていないのに相手の強い力に耐えられていることを不思議に思われるかもしれませんが、実は人間はリラックスしている時ほど、強い力を発揮できるのです。その事実を、身をもって体感できるのがこの「折れない腕」です。

くれぐれも、他の人が自分の腕を曲げようとする力に対して抵抗しないようにしましょう。

どうしても抵抗してしまう場合は、腕の下側の筋肉が腕を支えている(腕の最下部に重みがかかっている)ことに意識を集中してみてください。

人間は2つのことを同時には考えられないので、腕の下の筋肉に意識を集中させていると、「相手に抵抗しなければいけない」という気持ちがなくなります。これこそが「本当のリラックス」であり、最も力を発揮できる状態です。

心で体をコントロールできるようになれば、“力み”をなくして、本当の意味でのリラックス状態を意識的に作れるようになります。

同じ力でも受ける感覚が変わってくる

うまくできなかった方は、「腕を前に出している様子を心でイメージしてから、実際にそのように腕を前に出す」のあと、一度腕を下ろしてリラックスしてからもう一度腕を前に出してみてください。この動作を1つ加えるだけでうまくできるようになることもあります。

また、女性の場合は、例えば相手が強い男性だと、相手が力いっぱい自分の腕を曲げてこようとすると、どうしても緊張してしまうと思います。

やはり「力を抜いてリラックスしている状態で、力いっぱい曲げてくる相手に対抗できるわけがない」という一般的なイメージ(思い込み)もあるので、緊張して力んでしまうのも無理はありません。

そのような時は、1回目(力いっぱい相手の力に耐えるケース)を「ぎりぎり腕を曲げられてしまう程度の力」にしてもらい、2回目(後者のやり方)の時も、それと同じくらいの力で曲げてくるように力の加減を調節してもらってください。


同じくらいの力でも、力を受ける感覚が変わり、2回目のほうがより楽に腕を伸ばし続けられると思います。

反対に男性の場合、相手が力の弱い女性だと、単純に力いっぱい腕を伸ばした1回目の状態でも、相手に腕を曲げられることなく耐えられるかもしれません。それでもよく注意すれば、1回目と2回目の身体感覚の違い(相手の力を受ける感覚の変化)は感じられることでしょう。

大切なのは、普段の自分との身体感覚の違い(心を使うことによって体にどのような影響を与えられるのか。「本当のリラックス」状態とはどのようなものか)を感じてもらうことです。

相手に腕を折り曲げられなかったかどうかはあまり重要ではないので、気にする必要はありません。

(小川 清史 : 元陸将/元陸上自衛隊西部方面総監)