マネジャーの仕事は仕組み化だとわかれば、人としての器だとかリーダーシップといった、曖昧な人間性だけに依存する必要がないことがわかります(写真:zak/PIXTA)

「営業利益率5割超え」「社員の平均年間給与は2000万円超え」など目覚ましい成果を上げているキーエンス。同社の強さは「仕組み化」の徹底にあります。キーエンスでマネジャーを務めた岩田圭弘氏の新刊『仕組み化がすべて』から一部抜粋、編集して、キーエンスの仕組み化の実態をご紹介します。

「仕組み化」がキーエンスの組織を強くしている

最初にキーエンスに「仕組み化」がいかに根付いているのかについて紹介します。同社は、営業、開発、情報共有などすべての業務で仕組み化を徹底し、組織の生産性と効率性を高めています。しかも仕組みの遵守と成果は厳格にチェックされ、優れた個人に依存するのではなく、誰もが成果を出せる社風が育まれています。

そのためキーエンスでは「仕組み化」を実施することは当然とされていて、成果を出した人だけでなく、仕組みの考案者も評価されます。また、「仕組み化」を考案することはマネジャーの重要な仕事であると同時に、マネジャーのマネジメント負荷を軽減するためにも必要であることが理解されています。

このようにして、キーエンスでは「仕組み化」によってバックグラウンドが多様な社員たちが一定の成果を出すことを実現しているのです。

仕組み化とは「ルール」のことであり、たとえば、営業プロセスの標準化や業務フローの明確化などが挙げられます。

具体的には、営業活動における訪問先の選定基準、アポイントの取り方、商談の進め方、見積もりの作成方法などを細かくルール化することで、営業の質を高め、成果を安定させることができます。

また、製品開発においては、開発プロセスを細分化し、各工程の担当者とその役割を明確にすることで、開発の効率化と品質の向上を図ることができます。さらに、社内の情報共有や意思決定のプロセスをルール化することで、コミュニケーションの円滑化と意思決定のスピードアップを実現できます。

このように、キーエンスでは、あらゆる業務において仕組み化を推進することで、組織全体の生産性と効率性を高め、継続的な成長を実現しているのです。仕組み化は、同社の強みの源泉であり、他社との差別化を図るうえで欠かせない要素となっています。

もちろん、多くの企業が仕組み化に取り組んでいると考えられますが、その多くは仕組み化を徹底できていないのではないでしょうか。仕組み化により成果を上げるためには、徹底と継続が必要です。キーエンスの仕組み化は、個人の作業効率を高める工夫である以上に、組織として結果を出すことに重点が置かれています。

そのために、ルールを守ることに対する社員のモチベーションの高さが異なります。そこにはルールを守ることに対する信賞必罰や、仕組み化が有効であることを確認す化を行える組織であるべきです。

仕組みを守ることが当然の風土

かといって、キーエンスでは四六時中「仕組みが、仕組みが」と唱えられているわけではありません。仕組み化することや仕組みを守ることが当然になっているためです。

そのため何か問題が発生すれば、当事者である個人のスキルや能力を責める前に、まずは仕組みに問題がなかったかが問われます。また、キーエンスには結果だけでなくプロセスも評価する仕組みがあります。

たとえば、営業は一定の行動量をこなしていればいずれは結果が出ることがわかっています。そのため、成約数や売上金額だけでなく、アポ数や面談数といった途中の行動量も評価されます。

ですから、たとえ今月の売上が今ひとつだったとしても、面談数が目標を達成できていれば、努力をしていると評価されます。売上には時間差が生じているだけかもしれないからです。

逆に売上が良かったとしても、行動量が達成されていなければ、その理由は厳しく問われます。行動量が伴っていない売上はまぐれの可能性があるためです。ところで仕組みは実施する人たちだけが考えるものではありません。キーエンスでは本社側で仕組みを作ることが多いのです。実際、私も本社にいたときには、いわゆる評価項目を設計したり変更したりするといった仕組みづくりに従事していました。

そして常に仕組みが有効であるかどうかをチェックして、不要な仕組みは削除しますし、有効な仕組みはより広く浸透するように働きかけていました。またキーエンスでは優れた成果を出している人のやり方を横に展開する文化がありました。そのやり方が組織的に採用できると評価されれば、そのやり方を考案した人も評価されます。

そのために、商談が成立した場合は成功の要因をメールで部全体に公表することが習慣化されていました。このようにして、常に優れたやり方を組織で共有していたのです。企業によっては業績の良い人がそのやり方を真似されたくなくて自分だけで囲い込んでいる状況が多いかもしれません。

しかし優れた仕組みを考案した人が評価されたり、組織の業績がメンバーの評価につながったりする仕組み自体を持っているキーエンスでは、そのような心配はありませんでした。たとえ新人からでも、学ぶべきことがあれば先輩たちも素直に学ぶ風土があります。

仕組み化とは「マネジャーの仕事を軽くすること」

キーエンスでは仕組みを守ることについては信賞必罰という強い言い方ではないにせよ、評価は必ず行われます。つまり、仕組みを守って結果を出している人は評価されますし、仕組みを守らないことで結果が出せていない人はマイナス評価を下されます。

このシンプルなフィードバックをできていない企業が多いのではないでしょうか。ですから、仕組みを守らない人がいた場合は、マネジャーの指導が行き届いていないのか、あるいは守らない人が不真面目なのかを問う前に、そもそも仕組みを守ることがきちんと評価に紐づけられているかどうかを見直す必要があります。

ところで仕組みを作ることや守らせることが面倒だと考えている人もいるかもしれません。

しかしそれは間違いです。仕組みがなければ同じ人に何度も注意をしなければならなくなるかもしれませんし、メンバーが何人もいればその人数分の注意が必要になってしまいます。それでは組織を大きくすることができませんし、組織が自主的かつ自動的に回るようにもなりません。

つまり、仕組み化することを面倒くさがって怠ってしまうと、かえってマネジメント負荷が大きくなったり、組織の能動性が育たなくなったりするのです。その結果、組織であることの強みを出せない状態が続いてしまいます。

結局、仕組み化とはマネジャーの仕事を軽くすることです。そして現在ご自身がマネジャーとして伸び悩んでいたり、自信をなくしたりしているのであれば、仕組み化は急務です。

マネジャーの立場になった人の中には、自分にはマネジャーとしての能力やリーダーとしての器があるのだろうかと悩まれる人も多いでしょう。しかしそれはマネジャー自身が自らの属人性に依存しようとしていることが問題なのです。

マネジャーの仕事は仕組み化だとわかれば、人としての器だとかリーダーシップといった、曖昧な人間性だけに依存する必要がないことがわかります。もちろん、人として優れていることやリーダーシップはあるに越したことはありません。しかし、それらがないことで悩んだり落ち込んだりする前に、まずは仕組み化を行うべきです。

ですから、マネジャーが最も口にしてはいけないのが「とにかく頑張れ!」という言葉です。「頑張れ」だけなら誰にでも言えます。そもそも部下にしても「頑張れ」と言われても何をどう頑張ればいいのかわからないでしょう。

ですから部下の根性に頼るのではなく、行動の仕方を示すことがマネジャーの仕事だと考えます。このように行動すれば、このような結果を出すことができるのだ、ということを示すことが大切です。

そしてキーエンスでは、マネジャー自身も仕組みの中で行動しています。月初に売上予想を出すことや会議の頻度を決めたり、部下の報告を確認したりなど、マネジャーとしてやるべきことが決まっているのです。

ただし、その仕組みにプラスアルファの自分なりの工夫を加えることも求められます。

「社員の属人性」にも「個人のやる気」にも依存しない


キーエンスの躍進ぶりを見た人から、「よほど優秀な人材を集めているのだろう」とか「高学歴でなければ採用されないのだろう」といったことを言われることがあります。

「優秀さ」を判断することは難しいのですが、学歴で見てみますと、キーエンスの社員の学歴は実に多様です。必ずしも高学歴の人たちばかりではありません。キーエンスでは、採用の際に学歴はそこまで重視されていません。

また、社員それぞれのバックグラウンドも実に多様です。結局、仕組みがしっかりと回っているので、社員の属人性には依存していないのです。また、個人のやる気にも依存していません。

たとえば営業担当者の面談数が50件に達したら1ポイント付与されるなどのプロセスを評価する仕組みがあるため、誰もが50件を超えるように行動しています。その結果、個人のやる気や真面目さ、マメさといった性格に依存することもありません。

(岩田 圭弘 : アスエネ株式会社 共同創業者 兼 取締役COO)