8月2日に史上2番目の下げ幅を記録した日経平均。上昇相場は終わったのだろうか(写真:つのだよしお/アフロ)

8月2日の東京株式市場で日本株は急落した。日経平均株価は1987年10月のブラックマンデー時の3836円に次ぐ史上2番目の下げ幅となる2216円安を記録、3万5909円となった。

1日の3万8126円から、3万7000円台どころか3万6000円台もあっという間に通過してしまうほどの下げだった。あとを受けた2日のアメリカのNY(ニューヨ−ク)市場でも同国経済のソフトランディングを揺るがすような景気指標が出たという理由もあったが、日本株に先導されたような大幅安となり、手がつけられないような負の連鎖に陥っている。

上昇相場は終わってしまったのか

アメリカでも、7月の史上最高値から8月2日までの下落率を見るとNYダウ30種平均が−3.5%、ナスダック総合指数が−10.0%、S&P500種指数が−5.6%となっている。

ウォール街では、伝統的に調整局面入りのターニングポイントを−8%(−20%で弱気相場入り)としている。その点では、NYダウとS&P500種指数は調整局面入りではなく単なる高値波乱といえるが、AI(人工知能)半導体関連銘柄の多いナスダック総合指数は調整局面に入ったことになる。

一方、ナスダックに近い銘柄構成を持つ日経平均の8月2日の終値は、7月11日の史上最高値4万2224円からの下げ率が−14.9%となっている。しかも史上最高値当日のチャートの形が、兜町では「捨て子線」とも言われる、テクニカル手法の「アイランドリバーサル」(離れ小島)になっていることから、調整局面どころか弱気相場入りのリスクを感じる投資家も多くなっている。

この厳しい展開の中だが、「2023年大発会から始まったデフレ脱却相場は、少なくとも2024年と2025年の3年間にわたる上昇相場という形で続く」という私の基本的な相場観はまったく変わっていない。

しかも、それは3年で終わるという意味ではない。「インフレ相場」が本格的に始まれば2026年も、場合によっては2027年も続くと考えている。

上昇期待は継続だが今回は反発時の抵抗力も強そう

そもそも、2日の日経平均の下げ幅は「1987年のブラックマンデーに次ぐ史上2番目」と言われる。だが「下落率」で見ると、ブラックマンデーの14.9%に対して5.8%にすぎず、歴代のワースト20にも入っていない。

ただし、今回の調整局面は、2023年以降に訪れた下落局面とは違うことは認めなければならない。前回の「『2025年日経平均株価5万円』への道が見えてきた」(7月22日配信)でも触れたように、昨年からの重要な上昇と下落をまとめると、日経平均は2023年の大発会2万5716円を起点に、同年7月3日の高値3万3753円をつけてから約半年の調整に入った。このときの下値は同10月4日の3万0526円で、高値からの下げ率は9.5%だった。

次の高値は2024年3月22日の4万0888円だ。その後、4月19日の3万7068円への押し目を作ったが、この間の下げ率も9.3%と、2023年の下落率とほぼ同じだった。

今回は7月11日の史上最高値4万2224円をつけてから、2023年以降3回目の調整となったが、上記の過去2回と違う点は、8月2日の終値3万5909円は上記の最高値からの下落率が14.9%となり、下落率で上回ったことと、過去2回にはなかった直前の調整局面の安値を下回ったことだ。

もちろん、「過去2回の調整局面より谷が深いということは山(反発)も高くなるはず」と前向きに考えることもできる。ただ、高値での出来高が多く、信用の買い残も歴史的な高水準だったことを考えると、高値でのしこりも大きく、今後反発したときの抵抗は強いと考えるべきだ。

それでも、最近は先進各国とも政権維持のためにあらゆる経済対策を講じることもあり、近年は経済と株価が長期間にわたり下がり続けることはない。上述のように、もしウォール街の見方を当てはめれば、もし高値から20%下落すれば、伝統的には弱気相場の入り口になる。だが、近年はそうではなくて、底値(買い場)になる例のほうが多い。

そこで、あらためて今回の日経平均の下げの原因と現況を見てみよう。まず、下げのいちばんの原因は、1ドル=161円台後半から一気に146円台まで進んだ円高だ。これで円安による日本企業の業績上方修正期待が一気に剥落した。

ただ、反対側から見れば、年内のアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)の利下げと、日本銀行の利上げを複数回分急速に織り込んだ結果であり、今後のドル円相場は1ドル=145円前後に落ち着くと推測される。よって、企業業績の上方修正が下方修正にまで変わることまでは考えられない。事実、日経平均の予想EPS(1株当たり利益)は8月2日現在で2410円と、史上最高を更新している。

2番目の理由は、「景気のソフトランディング期待が固まらないアメリカの景気」だ。だが、民主党の大統領選挙候補者に決まったカマラ・ハリス副大統領の人気が予想外に上昇、一時は返り咲き確実と見られていた共和党のドナルド・トランプ候補との差は縮まっている。こうした中で、両候補にとって「景気減速」は許されることではない。どちらの候補が当選しても、景気は維持されるだろう。

3番目は、アメリカのテック株のさらなる下落がナスダックを弱気相場へと落とし込む恐怖だ。だが前述のように、史上最高値からの下落率は10.0%で、すでにテック株は十分な調整をしている現在、さらに大きく下げるとは思えない。人気が先行した反動安であって、AI半導体が今後の経済に不必要になったためではない。

今後の抵抗力は強そうだが日経平均は短期的に下げすぎ

日本の株式市場の上昇は、デフレ脱却相場と、別次元のテック相場の2本立てによって今まで支えられてきた。この間、日本の個人投資家の多くは値がさ株が多いこともあり、テック株の大商いには参加できなかった。逆に言えば、日本のテック株相場が終わったとしても、痛手は軽い。個人好みの相場になることで「陰の極」となる可能性もある。

それでなくても、日経平均は短期的に上げすぎた分、今度は下げすぎだ。7月11日の移動平均線からの乖離率を見ると、25日移動平均線が+6.5%、75日移動平均線が+8.0%となっていた。だが、今やそれぞれ−9.8%、−7.9%と十分すぎる下げとなっている。

ただし、移動平均の抵抗線としてのエネルギーは、支持線としてのエネルギーの何倍も大きいことも認識しよう。つまり各移動平均線を上回るためには、明確な買い要因を待つ必要があるということだ。

とにかく相場はこれからも続く。その相場に負けないためには、目先の動きに振り回されることなく、かつ変化に気づきながら対応することだ。そうすれば、おのずと展開は開けてくると考える。


(連載一覧はこちら)

(当記事は「会社四季報オンライン」にも掲載しています)

(平野 憲一 : ケイ・アセット代表、マーケットアナリスト)