たしかにトヨタのブースだが、そこに並ぶのは日本で見ないクルマばかり

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日本の「ヴェゼル」のボディを一部流用するEV、ホンダ「e:N1」(筆者撮影)

7月18日より28日にかけて、インドネシアの首都ジャカルタにてインドネシア・モーターショー「GIIAS2024」が開催された。

インドネシアは、年間およそ100万台の自動車が販売される、アセアン最大の自動車市場だ。約2.7億の人口は平均年齢29歳と若く、2010年代前半まで5%台の経済成長を続けていた。

自動車市場はコロナ禍で停滞はしたものの、2023年にはコロナ前の100万台水準に戻っている。平均年収はまだ40万円ほどではあるが、将来の有望な国のひとつだ。


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そんなインドネシアの自動車市場は日系ブランドが強く、トヨタを筆頭にダイハツ、ホンダ、三菱自動車、スズキがインドネシアに工場を構えている。

近年、現代自動車(ヒョンデ)が伸びてきているが、それでもシェアはトヨタ、ダイハツ、ホンダ、三菱自動車、スズキの日系ブランドが上。日系ブランドが、なんと84.2%(2023年実績)を占める。インドネシアは、日本の自動車業界にとって大切な顧客となるわけだ。

日本にはない日系ブランドの人気MPVたち

日系ブランドが強いだけでなく、7人乗りの3列シートのMPVの人気が圧倒的であることも特徴のひとつ。日本と同様のスライドドアのミニバンもあるけれど、主流はSUV風の5ドア車だ。

そうしたインドネシアの市場に合わせて、日本ブランドもMPVのを数多く販売している。昨年のインドネシア・カー・オブ・ザ・イヤーに輝いたのは、トヨタの「キジャン・イノーバ・ゼニックスHEV」だった。


インドネシアで大人気のキジャン・イノーバ・ゼニックスHEV(筆者撮影)

SUVテイストの3列シートMPVであるが、メカニズムはFFベースの2.0リッター・ハイブリッドで、電気式CVTを組み合わせる。使うエンジンはM20A-FXSだから、まさに日本の「プリウス」と同じだ。

ほかもトヨタは、「キジャン・イノーバ」「アバンザ」「ヴェロズ」「カリヤ」というMPVを揃える。さらに「アルファード」「ヴェルファイア」「ヴォクシー」も販売するから、MPVだけで8モデルという驚異のワイドバリエーションだ。

ダイハツは「セニア」「シグラ」「テリオス」、ホンダは「BR-V N7X」「モビリオ」、三菱自動車は「エクスパンダー」、スズキは「エルティガ」「XL7」というMPVをそれぞれラインナップ。MPVの品揃えにも驚くが、日本ブランドでありながら日本で馴染みのない名前ばかりなのにも驚く。


ダイハツ「セニア」、サイズ感は日本の「シエンタ」や「フリード」に近い(筆者撮影)


スズキ「XL7」は昨年、タイでカー・オブ・ザ・イヤーを受賞している(筆者撮影)

さらに、SUVやコンパクトカーにも、日本にはないモデルがズラリ。トヨタは「ラッシュ」「フォーチュナー」というSUVにセダンの「ヴィオス」、ダイハツは「シリオン」「アイラ」というコンパクトカーをラインナップ。

ホンダは「ブリオ」「シティ」というコンパクトカーのほか、SUVの「WR-V」もあるが、このWR-Vは日本で販売されるものと中身が違うから少々ややこしい。

三菱自動車には「エクスフォース」「パジェロスポーツ」、スズキには「グランドビターラ」「エスプレッソ」というSUVがある。スズキは、かつて日本でも販売されたハッチバック車、「バレーノ」の2代目を販売中だ。

人気の「ジムニー」は、インド製の5ドアも販売されている。日系ブランドでありながらも、見たことも聞いたこともないクルマばかり。それがインドネシア市場なのだ。

今年のショーは「xEV」とMPVが目立った

次に、今回のインドネシア・モーターショーで発表された新型車をレポートしよう。日系ブランドでは次のようなクルマが登場した。

トヨタは、新型「GRヤリス」と「プリウス/プリウスPHEV」、ピックアップトラックの「ハイラックス・ランガ」の3モデル。


TOYOTA GAZOO Racingを押し出すトヨタのブース(筆者撮影)

【写真】現地で見た「日本で見ない日本車」と気になる中国EV勢

ダイハツは「ロッキーハイブリッド」、ホンダは、「ステップワゴンe:HEV」と電気自動車(BEV)の「e:N1」。

三菱は新型「トライトン」と新型「パジェロスポーツ」、スズキはEVコンセプトの「eVX」。日産は「セレナe-POWER」をお披露目した。

三菱自動車を除く、すべての日系ブランドはハイブリッドとBEVというxEV(=何らかの電動ユニットを持つクルマ)であった。


「パジェロスポーツ」は日本でも販売される「トライトン」のメカニズムを用いる(筆者撮影)

また、ホンダと日産はミニバン、三菱自動車は3列シートのSUVと、MPV的に使えるクルマだ。つまり、今回の日系ブランドの発表は、「xEVとMPV」という内容であったのだ。

日本以外では、BEVを前面に押し出す中国ブランドの出展が目立った。ブランド名を挙げれば、ウーリン、BYD、MG、チェリー、GWM、AION、JETOUR、NETA、DFSKというもの。


かつて英国ブランドだった「MG」は今、中国ブランドとなりEVに注力する(筆者撮影)

さらに韓国のKIA(起亜)とベトナムのVINFASTも、BEVをずらりと並べる展示を行っていた。

ハイブリッド5%、BEV2%の市場のこれから

振り返ってみれば、ショー会場の「どこを見てもハイブリッドとBEV」という状況で、インドネシア市場で電動化が注目されていることがうかがえた。

ただし、インドネシアの電動化は、まだまだ始まったばかり。2023年にインドネシア国内で販売された100万台のうち、ハイブリッド車は5万2434台、BEVは1万7062台でしかない。ハイブリッドでようやく5%台、BEVは2%未満である。


コンパクトで低価格なEVを中心にラインナップするウーリン(筆者撮影)

このうち、もっとも数多くBEVを販売したのは、格安の小型BEVを扱うウーリンだ。中国ナンバー1のEVブランドであるBYDも、インドネシアではチャレンジャーという立場になる。

また、出展していた中国ブランドの多くは、まだ本格的にインドネシア市場に進出していない。上陸前のプロモーションとしての出展であった。

いまだエンジン車が主流となるインドネシアでは、中国ブランドのEVや日系ブランドのハイブリッドが「虎視眈々と普及を狙っている」、そんな状況のようだ。


キア、フォルクスワーゲン、日産とグローバルなブランドがひしめき合う会場であった(筆者撮影)

これまで、現地ニーズに合わせて日本とは違うモデルで戦ってきた日本ブランド。今後はインドネシアでも電動化が進んでいくはずだが、果たして日本のようにハイブリッドが普及するのだろうか。それとも、中国勢のBEVが先んじるのか。人口2.7億人の大きなマーケットだけに、その動向に注目したい。

【写真】インドネシアモーターショーの出展ブースや車両をもっと見る

(鈴木 ケンイチ : モータージャーナリスト )