循環する人生が線形人生に取って代わられたように、線形人生もまた非線形人生に置き換わりつつある(写真:bee/PIXTA)

仕事・家族・健康を失う、転職する、人間関係を変える……など、人生には予測不能な試練や岐路が必ず訪れる。

ニューヨークタイムズのベストセラー著者・ファイラー氏自身、病気、金銭的な不遇、父親の自殺騒動など多くの困難に直面。そこで全米50州を3年かけて横断し、225人に人生の転機、混乱、再出発までの道筋についてインタビューを行った。

そのリアルなライフストーリーから見えた「共通点」や、「岐路に立ったとき、どうすべきか」について、同氏著書の抄訳版『人生の岐路に立ったとき、あなたが大切にすべきこと』から、一部を抜粋・編集してお届けする。

「線形の人生」と「非線形の人生」

これまで科学が飛躍的進歩を遂げる場面では、いったんある観察者が世界のなかのひとつの現象、例えば非線形の存在を特定すると、残りの人たちも、自分の生活を通じてそれを認識するようになった。

たしかにその片鱗は見られる。私が交わした会話のなかでは、誰もが自らの人生を流動的、気まぐれ、変化しやすい、順応性があるなどと表現した。しかしどういうわけか、この可変性を捉えた統一表現は見つからなかった。

だが、それを確立するときが来た。私たちの世界が非線形である以上、私たちは自らの人生もまた非線形であると認識すべきなのだ。循環する人生が線形人生に取って代わられたように、線形人生もまた非線形人生に置き換わりつつある。

非線形性は、大きな混乱や不確実性に抗うのではなく、それらを受容すべきことを示唆している。そうした不可解な道をたどるかのような人生を送っているのは、なにもあなただけではない。誰もがそうなのだ。

さらに言えば非線形は、なぜ私たち全員が、どうすればいいのかわからず常に不安を感じるのか、その理由を説明するのに役立つだろう。

自分の人生は一連の予測可能な確固たる人生の章に従って展開されると期待するよう訓練されているため、そうした章が速度を上げながら、事あるごとに順序もばらばらで、しばしば積み重なるようにしてやって来ると、私たちは大いに混乱する。

しかし現実は、私たちはみな地平線の上に浮かぶ雲であり、コーヒーに溶けていくクリームの渦であり、ギザギザな形に煌めく稲妻なのだ。とはいえ、私たちは決して異常なわけではない。なぜなら、他の物事も私たちと同じだからだ。

「非線形の人生」と破壊的要因

この現実を認めることは、私たちの人生の物語に、本来そこにはないはずの秩序を何世紀にもわたって押しつけてきた従来の考え方に対する非難につながると同時に、一見でたらめに見える日常生活のなかに、私たちの想像をはるかに超えたスリリングなパターンを見出すきっかけにもなるだろう。

それらのパターンを成す根本要素――非線形人生の基本単位――は、私たちの生活に再形成をもたらす日常の出来事である。

私はそれらの出来事を破壊的要因と呼んでいる。

最も驚くべきは、それらはどんな人の予想もはるかに超え、多くの人の人生に頻繁に見られるという事実である。

まず定義から始めよう。破壊的要因とは、人生における日々の流れを阻害する出来事や経験を指す。

ストレス要因、危機、問題、あるいはこれらの他にも長年にわたり与えられてきたレッテルが存在するが、私が敢えて破壊的要因という言葉を選んだのは、それが価値中立だからだ。

例えば、養子を迎えたり新たな仕事を始めたりするなど、そうした破壊的要因の多くは、これまで否定的には定義されてこなかっただろうが、それでも依然として破壊的であることに変わりはない。

配偶者を失ったり、解雇されたりするなど、慣例的に最もネガティブな人生の出来事でさえ、ときには再出発のきっかけになる場合がある。破壊的要因とは、単なる日常生活からの逸脱なのだ。

私は225編の人生の物語をすべて細かく調べ、人々の人生を有意義な方向に転換させた出来事のマスターリストを作成した。それらの出来事は、結婚から年老いた親の介護まで、解雇からセクシャルハラスメントまで、一夜にして得た名声から公の場での屈辱まで多岐にわたり、破壊的要因の数は全部で52にのぼった。

これは52枚のトランプカード1組を連想させるため、私はこのマスターリストを人生の破壊的要因ワンセットと呼ぶことにした。

私はさらにこのリストを、会話のなかで明確になったおよそ5つのストーリー展開ごとに分類すると、破壊的要素が多いのは、愛、アイデンティティ、信念、仕事、身体という順番になった。

家族や人間関係という大きな領域として定義される愛は全体の35パーセントを占め、そこには明らかに複数の破壊的要素が見られた。残りはすべて10パーセント台にまとまった。

1年から1年半ごとに訪れる転機

では、私たちはそれぞれ、どれほどの数の破壊的要因に出会うのだろう?
公的なデータと自分のインタビューを調べ、この2種類の数値を重ね合わせると、明白かつとんでもない経験則が現れる。

「人は平均して、およそ1年から1年半ごとに、ひとつの破壊的要因に遭遇する」

この発見を第三者に伝えると、彼らは最初に本当? と声を上げ、続いてそうかもねと頷いた。つまりショックとともに、それを受け入れようとする態度を示したのである。

線形人生という名の幽霊に取り憑かれているというのが、今の私たちの姿だと私は信じている。人生は予測可能な道をたどると思い込むため、そうならないと困惑してしまう。

期待する人生は線形だが、現実は非線形なのだ。ある分野は線形である(例えば安定したキャリアを築いたり、長い結婚生活を営んでいたりする)人も、他の分野は非線形だったり(例えば健康問題が再燃したり、宗教的アイデンティティを頻繁に変えたり)する。

私が話したほぼ全員が、人生の少なくともひとつの側面は予定通りに運ばなかったり、進路から逸脱したり、同時発生したり、順序が狂ったりしたと語った。

私たちはみな自分自身と、すでに存在していない理想とを突き合わせ、それが達成できなかったことで自分を責めているのだ。

混沌とした――いわば52種類の破壊的要因カードを引き抜いていく狂気にも似た――人生を生き延びる利点は、それが親からであれ、隣人からであれ、自分自身が与えたものであれ、いわゆる期待というくびきから解放されることにある。

人生にいかに意味を持たせるか


こうあるべきという名の電車は速度を緩め、私たちは誰もが自分で選択を行い、何が私たちに平穏をもたらすのかを自分で決められるのだ。

しかし逆に、人生がより困難なものになるかもしれないという欠点もある。無限の選択肢を前にして何ひとつ選ばず、自分自身の物語を書こうとしても壁にぶつかってしまう可能性が考えられる。

成功と失敗、言い換えれば充実した人生と挫折の人生の分かれめは、自分の人生にいかに意味を持たせるかという課題に、どれだけうまく対処できるのかにかかっている。

【訳者略歴】
郄橋功一(たかはし こういち)
青山学院大学卒業。航空機メーカーで通訳・翻訳業務に従事し、その後専門学校に奉職。現在は主に出版翻訳に携わる。訳書に『自信がつく本』(共訳、ディスカヴァー・トゥエンティーワン)、『エディー・ジョーンズ 我が人生とラグビー』(ダイヤモンド社)、『世界の天才に「お金の増やし方」を聞いてきた』(文響社)など。

(ブルース ファイラー)