「とにかく暑い」とき、快適に旅ができる工夫やアイデアはあるでしょうか(写真:Hakase / PIXTA)

全国で猛暑が続いている。これは今年に限った話ではなく、これからも毎年夏になれば、多少の差はあっても猛烈な暑さに巻き込まれることは不可避だろう。

家から出ない、という選択肢ももちろんある。だが、猛暑であってもそれをある程度回避する術はある。そこで猛暑に打ち勝つための旅行術を考えてみたい。

旅は「自分の行きたいところを目指す」のが本来あるべき姿だろう。だが、日中の気温が体温をも上回る状況では、その考え方を変える必要もあるだろう。

気温が低いのは奥日光

猛暑を避ける旅、として誰もが考えるのが、北海道や高原など、気温の低いところに行くということだ。

だが気象庁が7月25日に発表した北海道地方の「向こう1か月の天候の見通し(07/27〜08/26)」によると、「暖かい空気に覆われやすいため、向こう1か月の気温は高い」「特に北海道太平洋側では、期間の前半は気温がかなり高くなる見込み」という。

7月末の札幌は最高気温が25℃台の日もあったようだが、8月は再び厳しい暑さに見舞われる予想となっている。北海道といえども、熱中症には気をつけなければいけない。

では首都圏から比較的近い避暑地についてはどうだろう。

気象庁のデータで、2023年8月の東京での日最高気温の平均は34.3℃だったが、奥日光(栃木県)は24.7℃と10℃近い差がある。ほかにも草津(群馬県)は25.6℃、田代(群馬県)25.9℃、野辺山(長野県)26.3℃、菅平(長野県)27.1℃と、いずれも30℃には届いていないだけ涼しく感じられるかもしれない。

気温だけでなく、アクセスも重要視するなら、東京駅から北陸新幹線なら1時間強で到着できる軽井沢の優位性は揺るがない。

なお、2024年8月30日から9月12日までの14日間限定だが、北陸新幹線「あさま」の普通車指定席をえきねっとの「トクだ値スペシャル21」で予約した場合、東京駅から軽井沢駅まで50%引きで2910円となる。

ただし、このきっぷは販売数が少なく、出発30日前の午前10時と同時に売り切れてしまう。この激戦をくぐり抜ければ、格安で軽井沢への避暑旅を楽しめるだろう。

涼しいのは山だけではない。海沿いも、気化熱やヒートアイランド現象の影響を受けないことなどから、気温がやや低くなる傾向がある。また南国の沖縄県も、夏のピーク時は首都圏や関西などより涼しいことが少なくない。

たとえば今年7月31日の最高気温を比べてみると、東京は35.6℃、大阪34.9℃だったのに対し、前回の記事でとりあげた千葉県の勝浦は31.1℃、日本最西端の与那国島は32.3℃だった。

交通機関の工夫

暑い場所へ行かなければいけない、という場合には、まず交通機関の選択を吟味したい。一番理想的なのはマイカーないしレンタカーだが、それがかなわない場合には、タクシーをこまめに使うか、短い距離でもバスを使いたい。

鉄道で移動する場合も、地上を走る鉄道と地下鉄が選べるなら、地下鉄を利用する。地下鉄なら、コンコースやホームでもほぼ冷房が効いており、地上の鉄道での暑いホームなどでの消耗を回避できるからだ。

また鉄道やバスを利用するときは、炎天下のホームや停留所ではなく、エアコンが十分に効いた待合室などで待機し、定刻直前に乗車場所へ行くようにする。

電車は、降りる駅のエスカレーター位置に近い場所を事前に調べて乗るようにすれば猛暑のホームを歩く時間を減らせる。

飛行機や鉄道やバスに乗るときは座る位置にも注意が必要だ。

たとえば日中に東海道新幹線や飛行機で東京から大阪に向かう場合、進行方向左側の窓際に座ると、南側から長い間直射日光を浴びる可能性がある。

もちろんシェードを閉めたら回避できるが車窓がまったく楽しめない。素直に右側をおさえたい(新幹線の場合、対向列車とのすれ違いによる風圧の衝撃はあるが)。

朝7時までが勝負の時間

次に1日の時間の使い方だ。

まず、早朝からの行動を旨としたい。幸いこの時期は日の出が早く、日本の多くで朝5時には明るくなっている。気温も7時くらいまでなら比較的過ごしやすいはずだ。

観光施設が開いていないじゃないかという声もあるだろうが、拝観料をとらない神社仏閣や公園、さらに街歩きなら時間の制約がない。多くの店が閉まっているというマイナス点はあるが、最近は朝食を提供するカフェなども少しずつ増えてきており心強い。

なお、朝食が食べられるところを探すときに便利なのが、Googleマップだ。レストランというタブ→他のフィルタ→カスタムで営業時間を選ぶ。ここで曜日と時間を指定すると、そのときに空いているレストランだけが表示されるという仕組みだ。

「食べログ」で検索する際に「朝食」に絞り込むという方法も有効だ。

猛暑のピークとなる日中はどう過ごせばよいのだろうか。

まず、原則として外での観光は回避したい。そして、メインを美術館や博物館、屋内での買い物などに限定する。少し奮発して贅沢で時間のかかるランチにしたり、あえて日中を移動時間に回して、涼しいところで車窓を楽しむ時間と割り切るのも「あり」だろう。

また、近くに銭湯や日帰り入浴が可能な温泉があれば、一度、汗を流すのも手だ。入浴後は、リフレッシュした状態で午後の観光にのぞめる。

朝早く起きたぶん、眠気が襲ってくるはずなので午後を「シエスタ」としてホテルで仮眠するのもいい。「シエスタ」とはスペイン発祥と言われる、長い昼休憩のこと。

暑い日中は外出先からホテルに戻り、汗ばんだ身体をシャワーで流すだけでもかなり快適だ。こうした使い方をするためには、観光の合間にすぐ立ち寄れる場所の宿泊施設を選択することが重要だ。

「シエスタ」を取ったら、日が暮れ始める時間から再始動する。夕方以降に閉まってしまう施設は少なくないが、飲食店をはじめとした繁華街は夕方からがむしろ本番だ。

たとえば京都なら祇園や先斗町は暗くなってからでないと風情がない。ルーフトップバーやテラス席も夜風なら許せるレベルに気温が下がってくることもある。また、最近はライトアップや夜間拝観など、「夜活」できるところが増えてきているのもありがたい。

それでも日中灼熱のなか、歩かなくてはならないケースも出てくるだろう。その場合、まずは地下道やアーケードを探して移動するようにしたい。ショッピングモールなどのなかには通り抜けができる施設もあるので、あらかじめ調べておけば、涼しい中を移動することができる。

屋外の道しか選択肢がない場合、日陰を歩くのは多くの人が実践していると思う。狭い道の場合、日陰を選べばよいが、歩道が左右に分かれている場合は歩く前に日陰ができる方角を想定しておいたほうが無難だ。

街路樹がある場合にはその陰も利用できる。信号待ちなどの際はわずかな時間でも日陰を見つけるようにしたい。

歩く距離が少し長いときは、エアコンが十分に効いたコンビニエンスストアなどで、買い物がてら体の熱を冷まさせてもらう。冷たい飲み物を購入すれば、のどを潤すだけでなく、それを首や腕、額などにあてることで熱を冷ますこともできる。

暑さを乗り切るグッズは?

最後に防暑グッズについても触れておこう。

まず男女問わず用意したいのが傘だ。これは紫外線除けのためというよりも、強い日射を避けるためのものと考えたい。昨今はゲリラ豪雨も多くなっている。折り畳み傘のなかには軽量のものも少なくないので、日帰りで降水確率がゼロであってもカバンにいれておきたい。

ネッククーラーや冷感タオルなど、最近はさまざまな防暑グッズが出ているが、筆者が強く勧めたいのが扇子だ。うちわとちがってかさばらず、しかも軽い。まさに旅行にうってつけの防暑グッズといえる。

手洗い場など、水が得られるところがあったら、こまめに腕や顔、首回りを洗ったり、汗を拭きとったりするだけでも快適度は大きく異なる。

その程度ではこの猛暑に耐え切れない、という場合は洗濯したTシャツを絞り、干さずにそのまま着てしまうという選択肢もある。屋外では気化熱で、しばらくは涼しさを感じることができるだろう。

好むと好まざるにかかわらず、この異様ともいえる夏の猛暑に付き合わざるをえない。となれば、ただ単に耐えるのではなく、それをいかに回避するのか、旅行者一人ひとりの創意工夫が問われている。

(橋賀 秀紀 : トラベルジャーナリスト)