上汽集団は買収したイギリスの老舗ブランド「MG」を主軸にヨーロッパ市場を開拓してきたが、EUの追加関税に足をすくわれた(写真はMGのヨーロッパ向けウェブサイトより)

中国の自動車輸出の拡大に変化の予兆が見え始めた。中国汽車工業協会が発表したデータによれば、2024年上半期(1〜6月)の総輸出台数は279万3000台と前年同期比30.5%の増加を記録した。

その内訳を見ると、EV(電気自動車)およびPHV(プラグインハイブリッド車)の輸出台数は前年同期比13.2%増の60万5000台にとどまり、伸び率が鈍化した。一方、エンジン車の輸出台数は同36.2%増の218万8000台と好調を維持した。

注目すべきなのは、上半期のメーカー別の輸出台数ランキングでトップが入れ替わったことだ。2023年通期のランキングで首位だった国有大手の上海汽車集団(上汽集団)が第2位に後退し、2023年に第2位だった国有中堅の奇瑞汽車(チェリー)が首位に浮上した。

欧州市場での好調が裏目に

奇瑞汽車の上半期の輸出台数は53万2000台と、前年同期比の伸び率は10%にすぎなかった。にもかかわらず首位を獲得できたのは、上汽集団の輸出台数が43万9000台と前年同期比10%減少したためだ。

中国メーカーの輸出が全体として伸びる中、上汽集団はなぜマイナス成長に陥ってしまったのか。背景には、同社の主要な輸出先だったヨーロッパ市場の動向がある。

EU(欧州連合)の政策執行機関である欧州委員会は2023年10月、中国製EVを対象にした反補助金調査を開始。近い将来に追加関税が課されるリスクが高まり、中国製EVの対欧輸出はこの時点から減少が始まった。

その後、2024年7月5日から追加関税の適用が開始され、上汽集団製のEVには(従来の10%の関税に加えて)37.6%の追加関税が上乗せされた。同社は「MG」ブランドの小型EV「MG4」の販売がヨーロッパ市場で好調だっただけに、中国メーカーのなかでも特に打撃が大きい。

上汽集団とは対照的に、2024年上半期の輸出台数を最も大きく伸ばしたのが比亜迪(BYD)だ。同社はエンジン車を生産しておらず、EVとPHVだけで20万7000台を輸出。メーカー別の輸出台数ランキングで第5位に食い込み、前年同期との比較では2.6倍と突出した成長を見せつけた。

BYDは中国からの輸出拡大と同時に、海外の複数の国で完成車工場を建設している。6月末には中央アジアのウズベキスタン工場で現地生産した第1号車がラインオフ。7月4日には東南アジアのタイ工場が竣工した。


BYDは海外に完成車工場を続々と建設している。写真は7月に開催したタイ工場の竣工式典(同社ウェブサイトより)

ほかにも南アメリカのブラジルで工場を建設中で、2024年末の生産開始を目指している。東欧のハンガリーでも工場の建設計画が進んでおり、7月8日にはトルコ工場の建設も発表した。

(訳注:ハンガリーはEU加盟国であり、トルコはEUと関税同盟を締結している。両国でEVを生産すればEUの追加関税を回避できるとみられる)

BYDはブラジル市場を深耕

EUの追加関税の影響は、中国製EVの輸出先の変化からも見て取れる。中国海関総署(税関)の通関統計によれば、2024年1月から5月までのEVおよびPHVの国別輸出先は南アメリカのブラジルが最大となり、ヨーロッパのベルギーを上回った。

(訳注:ベルギーにはヨーロッパ最大の自動車荷揚げ港があり、そこで上陸したクルマがヨーロッパ各国で販売されている)

ブラジルは輸入乗用車に対して35%の高関税を課している。しかしEVは関税が免除され、PHVの関税も優遇措置が得られることから、(EVとPHVを得意とする)中国メーカーにとっては大いに魅力的な市場だ。


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中国勢の中でもブラジル進出に前のめりなのがBYDだ。前述した現地工場の建設とともに、ブラジル国内の販売網の拡大に積極投資している。

ブラジル電気自動車協会のデータによれば、BYDは2024年1月から4月までの間にブラジル市場で2万台以上のEVを販売し、4割を超える市場シェアを獲得した。

(財新記者:余聡)
※原文の配信は7月10日

(財新 Biz&Tech)