新築マンションの値上がり幅を独自調査しました(撮影:一井 純)

今回のコラムは、どの地域のマンションの「値上がり幅が最も大きいか」を調査した結果だ。首都圏と近畿圏で、2001年以降に販売された新築物件全件を対象に、2022年以降に成約した住戸の新築時の価格との比較で、値上がり率を算出した。

「いつ買ったか?」で、値上がり率はかなり違う。直近の相場上昇は2013年の金融緩和に始まり、以降一貫して相場は上昇してきている。そのため、2013年の新築の値上がり幅が最も大きく平均50%になる。一方で、直近の物件ほど経過期間が短いので、小さくなる傾向がある。

この傾向を排除するために、販売年の首都圏・近畿圏の平均値上がり率を引いて、その物件の超過値上がり率を算出する。つまり、その年の中では比較的値上がりした割合を「超過値上がり率」として、これを物件属性で平均して算出している。

首都圏は「都心3区」が強い

まずは首都圏から見てみよう。1位は港区で22.9%。1億円で新築マンションを購入していれば、首都圏平均より2290万円高く売れることを意味する。2位は千代田区の22.7%で、3位は中央区の19.8%と続く。この上位3区は「都心3区」と呼ばれ、オフィスの床面積の50%がここに偏在することから、通勤利便性が非常に高く、つねに人気の高い街になる。

オフィスの偏在では、「都心5区(港区、千代田区、中央区、渋谷区、新宿区)」に面積の2/3が存在する。渋谷区は4位で16.9%、新宿区は11.9%で7位になる。オフィスの近くは資産性がいいのだ。5位は港区に隣接する品川区で14.6%、6位は文京区12.5%だった。


通常、マンションは45mの高さ規制のあるエリアに建てられることが多いので、14階が一般的な階数となりやすい。建物階数が20階以上をタワーマンションと呼ぶが、平均階数が14階を上回るエリアはタワーマンションが多いことになる。タワーは前回記事『やはりタワマン?専門家が語る「損しない家」3条件』で説明したように、通常物件よりも3割ほど資産性が高い。このため、タワーが建ちやすいエリアは資産性でも有利になる。

その恩恵を受けているのが都心3区と見ることもできる。平均建物階数が15階以上なのは、都心3区と9位の豊島区、11位の江東区になる。一般的に、高い建物が建てられる立地がマンション立地で、そうでないエリアは戸建立地になる。戸建立地でのマンションの資産性は総じて低い。

「郊外の星」となった流山

こうした都心有利の状況に、「郊外の星」が生まれている。それは千葉県流山市で全体8位の8.8%となっている。物件数は6と少ないが、総戸数が平均200戸と大規模物件が多い。大規模物件の線引きは200戸以上で、タワーと同じで資産性が高くなる傾向がある。

流山市は全国の市のなかで6年連続人口増加率1位となり、10年で約5万人増加し、15歳以下の年少人口の増加率は全国1位。子育て世代を中心に、人口が増え続けているまちで有名だ。

流山市が子育て世代に人気があるのは明確な理由がある。それは子育てしやすい環境を行政が整え、支援しているからである。

具体的には、「送迎保育ステーション」がある。流山おおたかの森駅と南流山駅に設置された送迎保育ステーションは、朝に預けると保育園まで送ってくれ、夕方は再び送迎ステーションまで返してくれる。

親は毎日駅での行き帰りに子どもを預け、引き取ることが通勤の一環でスムーズに行うことができる。1回100円で利用可能で、利用にあたり審査と面談があるが、お迎えのストレスが軽減し、時短になることからこのサービスに対する評価は非常に高い。

また、保育園の数を15年で5倍に増やし、2021年に待機児童ゼロを達成している。最寄り駅などのアクセスを無視した保育園定員の総数ベースでの待機児童ゼロは、机上の空論でしかない。

筆者が主宰する住まいサーフィンという会員制サイトでは、駅別に0歳児人口と認可保育園定員を比較して入りにくい駅をランキングしているが、こうした実質的にゼロなエリアは非常に少なく、親世代が引っ越しをする際の安心感に結びついていると考えられる。このように、圧倒的な人気で需給バランスが作用して資産性が上がることは非常にまれなケースである。

千葉県のトップは流山市だったが、埼玉県のトップはさいたま市浦和区で2.5%のプラスだった。神奈川県では、横浜市中区1.0%、横浜市西区が0.8%と続くが、首都圏平均をやや上回るレベルにすぎない。都心アクセスがいいエリアのほうが通勤族には受けがいい証拠でもある。

資産性の低いエリアは?

一方、マンションは多く建つものの、資産性が低いエリアもある。千葉県で最も低いのは松戸市の-15.9%で、流山市とは25%近く差がついている。埼玉県では川口市で-11.6%となる。タワーマンションも多く建ち、都心アクセスのいいエリアだが、一般的に資産性は低い。

都下では、トップが武蔵野市で-0.5%とすでにマイナスで、小平市がワーストで-14.8%となる。神奈川県では港北ニュータウンとして人気はある横浜市都筑区が-15.3%と下位に沈んでいる。

近畿圏もマンション立地としては、オフィス街に近いほうが有利になる。1位は大阪市北区で18.8%、2位は大阪市福島区で14.1%、3位は大阪市中央区で12.7%、4位は大阪市西区で11.6%となり、トップ4を大阪市の中心街が固める。


兵庫県では、近畿圏5位の神戸市中央区が10.2%となる。この5位までは首都圏同様、タワーマンションが牽引している。神戸市中央区の平均階数が16階だが、上位4位までは平均18〜21階と格段に高く、ランドマーク性がその資産性の象徴となっている感がある。ちなみに、神戸市は2020年の条例改正で、タワーマンションの新規建設を制限している。

京都市中京区の物件は引く手あまた

近畿圏で、異色ながら資産性が高いのが京都市中京区で、9.8%と6位。京都市では高さ条例があり、高い建物はもう建たない。しかし、その立地の希少性が高い中心部がある中京区では、新築物件が出ると全国から買い手が集まる傾向がある。全国区のピン立地は買い手の宝庫なのだ。

近畿圏でマンション供給は多いが、資産性が-10%超と低い市区は2つある。1つは、神戸市東灘区で-10.4%と低いが、平均建物階数9階で、平均総戸数は49戸と小規模な物件が多い。同様な理由で、西宮市も-10.6%となり、平均建物階数6階で、平均総戸数は71戸と同水準だ。

マンションの資産性は1に立地、2にタワー、3に規模(総戸数)ということは覚えておこう。

(沖 有人 : 不動産コンサルタント)