巨大隕石の地球への衝突が起きるなら、衝突に備えてどう対策するのでしょうか(画像:Merlin74/PIXTA)

「小惑星探査」や「火星移住」などのニュースから、UFO、宇宙人の話題まで、私たちの好奇心を刺激する「宇宙」だが、興味はあるものの「学ぶハードルが高い」と思う人も少なくない。

知らなくても生きてはいける「困らない知識」であるが、「ブラックホールの正体は何なのか」「宇宙人は存在するのか」など考えはじめると、知的好奇心は尽きない。

そんな宇宙の知識を誰でもわかるように「基本」を押さえながら、現代科学でも未解決の「不思議」や「謎」をちりばめたのが、井筒智彦氏の著書『東大宇宙博士が教えるやわらか宇宙講座』だ。

その井筒氏が「巨大隕石が地球に衝突する可能性とその回避策」について解説する。

恐竜絶滅にも影響した「巨大隕石衝突」

巨大隕石の地球への衝突は起きるのか? 起きないのか――?


答えは、ずばり「起きる」でしょう。

太陽系には小惑星がうじゃうじゃ飛び交っていています。なかには地球の周辺をうろつく危険な小惑星もあり、ときどきニアミスします。

じつは6600万年前にも、直径10キロの小惑星が地球に衝突したことがありました。

その被害は、なんと、当時主役であった恐竜が絶滅に追いやられるほど甚大だったのです。

巨大隕石の衝突が「必ず起こる」のならば、問題は「いつ起こるか」「どう対処するか」が重要となります。

まず、「地球への天体衝突」を正しく怖がるために、「隕石とは何なのか」「どれくらいの頻度で地球にくるのか」「衝突に備えてどう対策するか」について説明しましょう。

私たちが恐れている「隕石」の正体は、「宇宙から地球に落下してきた岩石」のことで、その実態は「小惑星」や「彗星」です。

その多くは「小惑星のかけら」ですが、「小惑星そのもの」がぶつかることもあります。「小惑星」といっても、大きさが数百キロメートルに及ぶ巨大なものもあります。

これらの天体が地球に衝突するストーリーは、映画や小説でよく取り上げられる題材ですよね。いつもは何気なく見ている作品も、注意深くみると、小惑星か彗星のどちらが飛来するのか、きちんと描かれています。

ちなみに、映画『アルマゲドン』、小説『終末のフール』は小惑星、映画『君の名は。』『ディープ・インパクト』『ドント・ルック・アップ』は彗星の衝突を描いています。

科学的には両者は別モノです。小惑星は「惑星になりきれなかった岩石のかたまり」。そして、一方の彗星は「氷とチリのかたまり」です。

同じ「隕石」でも、元の天体は全然違うものだということになります。

地球の近くを通る小惑星や彗星が危ない

太陽系に存在する小惑星や彗星は、確認されているだけで、小惑星は100万個以上、彗星は4000個以上あります。そんなにたくさんあるならば、ひとつぐらい飛んできてもおかしくないと思いませんか。

じつは、地球への衝突について考える上では、これらの小惑星や彗星が太陽系内のどこにあるのかが重要になってきます。ほとんどの小惑星は、「小惑星帯」という、火星と木星の間の領域に存在します。

一方、彗星は、もともと海王星の外側の寒い場所でつくられたもので、太陽の重力に引っ張られて遠くからはるばるやってくる天体です。

太陽のまわりを何度も回るものもあれば、太陽に一度だけ近づいて二度と戻ってこないものもあります。

私たちにとって脅威なのは、地球の近くを通る小惑星や彗星です。

もともと小惑星帯にあった小惑星や、海王星の外側にあった彗星が、軌道を変えて地球近辺をうろつくことがあります。

こうした天体は「地球接近天体」と呼ばれていますが、99%以上が小惑星なので「地球接近小惑星」ともいいます。

地球接近小惑星は、現在確認されているだけで3万個以上あります。

そのうち、地球に大接近する軌道をもち、衝突したときに甚大な被害をもたらすものは「潜在的に危険な小惑星」と呼ばれ、なんとその数は2000個を超えているのです。

地球の運命は「重力のいたずら」次第!?

重要なポイントは、小惑星や彗星は太陽の重力だけでなく、惑星の重力にも影響されるということ。

突然、小惑星や彗星がポンッと弾き飛ばされて、地球に向かってくるようになる場合も十分あり得ます。

天文学者のカール・セーガンが「僕らは宇宙の射撃練習場のなかに住んでいる」といっていたくらい、地球の運命は、重力のいたずら次第なのです。

現在、世界中の観測所で危険な小惑星の監視を行っています。

現時点で把握している限りでは、衝突確率が高い小惑星はありません。しかし、観測網をくぐり抜ける小惑星もあるので、100%安心とは言い切れないのです。

2013年、ロシアのチェリャビンスク州に直径19メートルの小惑星が飛来したことがあります。

小惑星は上空で爆発し、その衝撃波が窓ガラスを割って1600人以上のけが人が出ました。この程度のサイズでもかなりの人的被害が出てしまうのに、小さな小惑星を望遠鏡で把握するのは簡単ではないのです。

2019年には、なんと直径130メートルもの巨大な小惑星が地球をニアミスしていたなんていうケースもあります。じつはこのとき、前日まで誰も気づいていませんでした……。

では、危険な天体はどれくらいの確率で地球にやってくるのでしょうか。観測データから算出される頻度は、次のようになっています。

【地球への天体の衝突頻度】

直径1メートル級    10日に1度くらい
直径10メートル級   数十年〜100年に1度くらい
直径50メートル級   1000年に1度くらい
直径10キロメートル級 1億年に1度くらい

このように、小さな天体ほど高い頻度でやってきます。

しかし、たいていは海に落ちるか、地上に落下するとしても人が住んでいない場所がほとんどです。

既出のロシアでけが人を出した、直径10メートル級の天体衝突は、数十年から100年に1度くらい。

6600万年前に恐竜を絶滅に追いやったきっかけは、直径約10キロメートルの巨大天体の衝突でした。

こうした大量絶滅を引き起こすような巨大天体の衝突は1億年に1度くらいの頻度だと考えられています。

巨大隕石VS人類 「5つの秘策」とは?

では、もし危険な天体が地球にやってくるとわかったら、どうすればいいのでしょうか? 

いまのところ、5つの策があります。

【1】核爆弾で破壊する
【2】宇宙船をぶつける
【3】宇宙船を横づけする
【4】帆をつける
【5】地球から逃げる

【1】から【4】までは、NASAも参加する「地球防衛会議」で実際に検討されている話です。実際には、どれくらいの大きさの小惑星がやってくるのか、ぶつかるまでどれくらいの期間があるのかによって、取れる対策は変わってきます。

具体的には次のようなことが検討されています。

【1】 核爆弾で破壊する


核爆弾を使って天体を破壊する(イラスト:村上テツヤ)

1つめの対策は、核爆弾を使って天体を破壊するというものです。

核爆弾を積んだロケットを打ち上げてそのまま天体に命中させるか、映画『アルマゲドン』のように宇宙飛行士が核爆弾を天体表面に埋め込んで起爆させるかどちらかです。

ただ、この方法には大きな問題があります。

危険な天体が地球に近づきすぎていると、バラバラに破壊しても、その破片が世界各地に落下して被害の場所が多くなることが懸念されるからです。

また、いくら地球のためとはいえ、核爆弾を使うのは危険極まりないこと。そんな危険な核爆弾を積んだロケットを、どの国が打ち上げるのか?

失敗したら大変なことになるだけに、問題山積なのです。

【2】 宇宙船をぶつける


宇宙船を命中させて、軌道をずらす(イラスト:村上テツヤ)

2つ目は、天体に宇宙船をぶつけるという策です。

これは、NASAによってすでに実証実験が行われています。

2022年、直径780メートルと直径160メートルの小惑星のペアに対して、重さ600キロの宇宙船をぶつけたのです。

「小さな宇宙船を小惑星にぶつけて破壊するの?」と思った人もいるかもしれません。

しかし、必ずしも小惑星を破壊する必要はないのです。

宇宙船をぶつける目的は、その軌道をずらすこと。小さいほうの小惑星に宇宙船を命中させて軌道を少しでもずらし、重力を及ぼし合う大きいほうの小惑星の軌道をずらすことを目的としているのです。

地球までの道のりが長ければ、わずかな軌道のずれでも地球衝突を回避できる。そういう作戦で、実験は無事に成功し、効果的な方法であることが確認されています。

衝突までに余裕があれば、軌道をずらすことも

【3】宇宙船を横づけする
【4】帆をつける


宇宙船を横づけして、その重力で少しずつ軌道をずらす(イラスト:村上テツヤ)

3番目と4番目も発想は同じです。

天体に宇宙船を横づけして、その重力で少しずつ軌道をずらすという方法。

あるいは、天体に帆をつけて、太陽光の圧力によって軌道をずらすというような方法です。

地球への衝突までに余裕があれば、これらの方法でも十分に回避することができます。


天体に帆をつけて、太陽光の圧力によって軌道をずらす(イラスト:村上テツヤ)

【5】地球から逃げる


地球から離れて、月か火星に逃げる(イラスト:村上テツヤ)

危険な天体の発見が遅れて、気づいたときにはすぐ近くにいたら……諦めて、ダッシュで逃げる! それしかありません。

軌道が正確にわかれば落下地点もある程度予測できますので、危険地帯にいるとわかれば、そこから避難する方法が最も現実的です。

もし地球が丸ごと全部ヤバいとなったら……いよいよ、月か火星に逃げるしかありません。

「地球のピンチ」に世界で協力できるか

でも、実際に月か火星に移住するなんて可能なのでしょうか。

じつは宇宙開発の目的のひとつには、万が一のための「種の保存」も含まれています。現在計画されている月探査や火星探査が順調に進んでいけば、移住は不可能ではないでしょう。


著者の地元広島で「親子で楽しめる著者イベント」を、下記でそれぞれ実施します。
★8月11日(日)「紀伊國屋書店ゆめタウン廿日市店」(詳しくはこちら
★8月12日(月)「ジュンク堂書店広島駅前店」(詳しくはこちら)
★8月18日(日)「啓文社 BOOKS PLUS 緑町」(詳しくはこちら)
★8月18日(日)「廣文館」(詳しくはこちら)

しかし、地球にはたくさんの生き物がいますし、人間が築いてきた文化や文明もあります。

なるべくなら月や火星に逃げることなく、地球に住みつづけていたいというのが本音ですよね。

地球上の生き物の暮らしを守ろうと思うなら、天体衝突も地震や豪雨のような自然災害だと認識して備えることが大事です。

そのためには、世界中で協力し合って危険な天体をなるべく早く検知する「見つける技術」と、衝突を回避する「よける技術」を万全にしておく必要があります。

宇宙開発を通じて世界が手を取り合う良い機会になるといいですね。

(井筒 智彦 : 宇宙博士、東京大学 博士号(理学))