イラスト・まんきつ

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 毎度都知事選を経ると「選挙の意義」というものを考えさせられます。300万円の供託金を支払うことで売名行為ができるわけですね。

 何しろ全国に都知事選ネタは流れる。巨大な県である福岡県や兵庫県であっても、知事選を全国テレビや全国紙が連日報じるなんてことはない。都知事選は、著名人やキャラの濃い候補者が立候補して面白いから取り上げるわけですね。

 全国紙の15段広告を買えば数千万円はするし、地上波テレビのスポットCMだって数百万円はかかる。それを上回る量の告知を政見放送や選挙公報、ポスター、あとは各種報道によってしてもらえるわけだから、300万円なんて安いものです。

 そういったことから、今後、広告代理店がクライアントに「選挙を使ったPR」なんて提案をし始めるのではないかとも思いました。例えば、昨今料理研究家のリュウジ氏が味の素の素晴らしさを力説し、味の素の公式HPにも登場。同社はONE PIECEとのコラボもしていて、本格的なPR活動に打って出ている。

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 ならば公職選挙法に詳しい弁護士をスタッフに入れ、味の素社が自社の社員を業務の一環として出馬させるのは一つの手。もちろん味の素にこうした提案をしているわけではなく、最近私が同社に注目しているから「仮に」の例として挙げているだけです。別にどこの会社でもいいです。

 しかし、「わが社の社員を出すのはなぁ……」という意見が出たら「黙認」という形でリュウジ氏が「味の素う」か「味のも党」を立ち上げ、公約として「味の素を使うことをバカにしたり毛嫌いする風潮をなくし、各人の味覚の多様性を尊重する社会を作る」なんてことを宣言する。

「多様性」と言えば立派なことだとされる社会風潮があるため、この公約だって素晴らしいと捉えられるかもしれない。都知事選であれば、リュウジ氏の知名度に加え、味の素を使っていることを後ろめたく思っていた人々(プロも含む)の共感を得て、30万票ぐらいは獲得するのではないでしょうか。今回田母神俊雄氏が約27万票ですからそのぐらいの実力はあるでしょう。

 さらには味の素の瓶のふたにリュウジ氏の写真付きレシピをつけるキャンペーンも実施してしまう。

 さすがに東証プライム上場企業は選挙をPRに利用しないでしょうが、今回の「何でもアリ」な選挙を見てしまうと、健康食品の会社、羽毛布団の会社などは「目立つが勝ちだ、イェイ!」なんて敢行するかもしれない。

 健康食品会社は「関節の痛みを和らげたり、血圧上昇を抑えたりして、QOLを上げましょう」、羽毛布団会社は「睡眠の質こそ人生の幸せを作る」と、選挙のボリューム世代かつ顧客候補である高齢者に絞ったキャッチコピーを作る。

 あと、ラーメン店がやるじゃないですか。選挙に行った方は味付き玉子1個をサービスするってキャンペーン。他にも「選挙割」として500円クーポンを発行する店舗・企業が出てくるかも。毎度カオスな都知事選、次はそんな展開もあるのでは、なんて妄想してしまいました。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。

まんきつ
1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。

「週刊新潮」2024年7月25日号 掲載