CoCo壱番屋が、ここ3年のあいだに3回目となる値上げを発表した(写真:haku/PIXTA)

CoCo壱番屋を展開する壱番屋が7月11日、「価格改定に関するお知らせ」を発表した。きわめて清々しいプレスリリースだった。それは文字通り値上げをするというもの。このプレスリリースがちょっとした話題になった。というのも、同社はここ3年のあいだに3回目となる、値上げを敢行するからだ。

そこで経過を見てみよう。代表的な値上げ内容は次のとおりだ。

●2024年7月:翌月8月からの価格改定を発表。ベースカレー等、平均10.5%(43〜76円)を値上げ。トッピングの大半を値上げし、値上げ分で平均13.5(5〜50円)

●2024年2月:翌月3月からの価格改定を発表。テイクアウトのカレー弁当を店内価格+54円、タマゴ使用のメニュー商品で+26〜+78円。

●2022年10月:同年12月からの価格改定を発表。ベースカレー平均7.4%(44円)を値上げ。トッピングの大半を値上げし、値上げ分で平均5.4%(5〜20円)

なお、同社は2019年にも2回価格改定を実施しており、2019年以降だと5回目の価格改定となる。

なぜ価格を改定するのか。同社は「各種原材料や光熱費、物流費、人件費など、さまざまなコストが継続的に上昇している」としている。実際に上昇しているのは誰もが知るところだ。


カレー単品の注文なら600円台から食べられるが、ココイチの魅力はトッピング。東京などでは「ポークカレー」に「ロースカツ」で998円になる計算だ。なお、「ポークカレー」に「フィッシュフライ」なら752円なので、トッピング次第では安く抑えることも可能ではある(出所:壱番屋のリリース)

まず、原材料費の上昇が挙げられる。ココイチのカレーにはさまざまなスパイスや食材が使用されており、その多くは輸入品だ。円安が決定的な影響を与えている。食材自体が値上がっているのに加えて、輸送コストの増加もある。原材料のコストが上昇しているのは明白だ。

数カ月前に開催された決算説明会資料(2024年4月)でも通期で原材料の仕入れ価格が17億円も上昇したと発表した。連結で売上高が551億円で、営業利益が47億円の企業(2024年2月期)だからその影響度が大きいとわかるだろう。

なお、その仕入れ価格の影響が大きかったものとして、カレー原料のスパイス(+1億6200万円)だけではなく、豚しゃぶ(+1億700万円)など、さまざまにいたっている。

また、最近の天候不順や異常気象も農作物の価格に影響を及ぼす可能性がある。実際、昨今のアメリカでの牧草の干ばつにより飼育頭数が減少し、輸入牛肉は高騰している。またカレーのベースとなる野菜や穀物の価格が上昇することで、全体的なコストが押し上げられる可能性がある。

また次に、労働費用の増加も重要な要因である。実際に、先に上げた決算説明会資料では人件費の増加は連結営業利益の1億8000万円もの押し下げ要因だった。


「その他」の最新2つは、ともに価格改定に関するものとなっている。さらに続く可能性も…?/出所:壱番屋公式サイト

日本では少子高齢化が進行しており、労働力不足が深刻化している。このため、飲食業界では人材確保のために賃金を引き上げる必要がある。特にコロナ禍以降、アルバイトが離れてしまったあと、ふたたび集めることが難しい状況にある。飲食業の賃金アップのためには、もちろん価格アップが必要となる。コストを負担するためにも、それは必須だ。

値上げの結果

ところで、お客は値上げの結果をどのように受けたのだろうか。同社は前年比率の売上高変化を発表しているので見てみよう。以前の2022年12月、2024年2月を確認したい。

結果でいえば、事実として(前年比率でいえば)影響を受けていないように見える。

一般的に、飲食店の値上げは顧客離れを引き起こすリスクがある。私が知っている企業人に聞いてみても「少しの値上げであっても、お客の離反を招く」と危機感をもっている。その理由としては、日本人が節約傾向にあるからだ。

先日報道されたとおり、26カ月も実質賃金がマイナスになっている。これは名目の賃金が上がっていても、それ以上に物価が上昇していることを意味する。そうすると消費が盛り上がることはなく、消費を控えようとする。

例外的には特別なハレ消費の場合か、付加価値を十分に認めている商品の場合だ。それであれば多少の値上げにも消費者は購買を続ける。CoCo壱番屋の場合、少なくともこれまでの値上げは売り上げに大きな影響を及ぼしていない。お客は一定の価格上昇を受け入れている。

同社は、これまで価格以上の価値を提供していたと認識されている。実際にリピーターが多い。お客との信頼関係を維持する努力も見受けられる。

CoCo壱番屋の値上げは単なる価格改定ではなく、経営戦略の一環として捉えるべきだろう。同社が今後も顧客に愛され続けるためには、価値ある商品とサービスを提供し続けることが不可欠であり、そのための覚悟ある値上げ発表ととらえるべきだ。

CoCo壱番屋の狙い通りになるか

ところで、ここまで比較的に同社を応援するコメントを書いてきた。実際に真摯な経営方針である同社を私は応援している。ただ、あえて注目するポイントを述べたい。

それは客単価「1000円の壁」をすでに突破している同社が、今後、どのようにして客単価を上げていけるか、どこまで上げていけるか、だ。


相次ぐ値上げによって、CoCo壱番屋の客単価は2023年2月期に初めて1000円超えを果たし、1018円となった。

今回の価格改定で言えば、ビーフカレーがライス300gで794円だ。それにトッピングメニューを加えると、ほうれん草252円などで、1000円を超える。チーズ264円であっても超える。これは高いものを意図的に選んでいるわけではなく、もっと高いトッピングがある。

もっとも以前の価格表でも1000円を超える組み合わせはある。ただ、今回の価格改定では、高くないトッピングであっても、トッピングをすれば1000円を超える可能性が高い。それをどう消費者が見るか。

なおプレスリリース「価格改定に関するお知らせ」には「現時点において、価格改定に伴う業績予想の修正はございません」とある。ベーシックなカレーを提供する店としては、普通に食べて1000円を超えるのは、価格設定としては挑戦的のように思える。

ただし、これほど愚直にカレーの基礎を固めてきたチェーン店が価格改定を成功させるのであれば、実質賃金がマイナスの状況において、それを覆す一つの大きな象徴になるかもしれない。その意味でも、CoCo壱番屋の価格改定に注目したい。

(坂口 孝則 : 未来調達研究所)