決算会見では市場関係者から厳しい声が飛んだ。北米事業の持ち直しが焦点だ(写真:今井康一)

「結果が求められる局面」「結果を出してほしい」――。アナリストから厳しい声が相次いだ決算説明会だった。

7月11日、セブン&アイ・ホールディングス(HD)が2025年2月期第1四半期(2024年3〜5月、海外事業は1〜3月)決算を発表した。営業収益は2兆7347億円、前年同期比3.2%の増収で着地した一方、営業利益は593億円と同27%の大幅減益となった。

翌12日、セブン&アイHDの株価は一時、前日終値から8%安の1777円まで下落し、年初来安値を更新。6.5%安の1814円で取引を終えた。

日米どちらもインフレに対応しきれず

今回、大幅減益となった要因は事業の二大柱である、日米コンビニ事業の不調だ。

国内コンビニの既存店売上高は、前期比102.5%を目指す通期計画に対し、3〜5月は前年同期比で100%と横ばいにとどまった。ローソンの同102.8%などと比べても対照的な数値だった。

コンビニはスーパーやドラッグストアなどと比べて商品の価格が高い。中でもセブン‐イレブンは「高品質だがより割高」という印象が強いようだ。実質賃金がマイナスで推移する中、集客に苦戦している。


セブンもセールやキャンペーンを積極的に投入。広告宣伝費は前年同期の85億円から100億円超に膨らんだ。ただし、「値引き時には効果があったが、終了後すぐに売り上げが戻ってしまった」(セブンーイレブン・ジャパンの永松文彦社長)という。

この結果、販促費の膨張がそのまま利益を直撃し、国内コンビニの営業利益は前年同期比5%減の611億円となった。

より深刻だったのは北米事業だった。北米の子会社・セブンーイレブン・インク(SEI)は連結売上高の7割以上を占める中核企業だ。アメリカのインフレは日本以上に激しい。金利上昇やコロナ禍で充実していた各種補助金の終了もあり、消費者の生活防衛意識は強まっている。

北米のセブンーイレブンの顧客はインフレの影響を強く受ける低所得者層が中心だ。仕入れ値の高騰分をそのまま転嫁しない価格政策をとったものの、客数増加にはつながらなかった。たばこの販売も低調だった。

既存店の商品売上高は、第1四半期(1〜3月)は前年同期比4%減と低調。粗利率も同2%減の32.1%となり、北米事業の営業利益は同38%減の2億ドルと厳しい結果となった。

北米の柱、ガソリンは今後苦戦か

北米事業は第2四半期以降も苦戦が予想される。実は、収益の大半を占めるのはガソリンだ。前期は売上高の約75%、粗利益の44%を占めていた。そして、ガソリン販売は市況に大きく左右される。

ガソリン販売による利益(粗利益)は、「ガソリン販売量×1ガロン当たりの粗利額」で算出できる。


インフレの影響でガソリンも買い控えの対象となり、1〜3月の販売量は微減となった。一方で、競合の価格設定やガソリン相場にも左右される「1ガロン当たりの粗利額」は前年同期を6%上回り、ガソリン販売による粗利額は前年同期を上回った。

しかし、第2四半期以降は一層の苦戦が予想される。前2023年度は4月以降、1ガロン当たりの粗利額が急激に高騰していた。今年の4月以降はその「裏年」にあたる。販売量は足元で回復傾向だが、それでも前期並み程度。通期ではガソリン販売による粗利額が減少する可能性は高い。

商品販売も引き続き懸念材料だ。SEIのスタン・レイノルズ社長は決算説明会で「ファーストクオーターとは別の施策をとる。メーカーからの値上げを、より価格に転嫁することで、売り上げと粗利率を伸ばす」と説明している。

現在、アメリカの小売りチェーンのトレンドは「値下げ」だ。大手のウォルマートやターゲットは直近で数千品目の値下げを発表しており、節約志向の消費者にアピールしている。コンビニと業態が異なるとはいえ、ほかの小売りチェーンが価格訴求を強める中、価格転嫁を進めることで「客離れ」につながる可能性も否定できない。

もっとも、セブン&アイHDは今期の為替レートの前提を1ドル=145円としている。足元のドル円相場はそれよりもかなり円安の水準だ。会社は通期で営業増益を見込む業績予想を維持しており、円ベースで善戦する可能性は残されている。

CFO「皆さんのお言葉、心に刻みました」

ガソリンの粗利も、為替も、市況に左右される状況に変わりはない。さらに、会社が成長戦略の柱と位置づける商品販売が計画通りに伸びていないことに対して、市場関係者はいら立ちを隠さない。

説明会に参加したアナリストからは冒頭のように「結果を出してほしい」という声が相次いだ。あるアナリストは「方向性はわかったが、国内も北米も結果をきちんと出してほしい。第2四半期、第3四半期と、それ(結果)がないとつらい」と指摘した。

市場関係者の「苦言」に対し、最高財務責任者(CFO)の丸山好道氏は「皆さんのお言葉、心に刻みましたので、それを胸に取り組みを進めていきたい」と語り、説明会を終えた。

コンビニ事業への集中を進めるセブン&アイHDの経営陣には、一層の覚悟と結果が求められている。

(冨永 望 : 東洋経済 記者)