誰もが年を取るものですが…(撮影:今井康一)

多くの高齢者が気づかないうちに、「老害」になっている。

そう警鐘を鳴らすのは、ソフトバンク元副社長の松本徹三さんだ。

松本さんの新著『仕事が好きで何が悪い!』では、自身の戒めとしている老害三原則を紹介している。気づかないうちにやりがちな老害行動とは? 

著者自身のエピソードも交えつつ、本書から一部抜粋して紹介する。

年配者は職場で嫌がられる?

私は、私自身の世代を含む「65歳を超えた高齢者」の方々に対し、一言で言えば、「悠々自適なんて甘ったるいことを言っていないで、もっと働き続けましょうよ(それはそんなに嫌なことではないはずですよ)」ということを申し上げています。

これに対しては、「そうかな? 我々にその気があっても、年寄りは引っ込んでいてほしいと思っている若い連中は、結構多いよ」という反論が、すぐに出てきそうな気がします。

そうです。現実に「あれは、明らかに老害だよね」といったような「悪口」が、頻繁に囁かれるのも事実ですし、一般的に言って、年寄りが出しゃばるのはあまり喜ばれません。

私自身も、他の高齢者の言動を見ていて、「あ、これは嫌がられるだろうな」と感じることがしばしばありますし、「なるほど、これはまさしく『老害』だな」と思うケースも枚挙にいとまがありません。

もちろん、ネット民の中には、相手が年寄りだというだけで、反射的に「老害」呼ばわりして罵倒する心得違いも多く、私自身も時折その被害に遭って、ムカッとして言い返すこともないではありませんが、「老害」という言葉が適切に使われているケースの方が、やはり多いのは事実のようです。

ですから、全ての高齢者は、まずは「老害」というものの実態について知り、自らはその過ちを犯さないように努力することから始めるべきでしょう。

老害三原則

私は、自分自身を戒める目的も兼ねて、以下を「老害三原則」と名付けています。

1 自慢話をくどくどと繰り返し、意味もなく威張り、時には威圧的な態度を取る(結果として、職場の雰囲気が大きく害される)。

2 自分自身の過去の成功体験にこだわり、これに合致しないやり方を初めから否定する(結果として、革新的なやり方が受け入れられない、活力のない職場になってしまう)。

3 「システム的なアプローチ」とか「デジタル化」とか言った、自分の苦手とするやり方を忌避し、場合によっては敵視さえする(結果として旧態依然たる体制が続き、生産性の向上が進まない)。

これらの「老害」の多くは、外から見ていると極めてわかり易いので、排除することも簡単なように思えるのですが、日本の企業の多くでは、こういう傾向の顕著な人たちが結構権力の座に居座っているケースが多いので、そう簡単には排除できないようです。

そして、それ以上に問題なのは、人間には持って生まれた残念な特質があるということです。

一言で言えば「悪慣習を温存する力学」と言っても良いもので、具体的には、「どんなにひどい被害を受けた者でも、一旦自分自身が加害者の立場になると、なぜか被害者への同情はすっかり失われてしまい、加害者のメリットをフルに享受しようとする傾向がある」ということです。

学校の運動部などの閉鎖社会の中でしばしば行われる「新入部員に対するシゴキ」などがその典型ですが、このような悪癖は代々受け継がれる傾向にあります。

「老害」の実態を反面教師にする

この問題を抜本的に解消するためには、企業の場合は、組織構造や人事制度を抜本的に変える必要がありますが、それについて論じるのは趣旨を違えるので、ここではそれには深入りしないことにします。

むしろ、「世の中に満ち溢れている『老害』の実態は、反面教師として有難い存在」と受け止め、そこから「高齢者のあるべき姿」を模索していきたいと思います。

わかり易い反面教師がいるということは、自分がそうならないために、極めて有利な環境だと言えるからです。

新しい環境の中に飛び込んで、その中で「周囲の多くの人たちに好意を持ってもらうためにはどうすればよいか」を考えるのは、実際にはなかなか大変ですが、「ああはなりたくないな」とか「ああなってはいけないんだよな」というイメージが、もし自分の頭の中にあらかじめ存在していれば、それは極めて有効な第一歩になります。

その意味で、私の「老害三原則」は、何らかの役に立つかもしれません。

成功体験の罠

私の「老害三原則」の第二項目は「成功体験へのこだわり」ですが、これは結構深刻な問題です。これは、前項で述べた、一部の選ばれた「偉い人」だけにあてはまるものではなく、ごく平凡に仕事人生を生きてきた普通の人たちにも当てはまるものです。

平均的な大多数は、「オレ、自慢じゃあないけど、『偉い人』になんかなったことはないよ」と心の中で思い、前項に書かれていることに対しては冷ややかな思いを持たれたかもしれませんが、こちらの方は万人に深く考えて頂かなければならないことです。

人間は弱いもので、失敗したことにはついては、どうしても「早く忘れてしまいたい」という心理が働き、「失敗にこそ学ばなければ」という余程強い意志がないと、実際にすぐ忘れてしまいます。


逆に成功したことについては、ついつい自慢話をしたくなってしまい、自慢話をしているうちに、ますますその快感が膨らんでしまいます。挙げ句の果ては、「またあの話か」と、周囲から密かにうんざりされる、残念な人になってしまうのです。

しかし、それで済むのなら、まああまり害はありませんが、本当に有害なのは、その成功体験とは異なるアプローチを、初めから否定してしまうケースが、こういう人にはままあることです。 

時代はどんどん変わっていき、過去には通用したやり方が全く通用しなくなってしまっていることはしょっちゅうあるのに、これに気づかずに、過去の成功体験にこだわり続ける人が、枢要なポジションに居続ければ、これは大問題です。

「やっちゃあいられないよ」と考える人が続出し、組織はやがて壊滅してしまいます。

(松本 徹三 : ソフトバンク元副社長、ORNIS株式会社会長CEO)