7月11日に最終話が配信された「バチェロレッテ・ジャパン」シーズン3(写真:Amazon Prime)

結婚相談所の経営者として婚活現場の第一線に立つ筆者が、急激に変わっている日本の婚活事情について解説する本連載。今回は、7月11日に最終話が配信された婚活リアリティ番組「バチェロレッテ・ジャパン」について。今回は辞退者が続出するなど異例な展開が話題になっていますが、驚くほど婚活現場と重なる部分があった点について解説します。

恋愛や婚活より仕事に来ているようだった

まるで弊社の結婚相談所を見ているような感覚に陥りました。女性は東京大学を卒業し、経済産業省を経て、現在は宇宙関連ビジネスに関わっている才女で、集まった男性たちも医師や獣医師、IT企業勤務、音楽家などエリート揃い。弊社の相談所にもこうした男女が集まってくるので、とても親近感を持って見ることができました(笑)。

今回は男性の辞退者が相次いだほか、前回と違って最後まで男性同士による激しい争奪戦がなかったり、とロマンス色の薄い展開となりましたが、これはまさに今の婚活現場をそのまま映しているな、と感じました。

まず、バチェロレッテの武井亜樹さんは、ある意味強烈な爪痕を残したと思いますが、番組の趣旨が「婚活」あるいは「誰かと結ばれること」が目的だったとするならば、準備不足だったかもしれません。男性に対して丁寧なものの、心身の距離の取り方が恋愛や婚活というよりは仕事に来ている、という感じが強かった。

最初は婚活にノリノリだった男性も、例えば、「普通」と言われたことに強く反応したり、年上なのに「くん」づけで呼ばれたり、亜樹さんと時間を過ごすにつれて、「こんなことを言ったら不愉快に思われてしまうかも」と臆病になっていったのかもしれません。ハイスペック男子とはいえ、いえ、ハイスペック男子だからこそ拒否されることには慣れていない。上司と部下のような関係では恋愛に発展するのはなかなか難しいのです。

弊社にもバリキャリ女性がたくさんやってきますが、皆さん亜樹さんと同じように「仕事モード」なことが多い。これは彼女たちが悪いわけではなく、今の日本の社会においてはまだ、それくらい気を張っていないと仕事がしにくいということなのかもしれません。

私はそうした女性たちに対して、「小学校4年生に戻ってね」と伝えています。すなわち、自分のしたいこと・ほしいものは素直にハッキリと口にして、時に甘える、ということです。

ただし、これはそう簡単にできることではありません。弊社の会員さんでも鎧を脱ぐのに1カ月くらいはかかる。今回の場合、撮影期間は約1カ月と短かったため、亜樹さんがようやく鎧を脱ぎ始めた状態で番組終盤を迎えてしまったような印象。実際、最後の2人に絞った時点から笑顔なども自然になって柔らかさが出てきました。そう考えると、亜樹さんにとっては少し気の毒な展開だったかもしれません。

年に3、4人現れる「相談所小悪魔」

ちなみに、結婚相談所には年に3、4人「相談所小悪魔」と称される全方位の男性からモテる女性が入ってきます。メークやファッション、話し方などすでに準備が整っているうえ、男性との距離の取り方や付き合い方が抜群にうまい。こういう女性の特徴は、男性に「何かをさせるチャンスを与える」のが上手なことです。

例えばデート中に雨が降ってくれば、「雨が降ってきちゃって濡れちゃうね」と言う。そうすると、男性は「コンビニに行って傘を買ってこようか」「じゃぁ、タクシーを拾おうか」と彼女の要望に対して、具体的な行動に移すことができる。これによって、女性に頼りにされている、という実感を得ることができるのです。

「バチェロレッテ」でも雨の中、2人でフラワーバスに入っている場面がありましたが、あそこで亜樹さんが「濡れちゃうね。タオルを取ってきてくれたら嬉しいな」など言っていたら展開が違っていたかもしれません……。男性のルーツについて話す重要な場面ではありましたが、婚活アドバイザーとしては少々「もったいない時間」と感じました。

今回もう1つ話題になったのが、男性たちの仲のよさや結束感です。ここにも非常に今時を感じました。今の20代くらいの男性が小さかった頃は、例えば運動会のかけっこではみんなで手を繋いで一斉にゴールしたり、劇をすればシンデレラが5人も6人もいたり、仲間と競争をするということをしてきていない。だから誰かを出し抜いてまでほしいものを手に入れようとしないのです。

亜樹さんと花火を見ていた男性が「みんなで花火を見たい」と発言しましたが、そんなところにも恋愛よりも仲間といるほうが楽しいと感じる今の男性の心情が見て取れました。「たられば」になってしまいますが、この仲良しサークルの中に1人でも体育会系の競争心の強い男性がいたらまったく違う関係性になっていたかもしれません。

婚活アドバイザーとしては男女の会話の「具体性のなさ」も今時だな、と感じましたね。例えば、医師の坂口隆志さんは、父親と亜樹さんがリモートで対面する段階になって初めて父親が大阪で開業医をしており、父親は家業を継ぐことを希望している、と伝えます。その後、父親はその希望はあるものの、2人の決断を尊重すると言っています。

実際の婚活の現場であれば、これは最初のデートで話すようなこと。もちろん結婚相談所の目的は結婚なので、男女ともに自分の希望に当てはまる人を探すために早い段階から過去や家族構成、将来の希望など具体的な結婚生活をイメージできるような話を聞くのですが、バチェロレッテではそれにしても終始、男女ともに感情論というか、抽象的な話ばかりをしている印象でした。

唯一、将来に向かって恋愛っぽい会話があったとすれば、第4話の「結婚して3年後の休日」をイメージして亜樹さんの洋服をコーディネートするときに、「僕の奥さんが一番目立っててきれいだぞと、これ位周りの目を引く服を休日に着て欲しいな」という言葉が出ていたくらいでしょうか……。

話をすることで相手との結婚イメージを膨らます

恋愛、あるいは結婚に発展するには会話で相手を知ろうとすることは欠かせません。例えば、最初は「小さい頃はかけっこが速かったの?」など世間話からでもいい。そこからどんどん話を広げて相手のことを掘り下げていく。そこからお互いが結婚しているイメージを高めていくのです。

もちろん、あまりに具体的な話ばかりだとロマンチック感に欠け、番組の趣旨からは離れてしまうかもしれません。それでも今回のバチェロレッテでも、亜樹さんが「待ちの姿勢」ではなく、1人ひとりにもっといろいろな、具体的な質問をして知っていこうとしたら、違う展開が待っていたかもしれませんね。

今回は熱愛度が低いと評される結果となりましたが、1カ月という撮影期間の短さや、それぞれのキャラクターとそのケミストリーなどさまざまな要因があるのでしょう。何より全体的に恋愛スイッチが入っていない温度の低い感じは、現代の恋愛そのものなのかもしれません。

(植草 美幸 : 恋愛・婚活アドバイザー、結婚相談所マリーミー代表)